殺戮
第4話
私の友達が殺された。
それだけの話ではあった。そこまで仲良くはなかったし、その人が死んだことによるショックは少ない。だが、問題は_____
_____伊織が、その殺人事件の犯人として浮上したことだ。
私たちが同棲を始めて八年の月日が流れ、私は十九歳に、伊織は二十歳になっていた。
「……ねえ、本当に殺してないの?」
「俺が聞きてえわ。……お前、喋ってないよな?」
同じ屋根の下で同じご飯を食べながら、私たちはそうやって勘ぐりあっていた。
…私たちがこうなってしまった理由は、私の周りの人物の噂にある。
私がこの前参加した、仲良い女友達の集会的な……まあ、飲み会の中で、信じられない噂が流れてきたのである。
なんでも、私の友達が殺された時、彼女らは現場の近くで伊織を見たのだと言う。
それだけならまだ良かったのだが、なぜか、私の知り合いの中で“伊織は殺し屋だ”という噂が広まってしまったのだ。
そして、女友達の中ではこの殺人事件の犯人は伊織だということで決まってしまった。
そしてそれが伊織の耳にも入り……といった経緯で、今私は彼と睨み合いをしている。
「……稲見が話してないんだったら、なんでお前の友達は俺が殺し屋してることを知ってんだ?」
「そんなん知ったこっちゃないわ。どっかであんたが人殺すとこでも見たんじゃないの?」
睨み合いというか、口論だった。
当たり前だ。今まで保ってきた平穏が、今目の前で崩れ去ろうとしているのだから。
この噂の中には、二つの疑問が残っている。
まず、なぜ伊織が現場の近くで目撃されたのか。
そして、なぜ伊織が殺し屋だという噂が広まっているのか。
……真相がわからないから、余計に伊織には私が秘密を喋ったように見えているだろうし、私は伊織が私に関係する人を殺したように見えている。
いや、別に殺してたっていいのだ。私に関係する人だって知らないことだってあるだろうから。
でも彼は、私に殺人をしたことを隠そうとしているのだ。……何かやましいことでもあったのだろうか?
……お互いが、お互いの約束を破っているように見えていた。
それ即ち、八年前の同棲の“条件”の崩壊を意味する。
私は伊織にいつ殺されてもおかしくないし、伊織は私に社会的に殺されるかもしれない。
お互いが口論をするほどに怯えているのは、そういうことだった。
「……ねえ、本当に。
殺してたって怒らないから、言ってよ」
「だから、殺ってないってば。直近で殺したのは相島ってやつだけ」
……堂々巡りだった。
一向に進行しない話し合いを置いて、伊織が何かを悟ったような顔をする。
_____そして、躊躇いがちに口を開いた。
「……稲見は、俺が殺し屋ってこと、喋ってないよな?」
「当然」
「約束を守れるんだよな?」
「うん」
「……じゃあ。」
伊織はそこで一呼吸置く。
一度目を伏せ、そして…‥挑戦的な眼差しで、こう言い放った。
「……俺が何言っても、聞けるよな?」
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