夢の女神様と添い寝する

@teddy22

第1話 夢の女神様に出会う

僕は夢を見るのが好きだ。

夢というのは、大抵の場合現実から逃避するための場所だ。眠りの中は誰も傷つけることのない自由の世界であり、夢の中では人々はどんなに醜く愚かな欲望に塗れた存在にもなれるし、どんな無茶だってできる。もちろん、現実世界でそんなことが許されるはずはないのだが、夢の中でなら許されてしまう。


 現実世界では決して叶わない願望を叶えることだってできるのだ。

だから僕は、毎日のように夢を見る。

それはどんな夢でもいいわけではない。どんな夢でも、というのは嘘で、本当は嫌いな奴が出てくる悪夢は見たくないし、逆に好きな映画やアニメの世界に入り込めるような夢は何度も見たい。現実と混同してしまうのが怖いので、あくまでも夢は夢として、現実と区別がつくようにしたいのだ。


 しかしそんな都合のいい夢をそう簡単に見られるわけではない。自分が見たい夢を見るにはそれなりの訓練が必要だし、それができる人間は限られる。

僕の場合もそうだった。だから僕は、ある種の才能を持ち合わせているのだろう。

僕は、いわゆる「明晰夢」を見ることができるのだ。

 そしてこの才能のおかげで、僕は今も夢を見ることができている。おかげで日々を生きるのが少しだけ楽になったし、退屈な人生も少しだけ楽しいものへと変わった。

 

 さて、今日の夢はどんなのにしようかな? そんなことを考えているうちに、僕の意識はゆっくりと深い眠りへと落ちていった。



「起きてよ、起きてってばぁ」

ゆさゆさと体を揺さぶられる感触で、僕は目を覚ました。僕が今いるのは広いベッドの中だった。布団はふかふかで暖かく、とても気持ちがいい。自分が今どこ なのかも分からないまま、僕はまた眠りに落ちそうになる。


「ちょっと、無視しないでよ! 起きなさいって!」


 今度はぺちぺちと頬を叩かれる感触がした。あまりにしつこいので渋々目を開けると、目の前には見知らぬ少女の顔があった。

彼女は腰に手を当て、まるで僕を叱るかのように頬を膨らませている。

「もう、やっと起きたわね! せっかくお姉さんが遊びに来てあげたのに!」


 彼女は何やらぷりぷりと怒っている様子だったが、正直言って僕には全く心当たりがない。とりあえず彼女の姿をじっくり眺めてみたけれど、やはり見覚えはなかった。しかしこうして至近距離で見ると、なかなか可愛い顔をしている。小柄で童顔なところがまた可愛らしい。


「えっと……君は誰?」

「誰って、わたしは夢の女神よ! あなたの夢の中に遊びに来たの!」


 どうやら彼女は夢の女神らしい。その割には、服装が可愛らしい黒いパジャマだ。


「どうして僕の夢の中に来たの?」

「それは、あなたの見る夢が好きできちゃった!」

 

彼女はかわいいウィンクしてそう答える。どうやら彼女は、僕が見る明晰夢のファンらしい。それにしても、まさか本物の神様が僕の夢の中に現れるだなんて思いもしなかった。彼女の言葉を鵜呑みにするならば、神様というのは案外暇なのかもしれない


 「それで、今日はどんな夢を見るの? わたしに教えて!」

 

彼女はわくわくとした様子で聞いてくる。僕は少し迷ったけれど、結局正直に答えることにした。どうせ夢なのだから、嘘をつく必要もないだろうと思ったのだ。それになにより、彼女が僕を見つめる目があまりにも純粋だったから、噓をつきたくないと思ってしまったのかもしれない。


「えっと……僕の夢は、現実とは全然違う世界に行くことなんだ。例えば、ファンタジーみたいな世界に行けたりするんだよ」


「えっ! すごーい!」 

彼女は目をキラキラさせながらそう言った。そして僕の方にぐいっと顔を近づけると、興味津々といった様子で聞いてくる。「ねえねえ、どんな世界に行くの?」

「ええと、例えば魔法が使えたりする世界とか」

「楽しそう!」


 彼女は目を輝かせながらそう言った。本当に楽しそうな様子で、見ている僕まで嬉しくなってくるほどだった。僕は思わず照れ笑いを浮かべる。すると彼女もにっこりと笑い返してくれた。そして彼女は僕に抱きついてくると、耳元で囁くように言った。


「じゃあさ、わたしにその夢を見せてよ」

「えっ、僕の?」僕は驚いて聞き返した。すると彼女は大きく頷く。

「うん! だってわたし、あなたの夢をもっと見てみたいんだもん!」

「いやでも、どうやって見せればいいのか分からなくて……」


 僕の答えを聞いて、彼女はにっこりと笑い


「ふっふーん、わたしに任せなさい!とりあえず準備するからちょっと待っててね」


そう言って彼女は部屋を出て行った。しばらくすると、少女は大きな枕を抱えて戻ってきた。僕はベッドの上に座り直し、彼女が来るのを待った。

「お待たせー!」


 数分後に戻って来た彼女は、そのまま僕の隣へと寝転がった。そしてそのまま枕ごとぎゅっと抱き着いてくる。柔らかい感触と甘い匂いが伝わってきて、少しドキドキしてしまう。


「えへへ、あったかいね」


 彼女は嬉しそうに微笑んだ後、枕を抱きしめた。僕もそれに倣い、同じようにして抱きしめることにする。

しばらくそうしていると、だんだんと意識がぼんやりとしてきた。僕は夢の中で夢の神様と添い寝する


「それじゃあ、おやすみ」


彼女がそう囁いた直後、僕の意識は途切れた。

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