4.瞳-アイズ-
シュニスの開かれた金色の瞳がタマキを見つめる。
自身の体を抱くタマキと、そんな彼女を守るように上に重なり吠えたシュニス。
タマキを護るために、シュンスによって現出した樹木は、徐々に突き破ったアスファルトの下へと還っていく。
吠えた姿は、
上体を起こすシュニスに合わせて、タマキもまた上体を起こすと、シュニスはボロボロの体で、吹き飛んで未だ立ち上がらない“異次元生物”を睨みつけた。
「うっ……シュニス、その……」
「タマキ、ごめんね。こわい思いさせて、気持ち悪い思いさせて……そんな顔させちゃって……」
「あっ……や、そのっ……」
シュニスの手が頬を撫でれば、タマキは顔を赤くして狼狽える。
頬を撫でながら親指でタマキの目元、涙が流れた場所を拭い、シュニスはその金色の瞳を細めて、優しく微笑んだ。
タマキの右腕は依然、食いちぎられたままなものの、その“器”の特殊さ故か、痛みは幾分か抑えられていて出血も止まっているらしい。
「よかった……」
「シュニス、そんな眼、してたんだ……」
「力を使いすぎたから逆に眼が開けるのよ。まともに力を持ってる時の私と眼を合わせたら、発狂一直線だしね」
恐ろしい話な気もしたが、しかしタマキにとって、今それはどうでも良いことである。
シュニスの金色の瞳が、タマキを惹きこむ。左頬を撫でるシュニスの手に、くすぐったさを覚えて少し笑みが零れた。
ふと訪れた痛みに僅かに顔をしかめながらも、タマキはシュニスの目を見て呟く。
「綺麗な目……」
そんな言葉に、少しばかり目を見開いてシュニスは驚いた表情を浮かべるも、すぐに優しげに微笑。
だが、ここは戦場である。
いつまでもそうしているわけにもいかないと、立ちあがったシュニスの触手で形成されていた左腕は朽ちていた。
自身の力が弱まっていることを自覚しつつ、残った右手をタマキへと差し出す。
「ありがとう……腕、痛い?」
「うん……でも、平気……一緒だし……」
タマキは無理するように笑いながら、左手でその右手を掴み立ち上がる。
だが、右腕がないことによりバランスを崩したタマキはシュニスの方へともたれかかる形となり、シュニスは力を使いすぎた身体ながらもどうにかタマキを支えた。
結果的に身を寄せ合うような形になりながらも、二人は同時に異次元生物の方へと視線を移す。
倒れていたソレは、不気味に起き上がった。
「うっ……」
「怖かったら下がっていて良いのよ。誰も責めたりしない……タマキはアレと相性が良くないというか、怪我するだけじゃすまないし、私もアレをタマキに近づかせたくないもの」
「……ううん、大丈夫だ。やれる……オレだって」
瞬間───咆哮。
「ぐっ……!」
「くぅ、攻撃開始ィ!」
隊員の一人の声と共に、攻撃が開始される。
タマキとシュニスとナイアーラトテップを除いた全員が遠距離攻撃を始まるが、異次元生物は口部を開き、そこから先に見たピンクの閃光を放つ。
だが、それは“駄々をこねている”が如くであり、顔を四方へと振るいながら放つものだから、まともに誰かを狙ったものではない。
それは隊員一人の腕を切断し、教徒一人の胴体を切断し、さらにはビルをも切断した。
全員が回避を優先し、攻撃の手が止まるが、すぐに起き上がった各自攻撃態勢に入るも……遅い。
「タマキ!」
ラトが叫ぶが、すでに異次元生物は先ほどまでいた地点から跳び───腕を横薙ぎに振るっていた。
先のように伸びた腕。
真っ先に動いたのは意外にもタマキであり、身を寄せていたシュニスを掴んで後ろに押した。
タマキは右腕の断面から触手を伸ばし振るわれた腕を凌ごうとしたが、異次元生物のその腕は刃の如く鋭く薄く変形しており、タマキが伸ばした触手をあっさりと切断し、そのままに加速。
凌ぐことは適わなかったが、タマキはやけにゆっくりと見えるその刃が、後ろに下がらせたシュニスに当たらないことに、どこか安堵する。
前までとまったく違う思考は、闇囁教会での出来事や、そのあとのこともきっと影響しているのだろう。
だからこそ、その“痛み”を……。
「タマキっ!」
シュニスの叫びと共に、タマキは体に浮遊感を感じる。次いで、激しい“
失われた“半身の感覚”と、落下していく身体。
それをやけにゆっくりに感じていたが、不意にそれが止まる。
「たまきっ!」
「しゅに……」
背後から“下半身を切断された”タマキを受け止めるシュニスであったが、次の瞬間にボタボタと音がなる。
───あぁ、中身、出てんだろなぁ。
やけに客観的にそれを感じながら、自身を無理な体勢で受け止めたシュニスが背後に倒れるのを理解した。
普段ならば治るはずの傷も、異次元生物にやられたせいかやけに遅い。挙句に身体の奥の何らかの力が“食われている”ことも理解できる。
おそらく死にはしないのだろう。だが、異次元生物が健在とあっては時間の問題だ。
倒れる音と共に衝撃、背中の柔らかな感触は恐らくシュニスが下になったのだろうと理解する。
すぐに体勢が返られ、シュニスに横抱きにされた。
「タマキっ、タマキ……!」
焦ったようなシュニスの声をタマキはどこか新鮮で意外に思い、思わず笑みを零す。
だが、咳き込むと同時に口一杯の血の味、横を向いてどうにかそれを吐き出すタマキではあったが、呼吸はか細くなっていく。
シュニスの手が両頬に当てられ、しっかりと向き合うような形になる。
眼前の瞳は動揺を隠せておらず、タマキはラトの言うように彼女が“人間”であるということをしみじみと感じた。
やがて、激しい“
「う゛っ、ぎゅぅっ……いぃ゛っ……」
「タマキっ!? ま、待って、リソースが足りてない。やっぱアイツが食ってるから……回復より早く食べられちゃこっちも、でも……!」
「シュブ=ニグラス!」
ナイアーラトテップの叫びに、シュニスはハッとして異次元生物の方を向く。
だが、既に奴はシュニスとタマキの方へと歩き出していた。
「私でも、母体ぐらいにはなれるわ……とりあえずそれで時間を稼いで……タマキを汚させたりなんてっ……!」
タマキよりも純度の高い“神性の器”であるシュニスは、自身にも食いつくはずと考えた故に、立ち上がろうとする。
時間さえあれば、弱体化した自分やタマキよりも戦力になるであろうシノブやシロナが来るはずであると……。
だが立つ寸前、シュニスの腕を誰かが掴む。
考えるまでもない───タマキだ。
「タマキっ……!?」
「や、だっ……」
痛みではない。その表情が訴えるのはもっと嫌悪的なものであろう。
だからこそ、シュニスも決めたはずの覚悟が揺らぐのだ。
異次元生物に……と考えれば、身体の奥底から湧く嫌悪感に身震いする。
だが、タマキを“穢される”よりはよほどマシだとは思っていた。
ふと、異次元生物が走り出すのが見え、シュニスが構えてスカートの下より触手を伸ばすものの……万全の状態と比べるまでもなく遅く、弱々しい。
それであの生物を止められるはずもないのだが、突如───。
「タマキさんシュニスさん下がって!」
「あなたっ!」
隊員の一人が二人の前に出ると、奔りながらも手に持ったライフルを地上に放って、肩から下げていたグレネードランチャーを持つ。
異次元生物が、自らの繁殖の邪魔をする者を排除しようと真っ直ぐに腕を“伸ばす”が、隊員は体勢を低くして前転するようにその攻撃を回避。
それと共に一メートルほどの距離までつめると共に、グレネードランチャーを撃つ。
「ぐぅっ!」
隊員は爆発により吹き飛んで転がるも、その爆発を至近距離で受けた異次元生物はさらに大きく吹き飛んだ。
僅かにダメージは受けたのか、少しばかりぎこちなく起き上がる異次元生物を見て、隊員は自らの攻撃で負った怪我をそのままに叫ぶ。
「攻撃ィ!」
それと共に、隊員たちや教徒から放たれる攻撃。
シュニスはそっと腰を降ろして地に寝かせられたタマキを見やり、視線をおろし再生が明らかに遅い下半身へ。
ゴクリと息を飲むのは、きっと“覚悟”を決めたからなのだろう。
このままよりは、よほど良いのだと……。
「シュブ=ニグラスっ! そっちでなんとかしろよ……こっちも動けない!」
「わかってるわよ……」
ぼやくように言うと、深く息をついてシュニスはタマキの顔の前に自身の顔を運ぶ。
「タマキ、ごめんね……?」
「な、に……?」
彼女の言うことをいまいち理解できないのであろうタマキは、か細い呼吸を続けながら聞く。
だが、今説明してもなんの意味もないし、拒否権もないのだ。
だからこそシュニスは少しずつタマキへと顔を近づけていく。
「しゅ、にす……?」
「少し、人の輪から貴女が外れることにはなるけど、大丈夫……きっといつか、貴女を貴方に戻すから……ね。それまで、“一緒”に……」
「しゅに……」
「タマキのこと、信用してないとかじゃなくて、やっぱり守りたいから、悲しい顔とか辛い顔してほしくないって思ったから……でも、頼っちゃうわね。今答えを聞くのは、卑怯だと思うから……だから後で、なんて言ってくれてもいいから……だから、ごめんね……?」
そっと、シュニスがタマキの唇に自らの唇を重ねる。
タマキが少しばかり目を開くが、すぐにソレを受け入れた。
あの時以来のくちづけ故か、それとも弱っている故か、咥内へと侵入する軟体生物のような舌をあっさりと受け入れる。
タマキの視界に映るのはシュニスの金色の瞳であり、シュニスの視界に映るタマキの黒い瞳は───金色へと変わった。
「ん゛っ、んぅっ……!」
悶えるように声を出すタマキは、身体の奥底から湧き上がるなにかを感じる。
それが悪いものか良いものかはわからないが、自身の身体の、魂のなにかを変えていくのを感じた。
再生する時とは違うナニカ……。
そしてそれは時期に収まって……否、体に馴染んでいき、魂に定着し、タマキは穏やかな感覚に瞳を蕩けさせる。
「タマキ……今の私の、全部をあげる」
「しゅに、す……うんっ……いい、よ……ちょぅ、だい……?」
再度、唇が重ねられた。
二度目のキスは───濃い“
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