3.分岐点-ターニングポイント-
───シュニスが消えた。
最初にアサヒ・ヨダカが行方不明となり、それを追ってユーリ・ヤドリギは姿を消し、挙句にシュニスまでもが姿を消し、彼女……タマキ・シキモリは大きく動揺した。
幸いにも
シュニスと同室であった女性曰く。
『誰も知らぬとなれば、大司祭様にお呼びされたのでは? ここから出るのであれば掲示板に名前があるでしょうし、そうでないということはそういうことだと思います。それはとても名誉なことです。我らがシュブ=ニグラス様の寵愛を得る機会を得たということで……こちらに来て一週間足らずでそのようなこと、異例ですから……きっとタマキさんもお姉さんのように寵愛を受ける日も近いことですよ。きっと』
話している最中に頭が痛くもなったのだが、問題ではない。
タマキなりに推測してみたのだが、大司教に呼ばれたとすれば、アサヒと共にいるので問題もないだろう。だがアサヒが呼ばれた翌日にシュニスが呼ばれたということは、大司教に対する“諸々”が済んでいないこととなる。
……ということは、アサヒは失敗したのだろうか? 自分も色々と動いてみるべきだろうか?
等と考えながら、一日が過ぎた。
「はぁ、今日も、か……」
夜、人気のない廊下を歩きながら溜息をつく。
相変わらず、いくつかの部屋から漏れる嬌声、こんな状況でもなければ聞き耳ぐらい立ててしまいそうだが、それどころではない。
待っていてすべてが終わるならそれでもいいが、妙な胸騒ぎがする。
首につけたチョーカーに触れながら、タマキは再度溜息をつく。
「……ユーリさんも、全然戻ってこないし」
想定しえなかったトラブル、とは思いたくはないが……。
「お姉ちゃん、こんにちは」
「ッ!」
ビクッと跳ねて、声のした後方を見るために振り返れば、そこには昨日の朝、出会った少女。
黒い肌の少女は、額の赤い模様と金色の瞳を、薄暗い廊下に怪しく光らせる。
昨日の、突如消えたということもあり、思わず後ずさるタマキを、不気味な笑顔で少女は笑う。
「ひっ……!」
「おねえちゃぁん、こんな子供に怯えないんだよぉ……男の子なんでしょ?」
「ら、ラトちゃんっ……!?」
タマキは、目の前の少女が常識の向こう側の存在であると理解した。
「な、なんなんだよ、君……」
「お、そっちが素の口調なんだ」
身に纏う黒いぼろ布は、風もないのに揺れている。
「サクラさん、とは違う……よな」
「顕現もできない神の寵愛を受けた神子なんかと一緒にされるのはなぁ……いや、私には私の目的があるんで、とりあえずそんなことはどうでもいいね」
少女の見た目で、少女らしくなく物を語る不気味な子供。
タマキは逃走方法を模索するも、あるわけもない。銃もない、腕でも“切断”されれば抵抗する方法はあるだろうが、そうなるかはわからない。
……というより、目の前の子供が本当に常識の外側の存在なのだとしたら、小手先の戦いで一体なにができるというのか、だ。
いや、そもそも何が目的かもわからない。
敵でなければ、それで良い。いや、それが良い。それを望みたい。
「付いておいでよお姉ちゃん、探してるんでしょ? 会いたいんでしょ?」
「っ……」
なにも答えないタマキに、ラトは相変わらず子供らしくない意味深な笑みを浮かべると、背を向け歩き出す。
先ほどの言葉通りならば彼女に付いて行った先に、自身の探している“三人”がいるのだろうと、タマキは恐る恐ると言った様子で後を追う。
夜ということで明かりが最小限にされている薄暗い廊下を行く。
「お姉ちゃんはさ、どこまで知ってるんだっけ?」
「へっ、ど、どこまでって……な、なにを?」
突然話しかけられ、戸惑いながらも返事したタマキは、そわそわと周囲に視線を泳がしながら歩を進める。
ラトはそんなタマキに悩むような声をあげながら、なにかを考えるような仕草を見せた。
「ん~……わっかんないなぁ、これはガチかぁ?」
「しゅ、シュニスの話?」
「そうだよ。アイツのことも含めての、この
言っている意味が理解できないが、それも今に始まった話ではない。
ラトが曲がるので急いで追うが、しっかりとその姿があり安心しつつ、タマキは階段を下りるラトに続いて行く。
彼女は顔を背後に向けて、“見下すように嗤う”。
「あ~そう、そういうことね。“ああなる”とアイツ、本当に“ホモサピエンス”だなぁ」
「……シュニスの、こと?」
「そうそう、バカになっちゃうっていうかなんていうか……」
階段を降り終えて歩くラトが、少しばかり意外そうな表情を浮かべてタマキの顔を見た。
「いやぁ、別にバカにしてるわけじゃぁないからさ、そんな“不満そうな顔”しないでくれる?」
「え、あ、いや、別にっ……」
焦るように胸の前で両手を振るタマキを相手に、ラトはおかしそうに笑いながら、再度前へと向き直る。
熱くなる顔を両手で押さえて冷やしつつ、タマキはラトの後を追い……やはり、少しばかり不満そうな表情を浮かべた。
「お姉ちゃんって確か、アイツに“男の身体”に再構築してもらいたいとかなんとかだよね」
「なんで知って……いやまぁ、そうなんだけど」
「いやぁ、このままじゃ無理だね」
その言葉に、言葉を無くすタマキ。
「簡単な話だよ。見当違いかな……待っててもアイツの神性なんて戻りやしないのさ」
「……え、そ、そんなっ、シュニスは」
声を荒げようとしたタマキの口に、そっと人差し指を当てるラト。
いつの間に接近したのか、などと考える余裕もないまま、目の前の子供は怪しく笑う。
近くで見た額の赤い模様は、良く見れば宝石のようにも見えた。
「声が大きいよ。ほらこっち」
ラトが明けたのは聖堂の扉で、タマキはラトの後を付いていく。
「力が断絶されてるんだよ。器の許容量内の力は回復しても、その器以上に力は戻らない……この宇宙は少し特殊でさ、あらゆる外からの力を断絶するの、だからシュニスの力はあの器の分のみ。宇宙の繋がりを取り戻しでもしない限りさ」
「な、なんで急にSFなんだよ」
「私ら『外の神』なんだから当然でしょ……この“
真っ暗な聖堂を歩くラトの後ろをついていくタマキは、いまいち彼女の話を理解できていない。
それも当然だ。理解できるわけもない……シュニスは“神”であるが、それは“宇宙生物”の類であると言われたとて、ここ二ヶ月近くシュニスと共にいて……。
いや、と頭を横に振るタマキ。
問題はそこではない。彼女が神であろうと宇宙生物であろうがどうでも良い。ともあれ彼女が“邪神”であることに変わりはないのだ。
ならば目下、気を向けるべき問題は……。
「その、力が断絶っていうのされてたとして、どうやってシュニスは力を取り戻せ───」
「消滅させればいい。この世界を隔離した“存在”をさ」
あまりにスケールが大きすぎる。
待っているだけで済むならば、それほどでもなかった。
味方に“
だが、そうではない。
「どう、やって……?」
「ん~それはね。アイツがもう知ってるんじゃないかな、アイツに聞きなよ……だからさ」
「だからそれが」
聖堂の数段の階段を上ったラトが、その“樹木のようであり山羊のようである像”を調べる。
改めてタマキはその涜神的な像を見れば、なんとも言い難い不思議な感覚に陥ってくることに気づいた。
愛嬌があるようにも見え、なぜだか愛着のようなものすら覚える。
「なんだ、これ……」
「ん、アイツの“
「へ、なんて……?」
タマキの言葉に、悪戯っぽく笑いながら首を横に振るラトが、なにかを見つけたのか“カチリ”と音が鳴った。
それと共に、軽い地響き。
「なっ」
「ん、ほらおいで……私がこんなサービスするなんて珍しいんだよ。人間を“良い方向”に導くのもさぁ……」
怪しく笑い、唇を舌で舐め上げると、ラトは“せり上がる像”を見やる。
そして像がせり上がったそこには───道。
「フフッ、“RPG”みたいでしょ」
「あ、うん……」
おかしそうに笑みを浮かべながら歩くラトに、再度追従する形で歩くタマキは、せり上がった像の真下をくぐり道を歩く。
そこもまた教会の廊下と似ており、赤い絨毯が敷かれ、横の壁にはステンドグラス、その向こうから人工的な“月明かり”が差し込む。
少し進めば、背後の像が下がった音が聞こえて思わず振り返るが、やはり道は閉じていた。
「か、帰りはどうすれば……」
「もう帰りなんてないよ。アイツを見つけて皆殺しにすればいいんだから」
その言葉に、生唾を飲む。
───人なんか殺せるかよっ。
タマキはこの世界においてもあまりに常識的な人間である。善良と言っても過言でもない。
だからこそ、人を殺めるという行為は勿論忌避しているし、この世界であってもタマキ自身は人が人を殺めるところなど見たことがないのだから、当然だろう。
第三機動隊、つまり邪教対策の部隊や、第一機動隊の対邪教の任務などではそういうこともあり、法的にそれが認められているものの……やはり、タマキにとってはそれは禁忌だ。
「あれ、ふぅん……じゃあアイツにやってもらいなよ。できるかしらないけど」
「え、それってどういう意味で」
「こっちこっち」
薄暗い廊下を小走りで駆けだすラト。
そのあとを追って、タマキもまた音を立てぬように小走りで付いていき、真っ直ぐ続いた道に突如十字路が現れれば、そこを右に曲がった。
真っ直ぐでなくて良いのかと思いつつも、彼女についていくしかないので黙っている。
「真っ直ぐ行ったら……あ~今頃はパーティーでもしてるんじゃない。大司教や司教、偉いシスターなんかもいるだろうし、あとは幹部組かな」
「パーティー?」
「そうそう、だから今日、ここが良いわけ。偉い用心棒なんかもそっちに行ってるし」
なにか“良いこと”でもあったのだろうかと思うが、あまり深く聞いても仕方ないことだ。
とりあえず今わかることは、邪教の幹部連中が一か所に集まっているおかげで動きやすく、自分は安心してシュニスを……。
「シュニス、掴まってるってことか?」
「……察しが悪いねぇ。つまりそういうこと、お姉ちゃんの他の仲間もさ」
ふと、首につけたチョーカーに触れる。
姿を見せないアサヒ・ヨダカも、ユーリ・ヤドリギも、ということだろうと、タマキはグッと拳を握りしめて、ラトの隣を駆ける。
「お、やる気になった顔だねぇ」
「あたりまえだっ」
押し殺すような声で言うのは、やはり潜入任務であるからだろう。
警備、いや用心棒とやらもそっちに配置されているのならば早々にシュニスたちを解放して、さっさと大司教がいる場所に乗り込んで制圧あるのみだ。
他にも隠れている仲間たちがいると言う話なのだから、カグヤの面子であればできるとタマキは確信する。
少なからず、初日に会った司教とやらは強い相手には見えなかった。
「そんな不安な顔しなくてもさ、大司教も幹部連中も、ただ私腹を肥やすだけのブタだよ。力なんかありゃしない……ただ言葉巧みなだけさ」
「なら、シュニスたちを早く助けないと……いや、でもなんでシュニスが掴まったりなんて」
「まぁ罠だね。純粋に人質を取られたってわけ」
その言葉に、タマキが顔をしかめる。
「わた……オレかよっ」
「そういうこと~♪ だから君が助けてあげる必要があるんだよ。他にも理由があるけど、そういうこと」
苦々しい表情を浮かべながら、タマキが頷く。
そしてラトが立ち止まったそこには、両開きの扉があった。
同時に止まったタマキがラトの方を向けば、彼女は相も変わらず妖しく、禍々しく笑みを浮かべながら……手を前に出す。
───開けろって、ことね。
生唾を飲み、タマキは左右の扉に手をそえ───れない。
扉は自動的に横にスライドするように開いた。
「へっ……」
完全に意表を突かれ、素っ頓狂な声を出せば、ラトが腹を抱えて隣で笑っている。といっても声は押し殺しているのだが……。
「くっ、くくくくっ、ひひっ、はっ……」
「お前わかって……てかわかりにくいんだよ。今の扉もっ」
「くっ~……! はぁ、はぁ、ひぃ~たのし」
笑いながら進むラトについていくタマキは、景色が変わったことに違和感を感じていた。
先ほどまでの教会の廊下と違い、そこはあまりにも“機械的”で“未来的”である。
何製かはわからないが、真っ白な道と薄暗さは夜の病院を思い出させるし、壁に付いた扉は機械的……いや、むしろ……。
「病院ってより、研究所……?」
「お、いいとこをつくね。まぁどっちもって感じかな」
前を歩くラトが纏うのは黒い布一枚のみで、あまりにもそこには不釣り合いな恰好であった。
だが、そんなこを構うでもなく悠々と裸足のまま道を歩くラトはタマキの方を見るでもないまま喋り出す。
「ん~そういやお姉ちゃんのお友達たちの話なんだけど……会わない方がいいと思うよ。今はとりあえずアイツ優先でさ」
「え、な、なんで……?」
「え~結構エグい拷問の痕とか見たくないでしょ、色々無くなってたりもするし」
なんでもないという風に言うラトの言葉に、タマキは生唾を飲む。
それはアサヒやユーリを思ってというのもあるが、シュニスも同じくだ。
彼女の再生能力は知っているが、だからこそさらに凄惨な拷問を受けている可能性も否めない。
いくら身体は直っても、彼女は確かに“痛みを感じる”こともまた知っている。
呼吸が荒くなり、冷や汗が滲み出る。
少しばかりの怒気が声に籠るも、ラトは別に気にした様子もなく歩く。
「お、行き止まりだね。ということは……?」
「ここに、いるのか?」
「そういうこと」
ユーリやアサヒが気になるが、まずは目の前のシュニスだ。
扉横の端末にラトが手を掲げれば、扉のロックは解除され自動的に開いた。
喉を鳴らし、生唾を飲んで、タマキが足を踏み出す。
そこは廊下よりも暗く視界がまともに働かないような部屋であったが、足を踏み入れるなり即座に明かりが点く。
「っ……」
「お~いたいた」
機械の椅子に、シュニスが座っている。否、拘束されている。
身体の各所が椅子から伸びた鉄の輪により固定されており、服はおそらくなにも着ておらず、布一枚が正面から被せられてのだが、その布はところどころが白い赤い布……ではなく、大部分が赤く染まった白い布であった。
ハッとしたタマキが、反射的にシュニスへと駆け寄る。
「拘束外して! できるでしょ!?」
「え~“邪神”遣いが荒いんだからぁ」
シュニスがゆっくりと顔を上げるが、やはり閉じられた両目は目があったとは言い難いので、並の者なら意識があるかないかもわからないかもしれない。
だがそれでも、視線が合ったことぐらいはタマキとてわかる。
少し驚いたような雰囲気を出すシュニスの拘束具が外れると、シュニスはそのまま前のめりに体を倒す。
「痛っ」
勢いよく尻もちをつくタマキは、しっかりとシュニスを受け止めている。
赤く染まった布がはらりと近くに落ちるが、タマキはしっかりとその胸にシュニスを抱いていて、シュニスは膝を床に付けた状態でタマキの胸に頭を預け、そのまま弱々しく、両手をタマキの背に回す。
シュニスの、所々が赤く染まった長い金色の髪に顔をうずめるタマキ。
「ふふっ、タマキだぁ……」
「うん……」
ギュッと、シュニスの頭を抱く両手に力を込める。
「ごめんっ、オレのせいで……っ」
「なぁに言ってるの、タマキのせいなんかじゃないわよ」
そう言って、弱々しくも力を込めて体勢を整えるシュニス。
その身には傷一つすら残ってはいないが、周囲の痕跡を見るに相当に凄惨なことがあったのだと理解させる。
震えるタマキの手に、安心させるようにそっと手を重ねた。
「大丈夫よ、再生に力使いすぎて、疲れちゃったけどそれだけ……」
微笑むシュニスを前に、タマキは自身の視界が歪むことに気づく。
なんだかツンとした感覚と共に、眼から頬を伝いポロポロと落ちるのは───涙。
緊張の糸が解けたのかなんなのか、タマキは手をシュニスの手の下から引き抜き、袖を使って拭う。
「う゛ぅ゛~……」
「なんで泣くのよぉ」
おかしそうに笑うシュニスをよそに、タマキは嗚咽を漏らす。
そんな彼女の頬にそっと触れて、撫でるシュニス。
「ありがとう、来てくれて……」
「んっ、別にその……いい」
未だ涙目のタマキは赤い顔でそう言ってそっぽを向く。
困ったように眉をひそめながらも嬉しそうに笑うシュニスは、次にラトへと顔を向けた。
突如、空気が張り詰めるが……タマキは戸惑うのみ。
「しゅ、シュニス……こ、この子はちょっとネジが飛んでるけどオレたちのこと助けてくれて」
「お姉ちゃん、結構なこと言うね。ただホモサピエンスの常識の範疇なんか知ったこっちゃないよ。邪神は……そこのはともかく」
シュニスを指差し嗤う。
「やっぱり、貴方だったの───ナイアーラトテップ」
その名を、タマキはどこかで聞いたことぐらいはあった。
知らぬ名前ではない。
天照大御神ほど馴染みないが、タマキの元居た世界にも存在した……物語の神だったはずだ。
「まぁこっちはこっちで目的があるからね。長話はまた今度にしようよ」
「タマキと私を、ここで会わせるのが目的ってわけ……?」
「目的のための布石ってとこかな、そこまで弱ってりゃお前もどうせ選択肢なんてないんだよ。だからさ……食っちゃえよ」
そう言って、ラトは一瞬で“闇に飲まれて”消えた。
タマキはそれを見て言葉を失うが、すぐに首を横に振って息をつき、頷く。
とりあえずシュニスと再会できたのだから、まずやるべきことは、大司教をなんとかすることだ。
───最悪人質にでもして……。
「タマキ……」
「ん、どうした。さっさと逃げよ」
「私、さっきも言ったけど再生に力を使いすぎたの」
その言葉に、タマキは固まった。
言葉をそのままに受け取るならば力を使いすぎたということは、回復を待つしかない。
そしてそうなれば今のシュニスは戦力外になるということだ。
タマキ自身も武器はないし、例の触手とて“腕を切断”される以外に出現させる方法を知らない。
最悪はその方法を取るしかないのだが、切断させるなんて軽く言うがそうできるものでもないだろう。
「じゃ、じゃあどうすれば、待つしか」
「タマキ……ちゅーしましょ?」
……沈黙。
「へ?」
「ちゅーしましょ?」
……再度沈黙。
「な、なに言って……!?」
「タマキの中にある力を私に譲渡してもらいたいの、そうすればある程度は回復するから」
「……な、なるほどっ」
言いたいことは理解したし、そういう“創作物”でキスで回復ってのも無くは無かった。
なので知らないわけでもないのだが、やはりだからといってハイそうですか、と受け入れ難いだろう。しかし、そんな時に頭にチラつくのは未だ姿が見えぬアサヒやユーリ。
早く彼女らを助けようと思えば、それ以外に選択肢はあるまい。
そんな形で彼女と口付けを交わすのは非常に不本意ではあるのだが……。
「う、うん……ど、どうぞ……」
「ありがとう、タマキ」
そう言うと、シュニスが顔を近づけるのだが……タマキは、途中でそんなシュニスの顔を両手でそっと止める。
「ん、タマキ……?」
「い、いやそのっ、き、緊張が……は、はぁーふぅー」
真っ赤な顔で深呼吸をするタマキが、覚悟したような表情で頷いた。
床に座るタマキが、胸の前で両手を握りしめ、眼を閉じる。
シュニスとしては常日頃から男を主張するタマキであったからこそ、『あ、
「い、いいよ……」
「ありがとう、タマキ」
そう言ったシュニスが、ゆっくりとタマキへと顔を近づけていき……そのまま、そっと唇を重ねる。
「……?」
別になにも起きないなと思っていたタマキだったが、さらに身体を近づけるシュニスはそのままタマキの後頭部と背に手を回し……。
タマキの咥内に───舌が侵入する。
「んんっ!!?」
もう遅い。
シュニスの舌はタマキの咥内をかき回し、タマキの舌を絡め取り……タマキは両手で抵抗しようとするも───すぐに開いたその瞳は蕩け、両手も力なく垂れ、ピクピクと時たま反応するぐらいで、ろくに抵抗もしないままシュニスに蹂躙され、冒される。
少しして、シュニスが離れれば、顔を紅潮させ蕩けきった表情のタマキの舌と、シュニスの舌に銀色の糸が伝う。
それがぷつっと切れ、シュニスはその舌で自らの唇を舐める。
「タマキ、かわいい……」
「んぁ、はぁっ、はぁっ……」
肩を上下させ呼吸を荒くするタマキを、珍しく顔をほんのりと赤くしたシュニスが見下ろす。
身長はタマキの方が高いものの、力の抜けたタマキを支えるシュニスが支えているのだから当然で、シュニスはそっとそのまま、タマキを床に寝かせる。
もはや男もなにもあったものではないが、それを指摘すればそれこそ男としての尊厳は粉々に打ち砕かれるであろうことを理解してかしないでか、シュニスはなにも言わない。
そっと手を伸ばし、タマキの頬を撫でる。
「タマキ、もう少しお願いして良い……?」
「ふぇ……?」
ゾクッと、シュニスの背が震えた。初めての感覚に、邪神である彼女が僅かに戸惑う。
「……このままじゃ、わからないから、タマキを守れるか」
「……やだ」
その言葉に、シュニスは黙る。
「わた、お、おれが……守り、たいし……おれは、男、だし……」
未だ言うか、という感じでもあるが、致し方あるまい。
「でも、私が、いやなの、タマキが傷つくところ……見たくない。掴まって酷いことされるのも、考えただけで煮えくり返りそう。だから、お願い」
「んぁっ……」
そっとその頬を撫で、再度言う。
「もう少し、いい……?」
「うぅっ……」
両手を胸の前でいじるタマキであったが、数秒の後、悩むような表情を浮かべてから───頷く。
「ありがとう……あ、でもその前に」
「へ?」
シュニスの手がタマキの首元に伸び、すぐに離れる。
タマキの視界に入ったそれは、ユーリからもらったチョーカーだった。
それをポイッと放り投げたシュニスは、そのままタマキの首に唇を落とす。
「んっ……ゆ、ユーリさんからもらった……っ」
「ダメ、あんなの見たくない……」
チクリとした痛みの後、シュニスの顔が首から離れてタマキの眼前に……。
「タマキ……私の、タマキ」
「ひぁっ、ちょ……しゅに……んんっ」
無機質な機械の部屋、彼女と
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