第9話 テレビもある、ネットもある。


 はぁ……

 実家最高。


「え、嘘!? 第二期アニメ化決定!?」


 ネット使い放題。

 だからずっと観れなかったアニメも見放題。

 朝からずっと、一日中、アマプラとネトフリでここ最近の新作アニメを観まくったわ。

 ママには、「こんな人がたくさん血を吹いて、人が死んでいくアニメなんて胎教に悪くない?」「呪いとか、妖怪とか怖いわよ」「いつまで観てるのこんなの」って文句を言われたけど、そんなことは関係ない。

 居間のテレビを占拠して、とにかく私は観たいアニメをひたすら観るの

 それにしても、相変わらずこのアニメ会社は作画がエグいわね!!

 画面が綺麗すぎる!!

 あと、この先生の顔がやたらいい。

 とにかく、顔がいい。


「おお、これはすごい……実写みたいだなぁ。最近のアニメはすごいなぁ」


 普段時代劇か相撲しか観ないお祖父ちゃんも、いつの間にか一緒になって観ていた。

 1クール分終わった後、お祖父ちゃんは、お茶をずずずっと一口飲んだ後、私の方をじーっと見つめる。


「なぁ、茜よ……」

「何? お祖父ちゃん」

「お前どうして帰ってきた? 向こうで何かあったのか?」

「…………」


 私は家族の誰にも、どうして帰ってきたのか話していない。

 話しようがなかった。

 お母さんもお父さんも、見合いの話を持ってきたお祖父ちゃんだって、私の嫁ぎ先が妖怪の家だったなんて、知らないのだから、仕方がない。

 夫婦喧嘩をしたんだろうって、みんな思ってる。


 確かに夫婦喧嘩をした。

 まぁ、私が帰ってこない旦那様に怒って帰ってきたから、お互いにってわけじゃないんだけど……



「話したくないなら、無理に話せとは言わんがなぁ……子供もいるし、見合いの話を進めたのはワシだからな。もしお前が、このまま離婚でもするってことになれば、あの男を紹介したあの人に文句の一つでも言いたいんだ」


 お祖父ちゃん……

 心配かけてごめん。


 ほんと、私、一周目も二周目でも、お祖父ちゃんに心配ばかりかけてるね。

 一周目の人生では、私は十四歳で死んでしまって、二周目ではお祖父ちゃんが入院していたの知ってたけど、お見舞いに行く前に私が先に死んでしまった。

 三周目の今、やっとお祖父ちゃんを安心させてあげられると思っていたのに……————


「……あの人の紹介なら、いい人に決まっていると思っていたんだがなぁ」


 ……あの人?

 そういえば、私、お見合いの話が来た時、ちゃんと話聞いてなかった。

 とにかく、二周目と同じ間違いを犯したくなくて……

 私には男を見る目がなかったから、お見合いなら確実だと……

 そう思ってたんだけど……


「お祖父ちゃん、その、私にお見合いの話を持って来た人って、誰なの?」


 その人も、旦那様がぬらりひょんだってこと、知っていたのかな?

 もしそうだとしたら、いったいなぜ、私を選んだんだろう……?




 *



「……ここか」


 お祖父ちゃんに教えられた住所の場所へ行くと、そこは小さな神社だった。

 閑静な住宅街のど真ん中に、白い鳥居がポツンと立っている。

 こんなところに神社があったんてまったく知らなかた。


 動かなすぎるのも胎教に悪いから散歩がてら一人で来てみたものの……あまりに静かで、すこし怖い。

 まだお昼を過ぎたばかりなのに、誰ともすれ違わなかったし、車も一台も通っていない。


「神社の名前…………読めないな……なんとか稲荷神社」


 漢字が難しいとかじゃなく、単純に鳥居の中央にある看板がサビなのか、劣化しているのか、古過ぎて文字が読めない。

 かなり古くからある神社なんだと思う。

 五芒星のマークだけは、綺麗にはっきり見えるんだけど……

 お祖父ちゃんの話じゃ、私に見合いの話を持って来たのはここの神主さんの息子さんらしい。


 とりあえず鳥居をくぐって中に入ってみると、賽銭箱の周りを箒で掃除している神主さんらしきおじさんがいた。


「あの……すみません」

「はい?」


 私が声をかけると、おじさんはパッと顔を上げて私の顔をじっと見る。

 そして、急に驚いたように目を大きく開けて、後ずさった。

 それに、顔が急に血の気が引いたように真っ青になっている。


「おおおおおおおお奥様!!? どどどどどどどどうしてここに!?」


 奥様……?


「いったい誰からこの場所を聞いたんですか!? そそそそそそそ総大将に会いに来たんですか!?」


 総大将……?


「だ、だめですよ!! 総大将から、奥様だけはここに入れてはならないと言われているんですから!!!」


 よくわからないけど、ものすごく動揺している。

 それに、総大将ってことは、旦那様のこと?


「……もしかして、旦那様はここにいるの?」


 おじさんは持っていた箒を落とした。


「いいいいいいいいいいいません!!! いませんよ!!」

「絶対いるじゃない」


 私は逃げようとするおじさんの胸ぐらを掴んだ。


「案内しなさい。今すぐに。じゃないと、そのケツに箒ぶっ刺すわよ?」


 おじさんは顔をさらに顔色を悪くする。

 さらに、ボンっと何かが破裂する音が鳴ったかと思うと、おじさんの頭から犬っぽい耳が生えた。

 大きな尻尾も出た。


 ああ、これ……狐の妖怪だわ。



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