だからこそ奴らは殺さねばならんのだ。

「『ゲノム』……?」

「詳しい話の前に、チームメンバーが揃ったんだ。お互い、自己紹介でもしたらどうだ? 命を預け合う仲になるからな」


 命を預ける。この2人に、か。


「ふむ。なら、新入りの前にワシらが名乗るが道理かのう。ワシは吾妻元次郎。よろしくな」

「……アヅマ・ゲンジロウ? 変な名前だな?」

「そう思うのも無理はないわい。何せ、ワシはからのう」

「はあ?」

「まあ、詳しく言うてもややこしくなるだけじゃ。「法国」で司祭をやっていたが、揉めてクビになってのう。行く当てもないところ、ここのクートというおなごにスカウトされたのじゃ」


 クートって言うと、さっきの金髪巨乳の女か。アイツも姉貴同様、『ラグナー』に乗る奴を探していたらしい。

 そう思案していると、次に白髪の男が口を開く。アヅマと違い、その声はか細い。いや、アヅマが声がデカいだけか。


「――――――サイト・ゲッコー。元・帝国軍少佐。以上だ」

「……それだけかよ?」

「ほかに話すことはない。必要以上になれ合うこともな」

「何?」

「まあまあ待て待て。なれ合わんでも、せめて新入りの名前くらいは聞いとかんと、仕事にならんぞ? サイトよ」


 一瞬ピリッとした雰囲気を、すかさずアヅマが宥める。サイトと名乗った男は素知らぬ顔で、俺と視線を合わせようともしない。いけ好かない奴だ。


 なので俺も、いけ好かない奴への対応で返す。


「……ターナー・カット・アロウ。もと王国の冒険者だ。よろしく……なっ!」


 挨拶と同時、サイトの顔面目掛けて蹴りを放つ。


 ガキイイィイィィイインッ!


 鈍い音が、4人のいる部屋にこだました。と同時、蹴りを放った俺の足に、激痛が走る。


「―――――――いってええええええええええええっ!?」

「……短絡的な奴だ」


 足を押さえてのたうち回る俺を、サイトは冷徹な目で見降ろしていた。

 蹴りは奴の腕によって阻まれた。そして、その阻んだ腕と俺の足がぶつかった途端、あの音と激痛だ。


「……お前、義手か……!?」

「やはり冒険者上がりなだけあって、野蛮だな」

「……っ!! 何だと!?」

「お前ら、その辺にしておけ」


 サノウが咳払いして、俺たちを止める。俺は立ち上がり、サイトも姿勢を正した。アヅマは「血の気の多い奴じゃのう」と、肩をすくめている。


「――――――『ゲノム』とは、この世界を滅ぼすためだけに存在する生物だ。この星に産まれ、繁殖も繁栄も目的ではなく、ただ破壊のみを本能とする。この世界の理から外れた怪物なのだ」

「……破壊、だと? そんなことして何になる?」

「何にもならん。奴らは殺さねばならんのだ」


 サノウはきっぱりと言い切った。……ともかく、その『ゲノム』とやらを倒すためには、「勇者」ではなくこの『ラグナー』に乗らないといけないってことか。


「……話は以上だ。明日以降は実際に『ラグナー』に乗って、身体を慣らしてもらう」


 サノウはそう言うと、俺たちを置いて部屋から出て行ってしまった。残された俺たちは、3人揃って3機の『ラグナー』を見やる。


「……お前さんが乗るのは、『ラグナー・オーディン』だな?」

「ああ。そうらしいな」

「ワシが乗るのは『ラグナー・トール』じゃ。あの金色こんじきの奴よ。それで、サイトが乗るのは『ラグナー・ロキ』という。黒い機体じゃな」


『ラグナー』について、アヅマがわかる限りのことを話してくれる。


 まず、この施設は『ラグナー』の研究・開発のための施設であるという事。

 研究所にいるのは、主に3種族。人間、エルフ、そしてドワーフの3種族であるという事。


「小難しい理論については、エルフと一部の人間が。『ラグナー』のパーツを作ることについては、鍛冶に長けたドワーフが。……そして、『ラグナー』を操縦するのはワシら、人間という訳じゃな」


 俺たち人間は、この世界に生きるすべての種族の中で、最も器用だと言われる。武器や道具の扱い、乗り物を操る事。俺を連れてきた馬車の御者も、人間だった。


「……それで選ばれたのが、俺たちってわけか」

「見ればわかるじゃろう? あんなデカブツ、どれだけ複雑な造りで動くのかもわからん。エルフにもドワーフにも、操るには向かんよ」

「だが、あんなのの動かし方なんて、俺はわからねえぞ?」

「――――――それに関しては心配いらないわ」


 女の声がしたので振り向くと、そこにはキュールが立っている。彼女の手には、分厚い本があった。魔法を使う冒険者が持っていた魔術書よりも、はるかに分厚いものだ。

 なんだか、ものすごく嫌な予感がする。


「おい、それ……」

「『ラグナー』の操作マニュアルよ。長くとも3日くらいで、頭に叩き込んでもらうわ」

「……マジかよ……!」


 俺は絶望に満ちた声を上げた。


 ――――――俺は、書物を読んで勉強するのが、大の苦手なのだ。

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