『ラグナー・チーム』が全員揃ったな。

「『ラグナー』……?」

「そうだ。正確には、『ラグナロク・ゴーレム』。俺たちはこいつを、ラグナーと呼んでいる」

「ゴーレム……? って、ちょっと待てよ!」


 ゴーレムと言えば、旧時代に造られたという鉱物生命体。色々と歴史あるもので学者なんかは研究に熱心になっているが、俺からすれば硬いし強いしで倒しづらい敵でしかない。そして――――――。


「ゴーレムって、人型じゃねえか! こいつは、どう見ても……」

「そうだ。この『ラグナー』は、人型じゃない。……完全な姿ではないからな」

「完全な姿……?」

「次に見せたいものがある。こっちだ。お前の紹介もあるからな」


 サノウに促され、俺は『ラグナー』のある部屋を後にする。

 次に連れてこられたのは、階段を昇り上層にある部屋だった。


「――――――あ、!」


 部屋に入るなり、女が駆け寄ってくる。金髪のショートヘアで、かなりの美人。キュールやほかの連中のような白衣ではなく、普通だが露出の多い格好をした娘だった。彼女は俺のことを、じろりじろりと見始める。


「……その人が、最後の1人さん?」

「ああ。クート、他の2人は?」

「呼んだけど、まだ来てないみたい。もう、時間にルーズなんだから!」


 ぷりぷりと怒るクートと呼ばれる女は、くるりと俺の方に向き直った。その顔から怒りは消えている。感情の移り変わりが早いタイプらしい。


「初めまして! 私はクート。パパのお手伝いをやってます」

「……ああ、俺は……」

「ターナー・カット・アロウさんでしょ? おねーちゃんが言ってたもの。よろしくね!」


 クートは俺の手を取って握手をすると、「じゃあね!」と言って出て行ってしまった。嵐のような彼女に、俺はぽかんとする。


「……おねーちゃんってことは、アイツは……」

「キュールの妹だ」

「アンタが父親って言ってたが、アイツらは人間だろ?」

「……山に棄てられていたのを、俺が拾った」


 それだけ聞いて、俺は納得した。恐らくはゲット山脈近くに住む民家が、食い扶持減らしのために棄てたのだろう。貧しい農村では、そんな事象がたびたび起こる。彼女たちも、その一端か。


「そんなことはどうでもいい。ここから下を見ろ」

「下?」


 サノウの言う通りに下を見ると……俺は、言葉を失った。ここからは、先ほど見た『ラグナー』が見える。


 ――――――だが、『ラグナー』は、1つではなかった。同じように、2つ。『ラグナー』が、それぞれ見えるように設置されている。

 色も俺が見たものとは異なり、黒い『ラグナー』と、黄金の『ラグナー』だ。


「さっき、お前は言ったな。ゴーレムは、人型だと。その通りだ。『ラグナー』は、3つのパーツが合体することによって、人型へと変形する」

「合体……だと……!?」

「お前に最初に見せたのは、『ラグナー・オーディン』……3つの『ラグナー』の内、お前が操るマシンだ」


 ……ということは、つまり。


「アレに……乗るのか!? 俺が!?」

「そうだ。アレに乗って、お前が世界を救うんだ」


 


 またこの言葉だ。俺にはさっぱり理解ができない。聖女が定めた「勇者」が必要な魔王関連でもない、且つ、あんなバカでかいゴーレム3機が合体したものに乗る必要がある。


「……その世界の危機ってのは、一体何なんだよ!?」

「それは――――――」


 サノウが口を開くと同時、扉が開く音がする。ぱっと振り向くと、男が2人立っていた。


「博士。すみません、遅れました」

「いやあ、面目ない! 昨日の酒が抜けずじまいでなあ、がっはっは!」


 1人はすらりと背の高く黒いジャケットを着こなした、短い白髪を刈り上げた男。顔には大きな傷があり、相当な修羅場をくぐっているのがわかる。ピシッとした動きの細かい癖には見覚えがあった。恐らく、「帝国」の軍人だ。


 そしてもう1人。コイツは禿げた頭に、たっぷり蓄えた口髭くちひげ顎髭あごひげ。丸々とした体に隠れてはいるが、雰囲気だけで伝わってくる。恐らく、単純な腕力は、俺よりもはるかに上だ。手に持っている錫杖しゃくじょうを見る限り――――――僧侶。それも、武僧という奴だろう。


「お前たち、来たか、ちょうどいい。これで、『ラグナー・チーム』が全員揃ったな」


 サノウは俺たちをぐるりと見まわし、歯をむき出して笑う。


「ターナー、教えてやろう。お前たちが『ラグナー』に乗り、戦う相手。――――――それは、この世界のがんへと至る怪物。……名を、『ゲノム』という」

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