世界を救う唯一の希望――――――その名も、『ラグナー』だ。
突如家に現れた女により積み込まれた家財とともに、俺は馬車に乗って運ばれていた。
馬車に乗っているのは俺と、女の2人だけ。荷物を運んだ屈強な男たちは、その場で雇ったらしい。そのことからも、この女が相当な金持ちであることがわかる。
「……で、何だよ。世界を救う仕事ってのは」
「後でちゃんと説明するわよ」
そんな風に女にぼかされながら、馬車は進んでいく。その方角から、何所へ向かうのかはなんとなく想像がついた。
「……この馬車、ゲット山脈に向かってるのか」
「あら、察しがいいわね」
「冒険者舐めんなよ。それくらいの地理くらいわかる」
ゲット山脈は、世界を分かつ「王国」「帝国」「法国」の国境に位置する、巨大な山脈だ。「王国は北、「帝国」は西、そして「法国」は東側に位置する。
この山脈も、かつてはどの国の領土となるかで、戦争の火種となっていたらしいが、現在この3国間では同盟が結ばれている。
魔王率いる「魔王国」が、共通の敵として現れたからだ。そのため同盟国は争っている場合ではなくなった。それほどまでに、魔王は強力だったのだ。
ゆえに、このゲット山脈の争いも収まり、現在は中立地帯となっている。
馬車は山脈の森を進み、舗装された道から外れた洞窟へと入っていった。
真っ暗な洞窟に付けられたランプを頼りに馬車が進んでいくと、やがて光が見えてくる。
「――――――何ィ!?」
光の先の光景に、俺は目を疑った。
そこにあったのは、巨大な空間だった。どいつもこいつも白衣を着て、忙しそうに歩き回っている。
(いるのは……エルフに、ドワーフ……それに人間か?)
「行くわよ。荷物は部屋に置いておくから」
「お、おう」
女に促され、俺は馬車から降りる。
「キュールさん、お帰りなさい!」
「ただいま」
白衣のエルフが、女に頭を下げて去っていく。ドワーフ、人間も同様だ。どうも彼女は、この空間内でも地位が高い方らしい。
「こっちに来て頂戴。ここの最高責任者に会ってもらうから」
「最高責任者?」
「――――――私の父親よ」
キュールと呼ばれた女は、そうだけ言って足早に進んでしまった。
******
「連れて来たわよ、父さん」
キュールに連れられてきたのは、空間の奥の奥。広々とした空間とは打って変わって狭い。
「……ご苦労。仕事に戻ってくれ」
「ええ、そうするわ。あとはお願い」
……いや、ちょっと待てよ。俺は目の前にいる人物に、疑問を抱くしかない。
キュールは間違いなく人間だ。だが、目の前にいる彼女の父親らしき人物は、長くとがった耳をしている。明らかにエルフであることは間違いない。
エルフであるのだが、その見た目は、施設にいるほかのエルフとは大きく異なっていた。
俺の膝上くらいしかない背丈に、しわくちゃの貌。しかしながら、顔つきは険しい。何よりも肌の色が、若干緑がかっていた。
透き通るような白い肌、美しい顔、高い身長というエルフの種族的特徴とは、似ても似つかない。
「……ジジイ、アンタ……」
「――――――来たな、ターナー・カット・アロウ。俺の名はサノウ。ここの責任者だ」
サノウと名乗るジジイは、娘のキュールにも負けないほど鋭い目つきで、俺を見やる。思わずぎょっとしてしまうほどの迫力だった。
「……い、色々話を聞かせてもらおうか。世界を救うってのは、どういうことかってのをな」
「詳しいことを話す前に、お前に見せるものがある。着いてこい」
サノウはそう言うと部屋を出る。俺も合わせて部屋を出た。小柄故に足幅も狭く、すぐに追い抜いてしまいそうだ。
「……なんなんだよ、ここは」
「この空間は、ある目的のために、何百年もかけて造ったものだ」
「何百年? この山でそんなことしてるなんて、聞いたことねえぞ。大体、ここの取り合いで戦争だってあったはずじゃねえか!」
「国家間の戦争など、山の表面の取り合いだ。ここは入り口から、地下へと潜るように作られている。山の上の戦争など、騒音にもならん」
そんな雑談をしているうちに、俺とサノウは目的の部屋へと着いた。部屋というより、バカでかい倉庫といった感じだが。
「……これは……!」
そこにあったのは――――――見たこともない巨大な物体。
ドラゴンとも引けを取らないサイズに、白銀に赤いラインの入った光沢ある姿は、全身が金属であることを感じさせる。何より、空を飛ぶためであろう翼が、ギラリと光り輝いていた。
「なんだ、こりゃ……!?」
驚く俺に、サノウはニヤリと笑った。
「これが世界を救う唯一の希望――――――その名も、『ラグナー』だ」
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