アンタにしかできない、世界を救う仕事よ。
「……あー、いてててて……」
勇者に叩きのめされた俺は、とぼとぼと帰路についていた。
首にぶら下げていた冒険者のライセンスはもうない。「お前にはもう不要のものだ」と言って、カナに毟り取られた。まったく、あの女は……。
しかし、自分が冒険者でなくなってしまうとは。10年もこの仕事で食ってきて、そんなこと考えたこともなかったぜ。
王国首都の外れにあるスラム街。ゴミ溜めのようなところで、俺は生まれた。生まれた時から街の連中から、俺みたいなスラム出身の者はゴミと同類の様に扱われてきた。
そしてゴミはゴミと争い合う。少しでもマシなゴミになるために。俺はガキのころから、スラムのワルどもと闘って闘って生きてきた。殺らなければ殺られる、そんな厳しい世界だ。
血の気の多いスラム出身者は、ゴロツキになるか冒険者になるか、2つに1つ。町の中で暴れるか、町の外で暴れるか、それだけの違いである。
俺は町の外で暴れまくりたいから冒険者になった。だが、ついうっかり、町の中で暴れてしまった。
その理由は――――――。
「……おじさん!」
「ん」
ふと呼ばれる声がして振り向くと、ポチャッとした汚らしいガキが立っていた。ボロボロで汚れた服から、スラムのガキであることはすぐにわかった。
「よぉ、ケガ、もういいのか」
「おじさんの方がボロボロだよ! いったい何があったのさ」
「いらねえ心配すんなよ。もう終わったからよ」
「でも、おじさん……僕のせいで……!」
「だーかーら、気にすんなっての」
そう言い、俺はガキの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「じゃーな。今度いじめられたら、思いっきり殴り返してやれよ?」
手を上げて、俺はガキの元から歩き去った。
******
俺の家は冒険者ギルドから少し離れたところにある。ギルドがオーナーの、賃貸住宅だ。本来は冒険者専用の借家なのだが、俺は冒険者ギルドを追放されてしまったので、荷物まとめて出て行かなければならない。
なので、荷物をまとめないといけない。と言っても俺の荷物なんぞ、最低限の家具と武器ぐらいしかないのだが。
「……何?」
その荷物が、現在進行形で馬車に積み込まれていた。
「……お、おい! ちょっと、何してんだよ!」
馬車に荷物を詰め込んでいるのは、屈強な男が数人。俺はそいつらのところに駆け寄り、荷物を取り戻そうとした。
「……やっと帰って来たわね」
俺の部屋から声がする。そこにいたのは、腕を組んで立っている、目つきの鋭い女だ。背はすらりと高く、服装は白衣。赤みがかったロングヘアに、身体はスタイルの良さが際立っている。
「……テメエら、何者だ!?」
「貴方、ターナー・カット・アロウでしょう」
女はじろりとこちらを見つつ、男たちに荷物運びの指示を出している。
「なんで、俺の名前を……!」
「ここは貴方の部屋。帰って来たのなら、それは貴方が部屋の住人ってことでしょ」
「……ここで何してる」
「見てわからない? 引越しの準備よ」
女は当たり前のように荷物を運び出させている。彼女と向かい合っている間に、俺の部屋の荷物はすべて運び出されてしまった。
「アンタ、冒険者ギルド、クビになったんでしょ。行くところないならちょうどいいわ」
「ちょうどいい?」
「頼みたい仕事があったのよ。3食ありの住み込み。毎月給料も払う。悪くないでしょ?」
女は白衣のポケットから煙草を取り出すと、人の部屋の中で堂々と吸い始めた。
煙草の煙に、鼻がいい俺は顔をしかめる。
「……頼みたい仕事って、何だよ」
俺の問いかけに、女は口元を歪ませる。そして吸っている煙草を、ピシッと俺に向けた。
「――――――アンタにしかできない、世界を救う仕事よ」
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