魔導機神ラグナー ~3人の追放者と世界最後の日~

ヤマタケ

序章

追放処分なんてものは生ぬるい! この場で叩きのめしてくれる!

「ターナー・カット・アロウ。 お前を冒険者ギルドから追放する!」

「―――――――何だと、このハゲェ!」

「誰のせいでハゲたと思ってんだクソガキィ!!」


 ギルドマスターの顔面に、俺は跳び膝蹴りをくらわせた。

 対してマスターは、俺の跳び膝蹴りを素手で受け止め、空中で押さえる。現役を引退して20年くらい経っているはずなのに、とんでもない筋力をしてやがる。


 顔から足のつま先に至るまで生傷だらけで、日焼けした肌に黒いひげ。そしてつるっつるに髪が抜け落ちた頭は、歴戦の過酷な戦いと苦労を想起させた。


 マスターは俺を放り投げると、俺は空中で回転しながら着地する。そしてそのまま、マスターのボディにパンチをくらわせた。


「ぐふっ!」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ! 俺がいなくなったら、誰がこのギルド引っ張っるってんだ! あぁ!?」

「……お、お前なんかいなくたってなぁ、代わりはいくらでもいるんだよ!」

「ぐえっ!」


 マスターも負けじと、俺の脳天にアームハンマーを落としてくる。


「――――――上等だ、鼻ったれ小僧がァアアアアアアア!!」

「今日こそそのハゲ頭かち割ったらアアアアアアアアアアア!!」


 それからはもう、マスターと俺はひたすらに殴り合った。


******


 「王国」立冒険者ギルドで働く職員の女も、ギルドでクエストを待つ冒険者どもも、誰も止めには入らなかった。俺とマスターの殴り合いのケンカは、この冒険者ギルドでは「いつもの事」だからだ。


 俺はこのギルドの冒険者の一人で、マスターも元現役の冒険者。互いに血の気が多いので、ちょっと何かあるとすぐこんな風に殴り合いのケンカになる。


「……まーたやってるの。マスターとターナー」

「このギルドはこうでなくっちゃ。……でも、寂しくなるわね。もう、この騒がしい声も聞けないのか」

「ああ、そっか。ターナー、もう……」

「ええ。ギルドを追放処分になっちゃったのよ」

「まあ、仕方ないわよねえ。いくら性格が荒っぽいとはいえ……」


 受付嬢の女の子たちは、揃ってため息をついた。


「――――――、そりゃ追放だってされるわよ」


******


「はぁ……はぁ……!」

「ぜぇ……ぜぇ……!」


 5分も殴り合いを続けたころだろうか。俺もマスターも、顔面が真っ赤にはれ上がって、マスターの書斎には血が飛び散っていた。

 ロクに前も見えない状態で、俺たちは近寄り、パンチを叩きこむ。口の中はもう、血の味しかしなかった。


「――――――クソ、ハゲがぁ……!」

「……バカ、ガキめぇ……!」


 ボロッボロになりながら俺とマスターが互いに胸倉を掴み合っていると、書斎の扉が勢いよく開かれた。


「――――――そこまでだ! ターナー!」

「……カナ……!」


 立っていたのは4人の女。中でも俺に剣を向けてきている長い青髪の女は、カナ・クォーバー。

 「王国」最強の冒険者であり、女神の生まれ代わりと言われる聖女に認められた「勇者」と呼ばれる女だ。そして、その周りにいる女たちは、彼女の仲間たちである。仲間と言っても所詮腰ぎんちゃくだから、名前は知らねえ。


「冒険者ギルドに、貴様のような乱暴者は似合わん。追放処分なんてものは生ぬるい! この場で叩きのめしてくれる!」

「……いやお前、俺、今、もう……」

「――――――覚悟しろ!」


 カナは剣を構えると、マスターと殴り合いでボロボロの俺へとずんずんと向かっていく。


 マスターと殴り合い、満身創痍に近い俺が、王国最強の「勇者」に勝てるわけもない。


「―――――――ぎゃああああああああああああああ……!!」


 ワンパンで倒された俺は、ぼろ雑巾の様にギルドの外に棄てられた。

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