055 予定確認
千咲は夜菜にとびきりの笑顔で答える。
「確かに先輩の言う通りだと思います。本当に信じていいのか、本当にこのままでいいのかって思ったことなんて何度もありますよ。不安がないなんて言ったら嘘ですよ」
「千咲ちゃん……」
「でも私は比呂も、総督も、白陰も信じています。信じなきゃ、何も始まりませんから。……まあどちらかというと、そうしないと誰も信じられなくなりそうだから……信じざるを得ないっていうほうが正しいかもしれませんけど……!」
千咲は夜菜に向かってもう一度ニコッと笑う。夜菜はそれを見て苦笑する。
「……やっぱり千咲ちゃんは強いね」
「それ、比呂からも言われましたけど私は違うと思っています。……強いんじゃなくて強がってるだけですよ。そうじゃなきゃ私はすぐダメになっちゃうんで」
千咲は笑顔を保ったまま下を向く。
「それに……私、何度か泣いてますしね」
「……そう」
最近でも愛花や凪たちの前で泣いたばっかである。決して強くなんかないと自分では思っている。
「……でも、いろんな人を信じられる千咲ちゃんはやっぱりすごいのよ」
「そうなんですかね……?」
「そうよ。千咲ちゃんはそれができるから強いんだと思う」
「……」
夜菜の言葉を考え込む千咲。本当にそうなのかは分からないが、夜菜にそう言われるとその通りなのだと思ってしまう。
「……そうですね。そう考えることにします。だから先輩も、もっと強がっていいと思いますよ」
「私にできるのかな?」
「できますよ。私自慢の先輩ですから。何度先輩に助けられたことか分かりませんし」
「ありがとう千咲ちゃん」
今度は夜菜が千咲にニコッと微笑む。それを見て千咲もニコッと笑う。
「……先輩、帰ったら一緒にお菓子作りでもしませんか?」
「あらいいじゃない。そうしましょうか」
こうして2人は白光屋への道を引き続き歩いていた——。
※※
その夜。4人で夕食を食べながら今日の見張りの話を聞いていた。
「ってことは今日は特に何も得られなかったって感じですか?」
「そう、だね」
「毎日のように何かしら情報が得られるわけじゃない。そんな簡単に手に入ってたら苦労しない」
航も比呂も特に表情も変えないまま淡々とそう言う。
「それで、明日はどうするの?」
「明日も行くつもりだ。それで何も得られなかったら仕方ない」
連休は残り2日。これ以降の進展はなしに終わる可能性は十分にある。
「明日は千咲、どうする?」
「私行くよ。……正直暇っていうのもあるしね」
「了解。じゃあ頼んだぞ」
比呂はそのまま食べ終わると、小さくごちそうさまとつぶやいて自分の部屋に戻っていった。
「千咲ちゃん、無理しないでね」
「大丈夫ですよ」
千咲は再びニコッと笑う。昼間の話を思い出すように夜菜もそれに応えて笑う。
「ごちそうさま」
千咲もそう言って立ち上がった。
——部屋に戻った千咲はそのままスマホを持ってベットにダイブ。最近は部屋に戻るとダイブすることが日課である。
スマホを開くと、例の4人グループのチャットに何十件の通知が来ていた。どうやら千咲が夕食を食べている間に会話がいろいろ進んでいたらしい。
1つひとつ内容を追うようにして読む千咲。おおまかに内容を説明すると、鈴と凪が比呂と話をするために予定を合わせる目的でここ2週間ほどの予定を確認し合っていた。それを愛花が興味津々で見ているという状況だった。
『千咲:いろいろ予定合わせてくれて助かるよ』
『鈴:お、千咲っちお疲れ。ただ部活が無い日を聞いてただけだけど』
『凪:お疲れ様です。まさか松野さんが二条さんと話したいと言いだすなんてびっくりしましたけれど』
凪からすれば急に鈴が比呂と話したいと言い出したことに疑問を抱くのは当然のことである。
『凪:でも松野さん全く教えてくれないんで余計気になるんですよね』
『鈴:また機会があったら教える』
『愛花:ね~鈴ちゃん、そんな勿体ぶらずに教えてよ~!』
『鈴:今は嫌だ』
『千咲:私も知りたいんだけどー』
3人揃って鈴に理由を聞こうとしている。鈴がこうして何かを隠しているのは少し珍しいことだ。
『鈴:黙秘します』
『愛花:え~友達に隠し事はダメだよ~』
『鈴:時には必要なことだから』
『千咲:ガードが堅いなー鈴は』
『凪:そうですよ松野さん』
千咲はスマホの前でフフッと笑う。ここ数日の見張りとは違って、友達とこうしてくだらないことをしているのはやっぱり楽しい。
『鈴:とりあえず話を戻そうか』
『愛花:あ~逃げた!』
『鈴:ウチは今週の金曜日なら大丈夫だよ』
『凪:……本当にスルーしましたね。えっと、私も金曜日なら大丈夫ですよ』
この連休が終わるのが水曜日。日付としては5月7日である。
『千咲:本当? その日で良ければ私比呂に確認しておくけど』
『凪:助かります本条さん』
『愛花:ね~それアタシも一緒にいい?』
『鈴:あれ愛花っち部活は?』
『愛花:ちょっとくらいサボってもいいでしょ~』
『千咲:……まあ大丈夫だけど怒られないの?』
『愛花:アタシを舐めてもらっては困るよ!』
『鈴:いや、サボること自体が良くないのよ……』
そんなこんなで愛花も来ることが決定した。場所は前に4人で行ったファミレスらしい。とりあえず比呂に確認は取らなければならないと千咲は思った。
……しかし、まさかあの比呂が女子4人に囲まれる日が来るとは。
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