043 行動開始
「んーー」
翌朝。カーテンから漏れる日差しによって千咲は目が覚めた。まだはっきりとしない意識の中時計を見ると時刻は7時前。目覚ましが鳴る前であった。
連休の初日ということで、まだまだ寝ていたい気持ちを抑えながら千咲はベットから起き上がる。部屋のカーテンを開けると、明るくなったばかりの透き通った青空が広がっていた。
(今日はいい天気だな……)
窓から差し込む朝日を浴びてそんなことを考えながら、クローゼットから服を取り出して着替える。今日はそれなりに動くことを想定して伸び縮みしやすい生地を選んだ。
聞き耳を立てると、既にキッチンからは朝食を作っている音が聞こえる。普段から朝食担当は夜菜である。今日は夜菜以外は外出することもあってか、かなり朝早くから準備しているようだ。
一通り着替え終わった千咲は洗面所で顔を洗った後、リビングに顔を出した。
「——そういうこと言わないでください先輩。……お、千咲か。よく寝られたか?」
「おはよう比呂。ぐっすりだったよ」
ダイニングには既に比呂がいた。出かける準備はとっくに終わっているようで、後は朝食待ちというところだ。
「おはよう千咲ちゃん」
キッチンのほうから夜菜が声をかけてきた。器用にフライパンを動かしながら着々と準備を進めている。
「おはようございます先輩、手伝いましょうか?」
「大丈夫よ。もうすぐできるから」
千咲は普段早く起きると夜菜の手伝いをすることが多い。千咲の料理の腕前はさすがに夜菜には敵わないが、野菜を切る分には割と自信がある。
「2人は何の話をしてたんですか?」
千咲は比呂の隣に座りながら訪ねる。
「実は、あと1週間ほどで航先輩の誕生日なのよ」
「……そうなんですか?」
千咲は航の誕生日を初めて知った。普段から航と話すわけでもないので、知らなくても仕方のないことではあるが。
「それで何かプレゼントするのかって話をしてたのよ。一応私も今回が初めてだから、比呂君に去年はどうしてたのか聞いてたの。そしたら……」
「去年は特に何も渡さなかった」
「とか言ってね。そんなんだから友達付き合いができないのって」
「あーなるほど。……確かに何もなしっていうのはちょっと……」
夜菜の言い分に千咲もうんと頷く。比呂は特に気にしていない様子だ。
「それに比呂君も逆に何も貰ってないって」
「……似たもの同士ですね」
「でも私と千咲ちゃんが増えたわけだから、今年はしっかり用意するつもりよ」
「そうですね。また探しにいきましょう」
とは言っても航の趣味や欲しいものを全然知らない千咲は、果たして決められるのかどうか疑問だった。そこは夜菜のセンスに任せれば大丈夫だということにする。
「さ、できたわよ。千咲ちゃん、皿だけ並べてくれる?」
「いいですよ」
今日は朝から緊迫した雰囲気になっているのかと思いきや案外フラットな感じでいる2人を見て、千咲の心もかなり落ち着いていた。
ちなみに航が起きてきたのは朝食が出来てから10分後。実は航は朝がとても弱い。
※※
「——じゃあ、行ってきます」
「何かあったらすぐに連絡するのよ」
「ありがとうございます先輩」
時刻は朝8時半を回ったところ。夜菜に簡単に挨拶をした千咲は、比呂と航とともに家を出た。まだ朝が早いということもあり白光屋は営業を開始していないので、裏にある小さな出入り口から店を出る。
白光屋の前には総督が乗った車が止まっていた。
「早い時間にすまんね。体調は大丈夫かい?」
総督が運転席に座りながら千咲たちに声をかける。助手席に航、後ろに比呂と千咲が座った。
「3人とも問題ありません」
「良かった。バレットプレートまではおよそ1時間弱はかかるから、それまではゆっくりしているといいよ」
総督はそう言うと、車をそのまま発進させた。世間はゴールデンウィークということもあり、まだこの時間はそこまで道が混んでいない。車はそのままバイパスに入る。
「……総督は今日はどこで待機するんですか?」
千咲が後部座席から前を覗いて総督に尋ねた。
「私は近くにある駐車場にいる予定だよ。バレットプレートから歩いて5分くらいかな」
「私と航先輩はどうします?」
「昨日話した通りだ。まずは3人代わる代わる店の様子を確認したあと、2人は近くにあるカフェから様子を見るのでいいな。どちらかいればいいから、疲れたらどこか休憩に行ってもいい。そのあたりは任せる」
「分かった」
比呂の言葉に千咲も頷く。正直な話、待機している人たちがカフェにいていいのかと思う千咲だったが、ただただ店の前に突っ立っているわけにもいかない。大事なのは、端地勇喜男が行動した時に動けることだ。
「……昨日言ってなかったけど、比呂はどこにいるの?」
「それはまだ秘密だ」
昨日話し合ったときに比呂の居場所までは話題にならなかった。結局どこに待機するのか分からないが、それは比呂のことである。きっと何かいい場所を見つけているのだろう。
ふと千咲のスマホに通知が届く。凪からの新着メッセージだ。昨日の夜凪にメッセージで、「比呂がお話しくらいなら大丈夫だと言っていた」と報告していた。
『凪:ありがとうございます。もしできるのであれば、二条さんが放課後空いている日を聞いておいてほしいです』
『千咲:分かったよー。今日はちょっと忙しいからまた明日にでも連絡するね』
『凪:助かります』
千咲は小さく微笑んでそのままポケットにスマホをしまう。こうして車は1時間かけてバレットプレートに向かっていった——。
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