042 計画

「ただいまー」

「おかえり千咲ちゃん」


 学校で少し愛花たちと駄弁った後ゆったりと帰宅した千咲は、先に帰っていた制服姿の夜菜に挨拶をする。


「そういえば千咲ちゃん、今日の夜比呂から話があるそうよ」

「話ですか?」

「おそらくバレットプレートのことだと思うよ」

「あー」


 明日から連休が始まる。以前白陰本部で話した通り調査に動き出すのだろう。


「……千咲ちゃん、本当に現場に行って大丈夫? なんか無理してる気がするの」


 夜菜が心配そうな顔で千咲を見ている。千咲は少し笑顔を作ってそれに答える。


「大丈夫です。自分で決めたことですから」


 命を狙われた組織に自ら突っ込んでいくわけだから、当然不安が無いと言うほうが難しい。でもここで弱音を吐くことは千咲の頭には無かった。


「そう、千咲ちゃんの覚悟が決まっているのなら私は止めないわ。でも、何かあったら相談するのよ」

「ありがとうございます、先輩」


 千咲は夜菜に一礼して、そのまま部屋に戻った。



 ※※



 ——夕食を食べ終わり、片付けを終えたところで4人は再び向き合った。比呂が広げたパソコンには総督の顔が映っている。


「——じゃあ、明日からの行動計画を立てたいと思うよ」

「分かりました」


 総督含めた5人の表情が一気に引き締まる。いよいよ本格的に行動計画を立てていく。


「まずは先日話した通り、バレットプレートの調査を二条、牧田、そして本条で行うよ。……端地勇喜男の行動や家をある程度把握することができればいいと思っている」

「ずっと店にいることは難しいので、店の近くで待機しますか?」

「そうするのがいいかな。ただ、1つ懸念点があってね……実は昨日に白陰の仲間に店に行かせたんだが、残念ながら臨時休業でね」

「本当ですか総督?」

「うん」

「……ホームページにはそんな情報出ていませんでしたが」


 そう言って自分のスマホを取り出して操作し始めた。比呂はバレットプレートのホームページを開いて千咲たちに見せる。お知らせのページには確かに臨時休業のお知らせは特に表示されていなかった。


「……ただ載せ忘れただけではないの?」


 夜菜が横で首を傾げる。総督や航も同じように疑問符を浮かべている。


「その可能性はあると思います。ただ、これを見てほしいんです」


 比呂はそのページを少しスライドして、過去のお知らせを遡る。


「約半年前のお知らせには臨時休業のお知らせが載っています。そのさらに半年前もありました」

「そうなのね」


 夜菜が納得したようにうんと頷いた。


「よくそこまで調べたね二条……ただそうなると、確かにお知らせが無かったのは不思議だ。昨日何かあったのかそれとも……」

「そこも含めて調査できるといいんですが……。もし店が明日も休業であればその時考えましょう」

「そうだね。……話を戻すが、分担はどうする?」


 総督が改めて比呂に尋ねる。


「基本的に俺が端地勇喜男の行動を監視します。航先輩と千咲は店が見える位置で交代で待機してください」

「……二条は、1人でいいのか?」


 航がそれは大変じゃないかと言いたげな顔で比呂を見ている。


「俺は大丈夫です。正直な話そのほうが楽です」

「二条はそれでいいと私も思うよ。くれぐれも無理しないでほしいけど」

「心配しないでください」


 比呂は集団で行動するタイプではなく、1人で判断して積極的に動くタイプである。比呂の判断は優れているので、よほどのことが起きない限り特に問題はないだろう。


 ——その後細かい話し合いをした後、明日の動きはほとんど定まった。総督との通話を切ったところで、先に航と夜菜が同時に席を立った。


「あ、比呂。ちょっと待って」


 比呂も同様に立ち上がろうとしたところで、千咲がそれを呼び止める。比呂の動きが一旦止まる。


「……どうした?」

「簡単に話したいことがあるんだけど」

「分かった」


 比呂は再び椅子に腰かける。航と夜菜がいなくなったところで千咲は口を開いた。


「……少し前に、銃技部に入ろうか迷ってるって相談したよね」

「ああ。そうだったな」

「あれからいろいろ考えてたんだけど、一応今は入ろうかなって考えてる」


 桃香や凪の話を聞いたうえで悩んでいたものの、やはり諦めきれない自分がいた。自分の置かれている状況があるとはいえ、高校生としての普通の生活がしたいという気持ちは簡単には抑えられなかった。


「そうか。お前がそう決めたならそうすればいい。俺は別に止めない」

「それで、1つ提案なんだけど」

「なんだ?」

「……比呂も銃技部に入らない?」


 千咲の提案に比呂がほんの一瞬だけ目を見開いた。まさかそう言われるとは思っていなかったのだろう。比呂は少しだけ悩む素振りを見せた後、そのまま首を横に振った。


「……俺は入る気はないな」

「実はさ、比呂の実力が銃技部内でも話題になってるらしくて。私の友達も比呂と話したいって言ってるんだよ」


 あれから凪に確認したところ、1年生の中でも比呂の実力を見て興味を持った人はそれなりにいるのだそう。思った以上に比呂の名前は多くの人に知られている。今日鈴たちに彼氏だと勘違いされたのも、千咲と比呂に銃技が上手いという共通点があったことが関係しているのかもしれない。


「……残念だが、俺は部活に興味がない」

「そう……。なら仕方ないね」

「ただ、お前の友達に銃技の話をするくらいだったら構わない」

「本当に?」

「逆にそれで満足するなら俺としても楽だしな」


 決して納得のいく回答ではなかったが、凪のお願いを叶えることくらいはできそうだ。


「ありがとう。また友達に報告しておくね」

「……話は以上か?」

「うん」

「分かった。……今日は早く寝ろよ。明日は朝から動くから」

「そんなこと分かってるって」


 比呂はそのまま席から立ち上がり、廊下のほうに消えていった。千咲は1人、席に座ったままこれからの自分についてあれこれ考えていた。

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