039 学校の協力者

 白陰の本部から帰った4人は、夜菜と航が用事があるとのことで、一度学校まで戻ってきた。正門に取り残された千咲と比呂。


「……帰る?」


 どうしようかと迷っていた千咲は比呂に尋ねる。


「そうだな……せっかくの機会だ。お前に紹介したい人がいる」

「紹介したい人?」

「ああ。前から言っていたこの学校にいる協力者だ。まだちゃんと挨拶してなかっただろ」

「確かにいるって言ってたね」


 比呂はすたすたと歩き始めた。千咲もその後をついていく。まだ時刻は17時半すぎであり、運動場や体育館から威勢のいい声が聞こえてくる。


 昇降口を通った2人は2階上がり職員室へ。比呂は職員室の入り口できょろきょろした後に、失礼しますと言って中に入る。


 千咲がおそるおそるついていくと、比呂はこの学校の教頭先生である川崎昇かわさきのぼるの前で止まった。40代後半であるが、とても若々しく見える。丸眼鏡がとてもお似合いだ。


「お忙しいところ失礼します。教頭、今時間大丈夫ですか?」


 比呂はそう言って、千咲のほうへチラッと視線を動かした。それを見た昇が小さくうんと頷く。


「ええ、いいですよ」


 昇はそう言うと椅子から立ち上がる。


「応接室のほうへ行きましょう」


 昇は応接室の鍵を取り、そのまま職員室を出る。比呂と千咲は昇の後ろを歩いていく。職員室から少し離れたところに応接室がある。昇は鍵を応接室の鍵を開けて扉をガチャリと開いた。


「どうぞ」

「失礼します」

「……失礼します」


 比呂と千咲は応接室へ入る。応接室はソファーが机を挟んで向かい合って並んでおり、まさに談話をする部屋となっている。部屋の中にはいろいろなトロフィーや盾が並べられている。


 比呂と千咲は片方のソファーに座る。昇は、応接室の鍵を中から閉めると、もう片方のソファーに座った。


「こんな時間に申し訳ありません」


 比呂が昇に対して頭を下げる。


「大丈夫ですよ二条さん。……あなたが本条さんですね。改めましてこの学校の教頭を勤めている川崎昇と言います。ずっとお話ししたいと思っていました」

「よろしくお願いします、教頭先生」


 千咲もぺこりと頭を下げた。


「本条さんのことは総督さんのほうから聞いておりました。さぞお辛いことだと思います」

「今はそれなりに大丈夫になりました」


 昇と話すのはもちろん初めてだが、想像以上に低姿勢な教頭だなと千咲は感じた。


「……にしてもびっくりしました。まさか教頭先生が協力者だったなんて。てっきり事務の方とかなのかなと」

「かつて有馬さんにも同じこと言われましたね。私と総督さんはかなり古い間柄でして、白陰の創設当初から協力を頼まれたのです。教頭は学校の様々な仕事を担っていますので、協力するのにはとても都合がいいんですよ」

「そうなんですね」


 白陰の協力者はいろいろなところにいる。総督は相当顔が広かったのだろうか。


「もちろん私にも定年はありますから、いつまでもここにいられるわけではありません。その前に黒陰の真実に近づいてほしいものです」


 昇は小さく微笑む。千咲は昇の優しさに少し感嘆していた。


 ふと隣で比呂がスマホを取り出して、ある画面を昇に見せた。


「……それで話が変わるんですが、教頭はこちらのお店をご存じですか?」

「お店ですか? どれどれ……」


 昇が眼鏡を上げてスマホを覗き込んだ。スマホの画面には先ほど見たばかりのバレットプレートのホームページ。昇はすぐに視線を戻した。


「これはバレットプレートですね。もちろんご存じですよ」

「教頭先生、知ってるんですか?」

「実は教頭は銃のコレクションを集めるのが趣味なんだよ」


 首を傾げた千咲の隣で比呂が答える。昇が同意するようにうんと頷く。


「銃技は得意ではないんですが、銃を眺めるのは好きなんですよ。だから週末はよく銃砲店に行くんです」

「なるほど、だからご存じなんですね……」


 昇の担当教科は英語なので千咲にとっては少し意外な事実だった。銃社会だからこそできるコレクションである。


「それで、この店の店長である端地勇喜男について何かご存じなことはありますか?」

「端地さんですね。私はたまにお話ししますよ。どうかされましたか?」

「実は、先日彼の指紋が付いた銃を見つけまして、今黒陰との関係について調べているところなんです」


 昇は少し目を見開く。昇にその情報は入っていなかったようだ。実は総督は情報を共有する人物を、漏洩を防ぐため最小限に抑えている。そのため意外と伝わっていないことが多い。


「そうでしたか……。とても温厚な方で、銃に関する知識が豊富なんです。裏があるような感じはしなかったのですが」


 昇は少し残念そうな顔をしている。比呂は質問を続ける。


「何か、プライベートに関して聞いたことはありますか?」

「プライベートですか……。残念ながら詳しく聞いたことはないですね」

「そうですか」


 比呂はスマホをポケットに戻す。これはやはりこちらで調べるしかなさそうだ。


「……ただひとつだけ」


 昇は思い出したように口を開いた。


「ちょっと前に聞いたんですが、空いている時間は銃技の練習をするのが好きだとおっしゃってましたね。最近は毎日朝におこなっているんだとか」

「そうですか、ありがとうございます」


 比呂はそう言うと、ソファーから立ち上がった。


「今日は時間とっていただきありがとうございました。今後もよろしくお願いします」

「構いませんよ。二条さんも本条さんも、決して無理しないでくださいね」

「ありがとうございます」


 比呂と千咲はそろって頭を下げる。こうして2人は応接室を後にした。


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