036 普通の休日
「ごめん! ぎりぎりになっちゃった」
校舎から出た千咲は急いで正門前へ。既に鈴と凪の2人が来ていた。
「まだ59分だから大丈夫。……千咲っち、校舎にいたの?」
「あーえっと、ちょっと瀬戸先生とお話ししてて」
「そう、まあいいけど」
鈴は少し首をかしげている。おそらく制服じゃないことを気にしているのだろう。
「そういえば、愛花は?」
たった今14時を回ったが、まだ愛花が来ていなかった。
「本条さん、チャット見てないんですか?」
「チャット?」
「今日は藤倉さん来れないそうですよ」
千咲は急いでスマホを開くと、2件の新規メッセージが届いている。チャットのアプリを開くと、謝罪のスタンプとともに今日来れないことが書かれていた。
「さっき聞いたけど、昨日の夜熱出しちゃったみたい。結構辛そうだった」
「それはお大事にだね……」
「藤倉さんの歌聞きたかったんですけど残念です」
体調を崩したのであればそれは仕方ない。せっかくアイクラの本領を見られるところだったが、それは次の機会に持ち越しだ。
「じゃあ、行こうか」
鈴を先頭にして目的地のカラオケに向かう。千咲は歩きながら、2人の服装を見ていた。2人私服を見るのは今日が初めてである。
鈴は全体的にカジュアル路線でモノトーンな印象、おしゃれな感じはあまりない。上は無地のTシャツ、下はデニムと少し男子っぽさを感じる。
一方の凪はストライプ柄のロングスカートに、少しダボっとした服装をしている。耳には小さめのイヤリングが輝いている。
せっかく女子高校生になったのでもう少しおしゃれをしたい千咲だったが、あまりファッションには詳しくなかった。実は茜もそこまでファッションにこだわるタイプではなかったので、中学の時は特に気にすることが無かった。
いろいろと考えているうちに気づけばカラオケに到着した。鈴が受付した後、3人は小さめの部屋へと移動した。
「それじゃ、誰から行く?」
部屋に入って早々、マイクを持った鈴は2人に尋ねる。
「私やります。この中では結構カラオケ行ってるほうなので。ずっと言ってるように上手ではないので期待はしないでください」
鈴からマイクを受け取った凪はそのまま曲を選び始める。10秒も経たないうちに曲が予約され、イントロが流れ始めた。数年前にヒットしたガールズバンドの曲である。
千咲は凪の歌声を聞きながら、自分は何を歌おうかなんとなく考えていた。ちなみに凪の歌声は千咲的には普通に上手であった……。
※※
約1時間ほど3人で順番に歌ったところで、一旦休憩することにした。歌うまインフルエンサーの愛花がいれば、ノンストップで歌っていたかもしれない。
鈴がお手洗いに行っている間に、タブレットの歌リストを見て悩んでいる凪に声をかけた。
「そういえば凪、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「どうしましたか?」
凪は顔を上げてこちらを見てくる。
「銃技部の活動の様子が知りたいんだけど」
千咲は桃香と話していたことを思い出し、部員の1人である凪に詳細を聞こうとした。
「本条さんから聞いてくるなんて珍しいですね。もしかして入るか悩んでるんですか?」
「……実はさっき瀬戸先生と話したときに勧誘されてさ」
「なるほど。確かに顧問ですからね」
凪は納得したような顔でうんうんと頷いている。
「いいですよ。何でも聞いてください」
「えっと、まず活動日についてなんだけど」
「そうですね、銃技部の活動日は基本火曜日と木曜日です。あとたまに土曜日って感じですね」
「なるほど」
「まだ私も数回しか部活に参加してませんが、内容としては授業で行ったように簡単に射撃練習をした後、精度を高める練習として一からフォームや狙いを改善していく感じですかね。前回は上手な先輩からマンツーマンで教わっていました」
桃香曰く単純に上手になりたい人の集まりと言っていたが、どうやら基礎的な練習をしているということらしい。正直な話、千咲が入れば部活内で一番になれるだろう。
「へぇー。そういう感じなんだー」
「でも、まだこれからいろんな練習をしていくと思います。私の技術もまだまだなので頑張りたいと思っています。でももし本条さんが入ってくれるなら、私教わりたいです」
凪が少し目を輝かせて千咲を見ている。千咲はどうしようかなという顔でその視線を受け止める。
「……ちょっと前向きに考えておくね」
「本当ですか! ……実は1年生の女子が私しかいないんで、入っていただけるととても嬉しいんです」
凪が嬉しそうに喜んでいる。凪がここまで喜んでいる顔を千咲は初めて見た。……まだ入ると決めたわけではないのだが。
千咲はもう一つ思い出したことがあった。
「あのさ、さっき瀬戸先生が言ってたんだけど銃技部に入ると何かメリットがあるの?」
「メリットですか……。銃技が上手になるとかですかね?」
「他にはある? 銃技部だけの特徴とか部員しか知らないこととか?」
「そうですね……ちょっと私には分からないです」
「そうか……ううん、ありがとう」
桃香が言っていたメリット。凪でも分からないということは、千咲自身に関することなのだろうか。果たしてそれは何なのか、答えは入部しなければ分からない。
「何の話してるの?」
お手洗いから帰ってきた鈴が2人の様子を見て尋ねる。
「部活の話。銃技部について聞いててさー」
「千咲っち、やっぱり部活入るの?」
「結局迷っているって感じで」
「私はいいと思う。毎回出られないとしても、所属してるだけでいいんじゃないかな」
「そうだね、ありがとう」
なんやかんやで前向きに考え始めた千咲。改めて比呂にも相談しようかなと考えながら、3人のカラオケを楽しんでいた。
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