026 帰り道
その日の帰り道。千咲は愛花、鈴、凪とともにまだ明るい空の下を一緒に歩いてた。
「——にしても、まさか千咲っちがあんなに上手だったなんて」
「そうですよ。本当にびっくりしました」
「いやー、大したことないから……」
鈴と凪から褒められた千咲は、引き笑いをしながら両手を振っている。実際の話、今まで銃技で友達から褒められた経験が少なかった千咲は少し照れていた。
「昼休みに言ってたことと全然違ったもん! やっぱ誤魔化してたんだね~」
「謙遜なんかしなくていいのに」
「別に悪気があったわけじゃ——」
そう言いかけたところで鈴がバンと背中を叩いた。
「痛っ! もーやめてよ鈴」
「だからそういうところ。……実際は自慢したかったんじゃないの?」
「違うって鈴。これにはいろいろわけが……」
「そのわけが知りたいな~千咲ちゃん」
「いやー、えっとね……」
「なになに~?」
鈴と愛花がそろって千咲に問い詰める。この2人は中学からの友達ということもあり、なかなか息がぴったりである。
「2人とも、本条さんが困ってますから」
それを傍から見ていた凪が千咲に助け船を出す。
「そう言う凪っちも気になるでしょ」
しかし、その船は鈴によってどこかに行ってしまった。
「私は別に……」
鈴は凪の肩に手を乗せながら、ニコッと笑う。凪は若干引き気味である。
「ほら~、やっぱ凪ちゃんも気になるじゃん!」
「あの……えっと、愛花……」
笑顔の愛花にいつの間にかがっちりと両手を握られた千咲に、逃げ場はもうなかった。
「……あの、いろいろすみませんでしたー」
結局千咲はよく分からないまま謝る選択をした。愛花は千咲の手を放してニコッと笑った。
「ふふ~。千咲ちゃんの真面目なそういうところ好きだよ!」
「まあ、確かに友達にウチ上手いんだよって言われるほうがちょっと嫌な感じしちゃうかもね」
横で鈴が凪の肩から手を放しながら言う。凪は少しだけほっとした表情をしている。
「この話は終わりってことにしましょう。……それより、みなさん部活は決めましたか?」
凪が横から3人の顔を覗きこんで聞いてくる。
「部活かー……」
五厘高校では、入学から今日までは部活動見学、体験期間ということで、各々興味ある部活に顔を出していたのだ。今日はもともと4人で帰り、近くのファミレスで駄弁る約束をしていたので授業終了後にすぐに帰宅しているのだが、実は4人で帰るのは今日が初めてである。
ちなみに自らの置かれている状況を鑑みて、千咲自身は部活に入らない予定であるため、どの部活も特に見学していなかった。
「アタシは合唱部に入ることにするっ! この学校の合唱部は結構実力あるんだよね~」
ポニーテールを揺らしながら、愛花が笑顔で答える。
「愛花は歌うの好きだしねー」
「ウチはテニス部だね。中学からやってたから」
「そうなんですね。私は銃技部に入ろうと思います」
「……銃技部? そんな部活あるの?」
「あるよ~。千咲ちゃん、部活動紹介聞いてなかったの?」
凪から出た「銃技部」というワードに反応する千咲。確かに入学直後に部活動紹介があったのは覚えているが、特に関係のないことだと思っていたので、普通にぼーっとしていた。
「確かにあったような気もする……」
「本条さん真面目な感じですけど普通にそういうところもあるんですね」
凪が千咲を見てニコッと少しだけ微笑んだ。
「なんで凪ちゃん銃技部なの~? あんまり上手じゃないって言ってたけど」
愛花が不思議そうな顔で凪に尋ねる。
「だからこそです。もっと練習して実力をつけたいって思ったんです」
一度そこで話を区切った凪は、少し間をおいて再度話し始めた。
「……正直な話をすると今日の本条さんを見て決めたんです。私は的の中心に全く当てられなかったんですけど、私はこれでいいかなってその時は思っていました。でも、本条さんの様子を見たときに、こんなに上手い人が近くにいるんだって思って、だから私も少し練習したいって感じました。一応気になって見学もしていたんでいい機会になりました。……本当は美術部を考えていたんですけどね」
「いいじゃん! 凪ちゃんも練習すればうまくなれるよ! 私が言える立場じゃないけどね」
「そうだよ凪。もっとうまくなれるよー」
「ありがとうございます、2人とも」
凪は2人のほうを見てぺこりと頭を下げた。愛花がそれを見て両手を胸の前で振っている。そんなお礼を言われることじゃないよと言いたげだ。
そんな様子を見ていた鈴はふと口を開いた。
「思ったんだけど千咲っち、あんなに銃技上手いんだから入ればいいじゃん。ずっと部活入らないって言ってたけど。大会とか出れば絶対上位になれるよ」
一応銃社会になってから銃技は競技としても発達し、今では高校生向けの大会も多く開かれている。
隣で凪が千咲のほうを向いて言った。
「そうですよ、松野さんの言うとおりです。私と一緒に入りませんか?」
愛花も隣でうんうんと首を縦に振っている。
もちろん、千咲も決して部活に入りたくないわけではない。むしろせっかくの高校生活なのだから、部活に入って青春したいものである。
しかし、部活に入れば単純に拘束時間が増える。もし何かが起こった際、動きにくくなってしまうのも事実である。それに、大会やコンクールなどに出た時もし黒陰の関係者でもいれば、それこそ周りにも影響を及ぼしかねない。
「うーん……ちょっと考えておくね」
千咲は頭を悩ませながら、ファミレスへの道を歩いていた——。
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