014 新たな出会い
「……」
雫は声が出なかった。
青年は慣れた手つきで銃をポケットにしまうと、再び雫に向き直り静かに口を開いた。
「突然のことでその反応も無理はないと思う。……俺は
「……」
「突然銃を向けられ状況が理解できないと思うが、今はとにかく時間がない」
比呂はそう言うと、黙って突っ立ている雫の手を取り、そのまま歩き始めた。
「……ちょっ」
「……いいか、今ここは危険だ。すぐに離れる必要がある」
「……でも」
「一応言っておくが、お前は今、命が狙われている存在なんだ。すぐに増援が来る。この辺ぶらぶらしてたら普通に殺される」
「……」
全く状況が掴めぬままひたすらに手を引かれる雫は手を解こうとするが、比呂の力が強く、解けない。
「……私、家に帰らないと……」
「それはできない。今帰ったら奴らに家がバレる。そうなったら本当の終わりだ」
「……じゃあ今から……どこに……行くの?」
「安全なところだ。詳しいことはあとで話すからひとまずついてきてほしい」
「……あの男たちはどうするの?」
「ほっといて問題ない。奴らが勝手に片づけに来る」
そのまま成す術もなく手を引かれ、そのまま大通りに出た。その近くには1台の黒い車が止まっている。比呂はそのまま車の前に近づくと、後ろの戸が開いた。
運転席には40代くらいに見える少し老けた一人の男が座っていた。
「遅かったな二条。珍しく手こずったのか?」
「違いますよ、総督。それにしても直々に総督のお迎えなんてそれこそ珍しい」
「今回は事例が事例だからな。それで、そちらが峰原さんだな」
「……あ、あの」
「事情はあとでしっかり説明する。今は一旦言うとおりにしてほしいんだ。私たちは君の味方、君を傷つけることは絶対にしない」
「とりあえず今すぐ出たほうがいい。奴らに見つかったら厄介だ」
「分かってるから落ち着け、二条」
そう言うと、そのまま車は発進し始めた。どこへ行くのかも分からないまま雫はただおとなしくするしかなかった。
しばらく車の後方を確認していた比呂だったが、追手が来ないと判断したのか前に向き直りそのまま窓の外を眺めていた。比呂は特に話す気配がない。
車は気づけば首都高速を走っていた。
——会話が全くないまま5分が過ぎた。未だ状況が掴めない雫であったが、このままでは埒が明かないので一旦質問をしてみることにした。
「……あの、どこに向かっているんですか……?」
「私たちの本部だ。そこまで行けば大丈夫だから」
ようやく口を開いたのは総督と呼ばれていた男だった。しかし、会話はすぐに終わってしまった。もう一度雫は尋ねてみる。
「……あの、二人はいったい……」
「あとで話す。今はおとなしくしていてほしい」
今度は隣に座っている比呂が視線を窓の外に向けたまま口を開いた。ただ、また会話がこれで終わってしまった。
とりあえず今は何も聞き出せそうにない。そう判断した雫は仕方なく目的地に着くのを待つことにした——。
※※
——それから20分ほど車を走らせた後、首都高速を降りてとあるビルの前で停車した。一見してただのオフィスビルであり、特に変わったところはない。
後ろの戸が開かれると比呂が雫の手を引っ張る。
「行くぞ」
「……うん」
比呂に連れられ、そのまま目の前のビルに入る。一階には受付があり、横にはエレベーターホールがある。中身も普通のオフィスビルである。
比呂は受付の人に軽く会釈をすると、そのままエレベーターホールへ。エレベーターが到着すると、誰も乗っていないことを確認してそのまま乗り込んだ。
エレベーターの扉が閉まったのを確認すると、閉まるボタンを押し続けながら、5階、3階、8階、4階、9階の順に押して、最後に1階のボタンを押した。
するとピロンとエレベーターが鳴り、急にエレベーターが降下し始めた。
「えっ……」
行き先ボタンに地下などないのだが、エレベーターはそのまま降下し続け、ピロンという音ともに止まった。ゆっくりと扉が開くとそこには広い空間があった。
「……なにここ」
——薄暗い部屋の中で目に入ってくるのは1枚の巨大なモニターと数多くのパソコンである。アニメや漫画でよく目にする光景だった。
「あっ比呂君、お疲れ」
エレベーターから降りると少し派手な服装をした背の高い女の子が声をかけてきた。見た目は高校生くらいである。
「お疲れ様です、
「その子が今回のターゲット? あらかわいい子」
「先輩、何回も言ってますけど後輩が嫌がることはしないでください」
「いいじゃない、事実なんだから」
夜菜は雫の前に来て笑顔で向き合った。
「こんにちは、私は
「……お願いします」
未だ状況が何もつかめない雫はなんとなく挨拶する。夜菜はもう一度ニコッと微笑むと、そのままどこかへ行ってしまった。
「お待たせ。二条、相談室にいくぞ」
「了解です」
しばらくすると降りてきたエレベーターから総督が戻ってきた。そのまま奥にある小さな部屋に連れてこられた雫は比呂と総督と向かい合った。
総督は小さく咳ばらいをすると雫の目を見て話し始めた。
「……まずは何の説明もなしに急にここに連れてきたことは申し訳ない。自己紹介がまだだったね。私はこの組織、
——白陰。突然出てきた言葉に雫ははてなマークを浮かべる。相も変わらず状況が掴めない。
「そして彼が二条比呂。白陰の中でもとびぬけた銃技を持つ」
「よろしく」
比呂は小さく会釈するとそのまま横を向いてしまった。総督は特に気にすることなく再び雫の視線を捉える。
「……まず確認だが、峰原さんは家に帰る途中で突然知らない人たちに襲われたってことでよい?」
「……はい」
雫は小さく頷く。総督はそれを確認すると少し間を置いた後、小さく言った。
「実は、ここにいる人たちの多くは峰原さんと似たような経験をした人たちが集まっているんだ」
「——えっ」
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