[第四章:狂人遊戯/鎖の破壊]その1

 大穴が開き、消火用の水が雨として降り注ぐ[能勢口]。そこに残った画面投影機械が動き、空中に画面を幾つも投影していく。

 次々と空中に画面が開き、停止状態の動画が表示された。サムネイルには基地総司令と紫目の舞踏姫が仲良く並んで映っている。

 それをわざわざ見るような者は、ニロイの襲撃などのためにいなかったが、そんな者たちに確実に聞こえるよう、画面は複数用意されているのだった。

『ピ』

 音が鳴る。動画の再生ボタンが押されたことを示す音のようだ。それを証明するかのように、静止した画面に変化が生じ、サムネイル画像の上にカウントダウンが表示される。

『③』

 全三秒。カウントはすぐに刻まれていき…、

『…②…①……スタートぉっ!』

 その録音の声と共に、動画が正式にスタートする。

『どうもーこんにちはっ!私はここにある基地の総司令官をやっておりますものですよぉっ!皆さんご存じですかぁ?』

『ご存じはないと思います。はい』

 妙にハイテンションな基地総司令に対し、紫目の舞踏姫は淡々と言う。

『それはそれは。まぁ、自己紹介はこれぐらいにしておいたほうがぁ?』

『待って、待って、待ってください、私はまだです、ハイ紹介』

 完全に棒読みのセリフを紫目は無表情で言う。

『ではでは紹介。ここにいるのは私の持っている舞踏姫。悲しいことに最後の残り』

『同僚の機体は飛翔機に潰されたりしました。悲しいようぇーん。ぐすぐす』

 やはり棒読みな紫目。

 しかし、それはそれとして随分と適当な会話である。

『悲しいですねぇ。残りは彼女一機。だから門番なんですけどねぇ』

『おうや、門番とはいったい?教えて教えてぜひ教えて。可愛い私にプリーズ輝美』

 手をびしりと上げて紫目が棒読みで言う。最後の音は人に聞き分けるのは難しい、変な音だ。

『お残りの皆さんは、楽しい事ありますかねぇ?こんなジリ貧世界で』

『しかしもしかしたら新技術で挽回できるかもう想―』

 後ろに倒れながら言う紫目に対し、基地総司令は両手を振って否定する。

『無理無理無理ですねぇ。新技術は物質の変化の方向性を操作する、魔法みたいな技術。ですがぁ、それは今まで技術の基礎としてきた物理法則を破壊する側面も持ったもの…』

 そこから、少し前に代表者に紫目が語った内容が続く。そして、それは

『…ということで、遅くなりましたがぁ。改めて。やぁやぁお残りの皆さん。これからすっごく楽しいこと、ありますからねぇ?それを今から発表させていただきましょう!』

『なんと、この都市消滅キャンペーン』

 畳みかけるように紫目は言った。

『なんと。今から六時間限定。この都市のラストタイムカウントダウンを行います』

 いきなり、動画内の二人の背後にある映像が流れる。

 それは、紫目が以前奪取された爆弾を、都市の電力を供給する巨大発電施設(既に内部の発電機のいくつかは停止済み)に設置する様子を捉えたものだ。

 彼女が例のクレーンアームで施設に爆弾を設置している。

『ここに映るのは皆さんもニュースで見たことある、新(無駄)技術の新型爆弾。これはカウントの終了後、起爆。施設を巻き込み、全ては誘爆し、潜り込んだエンジェル進化体共々、この都市は木っ端微塵です』

 と、紫目は通販番組のようなノリで言う。

『皆さん、この都市は六時間を残してじーばっく(自爆)するので、楽しみにしていてくださいねぇ?』

 どこか楽し気に、そしてどこか壊れた笑みを浮かべつつ、基地総司令は言う。

『どうかお楽しみにー』

 結局、終始棒読みのまま、舞踏姫は言う。

 そして、動画は終了する。

手を振る二人の様子で画面は静止し、それ以上メッセージが発せられることはない。

 残ったのは最悪な情報と、沈黙。

 その後に発生するのは、

「に、にげなきゃ……!」

 残った僅かなものたちによる混乱の叫びと。

「                      !!!」

 ついに内部に本格的に侵入した、エンジェル群体が暴れる轟音だった。

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