[第二章:惹かれあう心/育む彼女]その8
「今日は何をするんだ?」
「えっとね。かくれんぼなんて、どうかな?」
「…ニイはなんでも、構いません」
「なら、それにしようか。まずはやる範囲をまず決めないと。広すぎると見つけられないからな。……いや、ニイが鬼になったら見つかるか?」
「そ、それはそうかも。怖いし、避けた方がいいかなぁ。…あ、前みたいな迷惑をかけないようにしないと。前は許してくれたけど…そもそも怒らせるのは良くないし」
「ニイは鬼でも隠れる側でも全力でやりますが。負けるのは嫌なので」
初めての遊びから一週間と少し。
渚、凪、ニロイの三人は、集まって遊ぶことが習慣化していた。
AD二人が一緒に公園に来て、そこにニロイが偶発的に(出られる日は公園に常に来るようにしていた)現れ、最終的に共に遊戯に勤しむ。
既に三回ほどそれが繰り返されており、それぞれがこれを日常と感じ始めていた。
そして、毎度の遊びは渚によってその場の思い付きでほとんどが考案され、冷静な凪によってルールなどが整備され、ニロイによって刺激的で若干危険なものとなっている。
三人はそれを、心の底から楽しむようになっていた。
今までなかった新しき、素晴らしき日々に幸せのようなものを感じるようになっていたのだ。
…なお、この時点で渚が望んだ仲良くなるという目的は達成されていた。
「それじゃぁ、ルールが決まったところで、鬼を決めようか」
「うん!」
「はい」
そして三人は、今日も遊びを開始する。
笑って、考えて、負けまいと。
三者三様の姿勢をもってして。
「よし。渚に決まったところで、私たちは隠れようか」
「はい。…負けません」
「それじゃぁ、一分数えるからねー!」
…しかし。しかしである。
この時間が良いものであるからこそ、それらは生じてしまう。
一つ。行為の肯定無き時間への苦しみ。幸せの時間との対比からくる苦痛。
一つ。見てもらえない苦しみ。自分を見て、自分だからこそ楽しんでくれる相手とそうでない主の対比から来る苦痛。
…そして。こんな時間を少なからず過ごしていたであろう都市の人々への……。
▽―▽
「後、18日ですか。……他のところでは、結構な騒ぎになってきましたね。五日前から、本格的に」
総司令は夜、一人で言う。
窓から見える町の明かりは、以前よりその数を減らしており、四分の三ほどになっている。
「楽しい事、あったらいいですよね?」
そんな呟きが漏れる。
▽―▽
地上。空に佇む、機械の巨雲を天井に仰ぐそこには、緑が溢れている。
人の手がほとんどつかなくなってから、急速に成長し、地上を覆ったそれらの上に、浮遊するものが存在する。
「 」
エンジェルだ。
自立生体兵器として完成されたそれらは、生殖能力をもっており、地上を根城としてその数を増やしていた。
人がいない地上は豊かだ。資源採掘のために地面が砕かれることもなく、ダムのために山が崩されることもなく、建設のために森が切り開かれることはない。
植物が生い茂り、昆虫や動物が自然界の法則にこそ従いつつ、縛れず、自由に生きている。
エンジェルはその中で、一動物としてその種を広げつつあった。
攻撃力と耐久力は最高であるそれらは、実は人以外に対してはさして好戦的でもない。普段は植物の実や、昆虫を少量捕食し、光合成などもして静かに暮らしている。
ただの動物とそのあたりは大して変わりなく、エンジェルは自然に適応していると言えよう。
「 」
そんなエンジェルたちであるが、その最優先事項は人間の排除だ。原子本能の段階で、その使命が明確に組み込まれているため、そういうことになっている。
生命活動も、生殖活動も全てそのためのもので、エンジェルはあくまでも、生物兵器(・・)なのである。
「 !」
そして今。それらの一部は、ある場所に狙いをつけている。
空に浮かぶ機械の巨雲。消耗したその一角に。
「 !」
「 !」
エンジェルの数体が体をよじり、仲間にメッセージを伝える。
他もそうし、意思は別の個体へと次々と伝播していく。
「 ! !」
一定範囲のエンジェルたちに、共通の目的と、そのための思考の必要性が認知される。
「 !」
それらは行動の指針を完全に決定する。
今後、それに従ってエンジェルたちは動き出すだろう。
「 !!」
始まりの意思を示すかのように、一体が空へ叫ぶ。
機械の巨雲により、閉ざされたそこへ。
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