第3話2つ目の出会いはここで
「そ、そういえばさ、結局俺が自分で稼いだってどういうこと?」
いろいろあって――主に俺が話をややこしくしたせいで、なんだかんだ聞きそびれていた。
「あんた本当に覚えてないの?」
母さんはなぜか俺の目を真剣に見つめてくる。
「うーん・・・・・・どこかでバイトしたことも宝くじを当てたこともダイヤモンドを発掘したこともないし、全然覚えてないな」
「・・・・・・そう」
心なしか少ししょんぼりしてる気がする。
「それで俺はなにで大金を稼いだの?」
母さんはため息をつきながら
「株よ、株。あんたが6歳の時に勝手に私のスマホをいじって投資したのよ?」
「・・・・・・マジで?」
・・・・・・俺には少しもその記憶がない。
俺は中学生になってから度々同じような経験をしていた。
――俺には中学生になる前の記憶がないらしい。
でも俺はそのことを気にしていない。
そして家に中学生になる前までの写真が1枚もないことも気にしていない。
だって、中学生になってからの記憶は鮮明にあるんだから。それだけあれば十分だ――
「株価チャートを『関数グラフだ!』 って言って楽しんで私のスマホで株を見てたの」
「・・・・・・」
「そしたらね、ある日紫皇が『お母さん、みてみて! 増加関数ができたよ』って言って私のスマホも見せてきたのよ・・・・・・」
「・・・・・・」
「もうこの瞬間本当にビックリしちゃって慌てて紫皇からスマホをとって確認したら、紫皇ったら勝手に投資してたのよ。しかも株価があり得ないほど上がってて、ボロ儲けしたのよ」
母さんは楽しそうに、そして懐かしそうにして昔話をする。
そんな母さんの話を宮菜は興味深そうにしていて、またどこか寂しそうな様子で聞いていた。
・・・・・・俺にとっては気にならないことでも母さんにとっては大事な記憶で、宮菜にとっては興味がある記憶なのかもしれない。
2人を見ているとなぜか俺はちょっぴり胸が痛んだ。
+++
俺たちはようやく最上階の長い廊下を通り抜けた。
その先には3つドアがあり、
右側と左側にはすでに住民がいるらしい。
「俺たちの家は真ん中か、部屋が3つしかないってさすが高級マンションの最上階って感じだな」
「そう・・・・・・だね」
反応が薄い・・・・・・宮菜がさっきから元気ない気がする。
(ここはお義兄ちゃんらしく一発カマして元気づけよう)
義兄の優しさを見せつけようと思ったところで
――ガチャッ
左側のドアが開く。
中から出てきたのは
(お、お嬢様・・・・・・だと!)
綺麗な黒髪を腰のあたりまでまっすぐ伸ばし、純白のブラウスに黒色のロングスカート・・・・・・
大和撫子という言葉がピッタリな人だ。
トートバッグを片手に持っているからこれから買い物に行くのだろう。
俺がずっとお嬢様を見つめていると目が合い
どこか演技染みた反応をする。
「あら、新しくお隣に引っ越してきた方々ですか?」
お嬢様スマイルをしている。
「そうだよ。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をしてくる。
一応自己紹介をしておこうと思ったが、ここで俺は重大なことに気づく。
(あれ? ・・・・・・俺と宮菜って・・・・・・自己紹介してなくね?)
そう、俺は今更なことに気づいてしまったのだ。
(兄妹になるのに自己紹介してないのは流石にヤバいよね?)
やらなくては! と思ったことをすぐにやるのが俺という人間。
俺はこの行動力こそがIQ世界1位になった所以だと思っている。これによってありとあらゆる知的好奇心を満たしてきたのだ。
だから文脈なんて気にしない。てゆうかそもそも俺にはそんなものはない。俺はすぐに宮菜の方を向き
「そういえば俺たちまだ自己紹介してなかったよね? 俺は天敬紫皇、よろしくね、宮菜」
俺は早口でそう言うが
宮菜は何も言わず、信じられない物を見る目で俺を見る。
俺はどうして宮菜がそんな目をするのかわからなかったが、瞬間的に頭を総動員して論理を組み立てる。
そして達した結論は
「自己紹介がつまらなすぎる」
超無難な答えだった。
ありとあらゆるパターンを検証した結果、結局これにたどり着いた。
俺は慌てて自己紹介の続きを始める。
「えーと、好きな食べ物はカレー。休みの日はラノベ――じゃなくてランニングをしてる? 自慢はIQ世界1位のこと?」
(あれ? 俺は何で疑問形で答えてるんだ?)
なんか空気が、雰囲気がそうさせてるような・・・・・・
ここで俺はそっと3人の顔を見る。
母さんはニコニコ――じゃないな目が笑ってない。
宮菜は――ゴキブリを見る目? 俺はゴキッチじゃないからね?
お嬢様に限ってはフリーズか・・・・・・
情報は3つしかないが、帰納的に考えると
俺は即座に3歩下がって正座をし、
3人の目を忘れずに1秒ほど見つめる。
これによって真摯さが伝わる。
そして大きな声で
「本当に申し訳ございませんでした!」
と言い終わると同時に頭を下げた。
それはもう完璧な土下座だった。
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