第4話プレゼントするのは最高の最期
「「お、お邪しまーす・・・・・・」」
「はい、いらっしゃいませ」
お嬢様はニコニコしながら俺たちを出迎えてくれる。
――あのあとも母さんと宮菜はずっと俺を白い目で見てきたが、お嬢様が
「よろしければ私の家にあがりませんか、もてなしますよ?」
そう言ってくれたおかげ俺は何とか居た堪れない空気から脱することができた。
お嬢様――いや、清河望乃華(きよかわののか)の家で軽くお茶をしながらようやく自己紹介が始まる。
言うまでもないが俺は自己紹介をさせてもらえない。
「あたしの名前は白石宮菜です。14歳で新中3生です。趣味は・・・・・・いろいろな場所に行くことです! よろしくおねがいします」
「私の名前は清河望乃華です。ご存知だと思いますが清河グループの長女です。一応言っておきますが天敬君と同じ学校ですよ? よろしくおねがいしますね、宮菜ちゃ――さん」
望乃華は慌てて言ったため語尾が少し大きくなる。
「・・・・・・何ですって!」
俺は驚きのあまりに思わず机をバンっと叩いて立ち上がる。
バタッ
コロコロコロコロ
宮菜が飲みほしたオレンジジュースが入っていたグラスには取手がなく、俺たち4人はゆっくりと転がっていくグラスをただただ眺めていた。
そう、それはまるで俺たちだけ時間が止まっているかのように――
バリンッ
しかし割れた音が響き渡り、再び時間が動きだしたかのように――
マイ マザー ゲッツ アングリー
俺は危うくこのグラスと同じ運命を辿りかけた。
+++
――気を取り直して
「清河さんは去年何組だったんですか? 学校で一度も見かけたことがないと思うんですが・・・・・・」
さっきの話の続きをする。俺はなぜか珍しく敬語を使っている。
横から突き刺さる視線が敬語で話すのを俺に強制させているような気がする。俺は気のせいだと信じたいが
(だから俺はゴキッチじゃないから! そんな目で見ないで、
なぜか宮菜はまたゴキブリを見るような目で俺を見てくる。母さんはいつも通りニコニコして俺を見ているよ。
「天敬君・・・・・・まさか本当に覚えてないのですか? 私たち同じクラスでしたよ!」
望乃華はビックリして、クリクリな目を大きく開ける。
(・・・・・・ま、まさか宮菜のゴキブリを見る目はこの伏線だったのか!)
(終わった・・・・・・俺は去年のクラスメイトも忘れてるのか・・・・・・俺はもうゴキッチとして冷蔵庫の下で生きるしかないな)
「まぁ、嘘なんですけどね」
右手を軽くグーにして口もとにもっていき、くすくすと上品に笑う。
(・・・・・・ふざけんな!)
俺への風評被害が酷すぎる!
どうせまた母さんと宮菜が白い目とゴキブリを見る目で俺を見てくるんだろ・・・・・・
・・・・・・?
あれ? なんで2人ともそんなにくすくす笑ってるんだよ。
まるで始めから3人で俺を揶揄ってたかのようじゃないか!
でもまあ、この3人の間に接点があるはずないから気のせいか。
えーっと、何の話をしてたっけ・・・・・・
そうだ、そうだ
「流石に清河さんと同じクラスになってたら覚えてますよ! とても綺麗ですから」
望乃華は言葉を詰まらせて
「あ、ありがとうございます。確かに私はいろいろと目立ちます・・・から・・・ね」
さっき俺を揶揄っていた時の笑顔はだんだん薄れていき、暗い顔をする。
すると突然宮菜が慌てた声で
「あ、あたしも2人と同じ学校の中等部だよ! あたしたちみんな一緒って何かの運命かもね!」
何かを誤魔化すかのような言い方に違和感を覚えるが
「えっ、宮菜も同じ学校だったのか、それは知らなかったな――って当たり前か、今日初めましてだったもんな」
「・・・・・・」
(うぅぅぅぅ・・・・・・ふーー危ない、危ない。何とか耐えれた。忘れられるのってやっぱりすごく辛いな・・・・・・)
宮菜はそっとおばさんに怒られている紫皇を見つめる。
久しぶりに見るその顔はあの時よりもずっと大人っぽくて、逞しくて
そして、欠けている。
(ののちゃんは中学になってから4年間ずっとこれに耐えてきたんだ)
あたしは4年間ずっと逃げきた。
あたしは
しー君と向き合うのが怖かった。
でも、今年が最後の年
あたしは最高の最期をプレゼントするために
大好きだった人と向き合おう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます