第2話脳内放送は脳内で
――タクシーで移動すること30分
俺たちはようやく目的地に辿り着く。
俺たちの目の前にはてっぺんがなんとか見えるぐらいの高さのマンションがある。
「ま、まじかよ・・・・・・めちゃくちゃ高いな」
IQ世界1位として、高い建築物を見たらどうしてもやりたくなってしまうことがある。
ここからマンションまでの距離とマンションのてっぺんまでの仰角を目算する。
(なるほど、だいたい高さ170メートルぐらいか。・・・・・・てことは最上階は50階ちょっとだな)
頭の中で三角比を瞬間的に計算していると
「うわぁー高い・・・・・・52階ぐらいあるのかな」
ポツリと女子中学生が呟く。
「せ、正解よ、宮菜ちゃん! よく最上階が何階がわかったわね。もしかして宮菜ちゃんって直感の天才なのかしら?」
母さんが女子中学生――白石宮菜(しらいしみやな)の頭を撫でながら褒めると、宮菜も嬉しそうに照れて頬を赤くする。
その二人を傍目に俺は戦慄していた。
(うそ・・・・・・だろ、俺は直感に負けたのか・・・・・・)
IQ世界1位になった俺の唯一の敵は――
直感の天才
まさかこんなにも身近に大敵が現れることになるなんてな。
この日から俺は宮菜に対して謎の対抗心を燃やすようになった。
+++
――52階
エレベーターは最上階に到着し、俺たちはそこで降りる。
ただでさえ高級マンションじゃん、サイコーか!
なんて浮かれていたら
最上階というおまけ付き。
逆に不安になってくることがある。
「か、母さん? うちに高級マンションの最上階に住めるほどのお金あるの? も、もしかして闇商売でもやってるの?」
「紫皇ったら何を言ってるのかしら? あんたが自分で稼いだお金よ?」
(は? 自分で稼いだってどういうことだ? 俺の知らないところでお金が溜まってる? ・・・・・・もしかして俺って生きてるだけでお金がもらえるほど価値ある人間だったりして)
純粋に自分にはどのくらい価値があるのか気になる。・・・・・・そう気になってしまったのだ!
「母さん・・・・・・俺っていくらで売れるかな?」
「・・・・・・」
一瞬沈黙が流れる。
「ちょ、ちょっとあんたいきなり何を言ってるの? もしかしてあんた自分の体を売ろうなんて思っていないわよね。そんなこと母さんが絶対に許さないわよ!」
思いの外ガチトーンで母さんが説教をしてくる。
「ち、違うよ。俺はただ自分にどれだけ価値があるか気になっただけだよ」
「えっ? どうしてそんな事が気になったのよ?」
「だって俺は生きてるだけでお金がもらえるんでしょ?」
俺は完全に脳内お花畑な質問をする。
「「・・・・・・え?」」
案の定二人とも口をぽかんと開けたまま固まっている。
しかしそれでも俺を倒すには十分だった。
「そんなわけないでしょ。別にあんたには何も価値はないわよ?」
(グッ・・・・・・なかなかストレートに言ってくるじゃないか、・・・・・・危うく倒されるところだったぜ)
「う、うん君がいてもいなくても世界は何も変わらないと思うよ」
(・・・・・・グハッ)
ダブルパンチは聞いてない。俺はそのまま壁に背を寄りかからせながら
(宮菜・・・・・・
ずるずる崩れ落ちるのだった。
+++
「・・・・・・ハッ!」
精神にダメージを受けてから正気を失っていたがようやく正気を取り戻す。
周りを確認するが、ふと、とあることを言いたくなった。
「ココはドコ? ワタシはダレ?」
誰も答えてくれないと思ったけど宮菜が意外にも答えてくれた
が――
「ここは高級マンションの最上階、君はゴ、ゴキブリの・・・・・・ゴキッチ!」
(・・・・・・えー・・・・・・いきなりツン発動してる。ツン発動する要素あったかな? それにしてもゴキブリのゴキッチか、いいじゃん! あのしぶとさをあやかりたいね!)
俺はGが決して嫌いではない。どれだけ駆逐しようとも奴らは強く生き、再び人間の前に姿を現す。その不屈の精神に俺は敬意さえ払える。
しかし世間一般ではゴキブリを忌み嫌っている。もちろん俺はそのことを知っているから
「ゴ、ゴキブリのゴキッチだと! この俺をあんな汚らわしい奴と一緒にすんな!」
あえて大きな声で言って義兄の威厳を教えてあげようと思ったが、宮菜は不思議そうな顔をして
「えっ? ゴキブリへの敬意はどこ行ったの?」
「・・・・・・え?」
「・・・・・・え?」
お互いに何言ってるかわからないという顔をして目を合わせる。
だが、これだけ言わせて欲しい。
「だから何で俺の脳内放送が聞こえてるんだよ!」
俺は盛大にツッコンだ。
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