第14話 王都の平穏な一日
ここはアルティア王国、王都の街―――。
王都の街中には大小いくつもの運河が流れ、その大きな河の流れは物流運搬の為の重要な役割を持ち、人々の日々生活にも深く関わり欠かせない。
街の東側を流れる緩やかで大きな運河の河川沿いの一区画に、レンガ造りの建物が建ち並ぶ住宅街がある。
その一棟に、メグたちの住むアパートビルがあった。
歴史を感じさせる古い造りの建物ではあるが、上階の窓から見下ろす河川の景色は、一年を通して色鮮やかに四季を魅せてくれる。
◇◇◇ 朝
遠くに見える山間から朝日が昇り、辺りの街並みが白み始めた頃。
メグは顔を洗って、身支度を整える。
思わぬ新婚旅行となった旅。
義母さまたちが暮す村から王都に戻って数日、すっかり習慣となった魔法の為の瞑想をおこなう。
家庭の火、流れる水、自然な風、植物の大地、暖かな光。
義母さまの言葉を繰り返し思い出す。
(やっぱり光の感覚が一番しっくりくる感じがする……ようなぁ気が……)
それは首から肩、胸元から手の平をフワリと包む。温かな何かを感じる様な気がしつつ、大きく深呼吸をする。
メグがゴソゴソとしていると、その間に起き出した夫のリックが朝食を作ってくれる。
山盛りの野菜と卵焼き、近所のパン屋で買ったの柔らかなブールのパンが食卓に並ぶ。
リックは、いつものお気に入りのカップにハーブティーを淹れ、いつものように背表紙が厚い本を読んでいる。
村でのあの味が気にいったのか、淹れたハーブティーには義母さまの作ったリンゴジャムをたっぷりと溶かし入れ、甘酸っぱい味と香りを堪能している様だ。
メグが食卓に腰掛けた。
リックが本のページをめくり、カップに口をつけ、一口。
「メグ、君はこの部屋を野菜畑にでもするつもりなのかい?」
「まぁ……毎日の野菜には、困らないけどね」
本気か冗談か……。
「家庭菜園で育てていた小さな野菜がこんなに大きくなってしまって……」
「えへっ」「ついつい楽しくなっちゃって……」
「ねぇねぇリック。私、本格的に野菜畑を借りて野菜を育てようと思うの」
「私って、けっこう野菜を育てる才能があるよねぇ」
「ほらぁ」
と真っ赤に熟した張りのある小さなトマトに、手に持つホークを刺す。
「ほら、ほらぁ」
刺したトマトをリックの目の前に差し出す。
「君の場合……稀有な能力?じゃないのかなぁ」
リックは鼻で笑うと目の前で揺れる赤いトマトを指で摘まむと口に放り込んだ。
甘い甘いトマトの味を満足そうに噛みしめている。
◇◇◇
リックは新婚旅行から帰って早々に仕事に復帰した。
やっぱり、仕事虫である。
私はもう暫く休暇をとって久々の出社に備えて体調を整える事にしている。
(あれ以来……何か体の様子が違うのよね)
とお腹を撫でてみる。
◇◆◇◆
早朝―――。
玄関の鍵がガチャリと開き、ドアの呼び鈴がチリンと鳴った。
「リック? どうしたの?」
「起こしちゃったか……ごめん……」
「ちょっと着替えを取りに戻って来たんだよ」
足どりの思いリックは、肩を揺らしながら洗面所にフラフラと入っていく。
10分後、バスタオルを首にかけた姿でテーブルに腰をかけた。
メグがテーブルの上に、淹れたホットミルクを差し出した。
「ちゃんと寝てるの? 目が真っ赤よ」
「仕事……内勤に変えてもらおうかなぁ」
「もう、あれやこれや、準備で大変だよ」
「国王陛下の誕生日式典の行事が終わったら、僕は休暇を取って一日中寝るよぉ」
「ふうぅ」
ホットミルクが注がれたカップを口に一口含むと、また溜息をつく。
「公務員も大変ねぇ」
王宮にある広場のバルコニーに王族がお出ましになるセレモニー。遠くから王族の姿を一目見ようと遠く国中から人々が集まる日。泊まる宿はもちろんの事、通りの店先には色々な品が並び王都の街は祝いの人々でにぎわう日。商いをする人にとっては一年で最大の繁忙期、全力で稼ぐ時でもある。
「国王陛下の誕生日セレモニーだからね。みんな楽しみにしてるから頑張ってっ」
とリックの両肩を揉む。
「王宮の美味い菓子がふるまわれたら、持って帰ってくるよぉ」
溜息をつき頭を揺らすリックが息を吐く。
「お願いしますっ旦那さまっ!」
「王宮の御菓子って……すっごい美味しいものね」
「やく得、やく得っ」
とメグはギュウッと揉む手に力を込めた。
「あれあれ?……」
今まで会話してたのにリックは肩を落とし、うつらうつらと頭を細かく振りはじめた様子。
「ふうっ」
メグは何やら詠唱の言葉を口にするとリックの首に優しく両手を回した。
「…………」
「…………」
「…………」
はっ!と我にかえったリックは辺りを見回す。
「夢、見てた」
頭をかきブツブツと独り言をいいながら、リックまた忙しい職場へと戻っていった。
「ふっ」と目を細めながら口元を緩めたメグは、家を出て行く旦那の後ろ姿を見送る。
「私もセレモニーを見に行く準備しよっと。今日はどの服にしよっかなぁ」
髪を指で撫でながら洗面所に向かった。
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