第8話 広い川の岸辺(1)

 高校一年生の夏、七月。

 期末試験も終わり、補習期間と面談と終業式を残すだけになった土曜日の午後。

 茉莉まつりは、ひとり、県央けんおうの中心都市箕部みのべ城跡しろあと大通りにいた。

 「箕部しろまつり」のオープニングパレードに、瑞城ずいじょう高校の名門マーチングバンド「瑞城フライングバーズ」も出場する。

 李津子りつこが最初におおぜいの前で演奏する最初の機会だった。だからそのパレードを見に来た。

 「かすかな」という以上の期待があった。

 李津子は水泳に戻ってきてくれるのでは、という期待が。

 マーチングバンド部は内部がガタガタで、まともに活動できる状態ではないといううわさをあちこちで聞いた。

 だとすれば、李津子だって、自分の吹きたい楽器の練習に集中するどころではないだろう。

 ならば李津子は水泳に戻りたいと思うのではないか。

 たしかめてやろう。

 そのマーチングバンド部がほんとうに崩壊しているかどうか。

 でも、茉莉は、確かめることができなかった。

 フライングバーズの演奏は、茉莉が待っていたペデストリアンデッキのはるか手前で終わったからだ。演奏を終わってペデストリアンデッキのところに引き上げてくるメンバーのなかに李津子はいたのだろうけど、見分けられなかった。

 もの足りない気もちを抱えたまま帰る気にもなれず、茉莉は城跡大通りを上って行った。

 パレードはその通りを下ってくるから、パレードの流れとは逆向きに進んでいることになる。

 広い城跡大通りは、両側の歩道も広い。そこにいろいろな屋台が出ている。

 長い夏の日も暮れてきて、歩道の上に張り巡らした照明がまぶしい。

 その照明の下、向こうの屋台で、同じ年頃の女の子たちが綿菓子を買っているのが見えた。

 ぼーっと立っていると、後ろから

「茉莉、お待たせ」

と声をかけて李津子が現れる。

 自分がその瞬間を待っていることに茉莉は気づく。

 でも、もちろん、そんなことは起こらなかった。

 綿菓子を買った女の子たちとすれ違う。

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