第4話 中学校は瑞城に

 小学校高学年のころには二人で泉ヶ原いずみがはら町のプールに行くことが多くなった。学校の二十五メートルプールより大きい五十メートルのプールがあったからだ。

 茉莉まつり李津子りつこは、休憩するときも水から上がるのが惜しくて、足の着かないプールで、プールサイドにつかまって、おしゃべりしていた。

 「わたしね、中学校は瑞城ずいじょうに行こうと思ってるんだ」

と李津子に言われたのは小学校五年生の八月の終わり、夏休みが終わろうとしているころ。

 そうやってプールサイドにつかまっておしゃべりしているときだった。

 茉莉は驚いた。

 「なんで瑞城?」

 瑞城はおカネ持ちの女の子が行く学校。

 瑞城の生徒は頭が悪いうえにガラが悪い。

 それが、茉莉のまわりで、子どもも大人も言っていることだったから。

 「瑞城の高校には地域人材育成科っていうのがあるんだよね」

 出た!

 瑞城のなかでも、その「チイキカ地域科」というところの生徒がいちばん出来が悪くてガラが悪いのではなかったか。

 でも、李津子は、まじめに言った。

 「うちの仕事、だれかがあとぎになるとしたらわたしだから」

 ホテル西城さいじょうというホテルのことだろう。

 「その地域人材育成科って、地元で仕事する子を育てる科なんだよね。そこでいろいろ勉強したい。だったら、中学校から瑞城に行っといたほうがいいじゃない?」

 西日の射し込むプールで、李津子の目が輝いて見えたのは、プールで泳いでいるときだからあたりまえだったのか。

 自分が中学受験するかなんて考えたこともない茉莉。

 まして、中学校の先、高校をどうする、そのあとどうする、なんて考えたことはない。

 李津子は考えている。

 茉莉はあわてた。

 「じゃ、わたしも、瑞城、行く!」

 とてもきっぱりと言い切った。

 李津子は目を大きく見開いて茉莉を見た。

 あり得ないことを聞いた、と言うように。

 だから、茉莉は、もういちど、はっきりと、力をこめて言い切った。

 「わたしも、李津子ちゃんといっしょに、瑞城、行く」

 李津子がどう反応したか、じつは茉莉は覚えていない。

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