第4話 最終話 


「分かったか。人族よ。如何にかなわなくなったからと言っても、嘘はいけない。我の本当の名は・・・えっ」


 ・・・しまった。正体を明かしてしまった。周りに孤児がいない。


「・・・ごめんなさい。聖女様、私、お話を作るのが、好きで・・」


「まあ、興味深いお話だったわね。じゃあ、次は、私のお話を聞いて下さる」


 ☆150年前、ボーア公爵家


 ボーア家の末っ子の女子、トルーサは、朝のお着替えで、孤児出身の将来のメイド候補、アンの服を着せられました。

 いつものドレスは、アンが着て目の前にいます。


「まあ、アン、似合うわ。でも・・今日はどうしたの」

「お嬢様、今日は、平民なりきりごっごの日です。今日は、役割を交換して、アンのお仕事、お使いをして頂きます」


「まあ、そうなの。分かったわ」


 ・・・


 粗末な馬車に乗せられて、お使いに出発しようとしたとき。屋敷の前に、大勢の人が集まりました。

 お父様、お母様、兄上、姉上、伯父夫婦、使用人達・・・


「まあ、お見送り・・こんなに大勢、どうしたの?」

「トルーサや。初めてのお使いだからお見送りしているのさ」

「まあ、そうなの。分かったわ。きちんとお使いをするわ」


 皆は、トルーサの姿が見えなくなるまで、お見送りをしました。


「アン・・・すまない。身代わりを申し出てくれて」

「旦那様、私、嬉しいの。お嬢様のドレスを着れて」

「ああ、我が娘としてあつかおうぞ・・・と言っても数日の間かもしれない」

「フフフ、旦那様、トルーサお嬢様が生き残れば、勝ちです」

「ウグ、グスン、グスン、旦那様じゃない。お父様と呼んでくれ」

「かしこ・・お父様」


 トルーサの馬車は、国境を越え。ノース王国の親戚預かりとなります。

 戦役が終わり。全てのことを知ったトルーサは。


 毎日、毎日、毎日、復讐を考えました。女コジキの後ろにいる。「便所の桶にたかって汚物をすする神」に、どうにか一矢報いたい。

 そのために、聖女になってから、封印が解ける今日この日まで、娘に代々役目を伝えてきました。

「便所の桶にたかって汚物をすする神」を見つけ出す役目を・・・


 ・・・・・


「フフフフフ、もう、私の代で、お役目を果たせました。封印が解けた直後に現われるとは、こらえ性のない者よ。

 この150年間、お前は、「便所の桶にたかって汚物をすする神」と全女神教徒、精霊教徒、酒神教、魔神教が共通して、認識しているわ」


 ・・・何。


 メアリーは気が付いた。聖女のペンダントが点滅している。

 どこかに、知らせたのだろう。



「クソ人間!神を出し抜いたつもりか?お前なんか簡単に殺せる!」


「ええ、出し抜きました。ボーア公爵家の積年の悲願と、サウス王国民の無念、晴らす手伝いをしました。お前を消滅させるのは、私ではない!」


「人間ぶぜいなど、ゴミ同然!今の我でもお前くらい殺せる!」


 孤児メアリーに扮したハピアが、魔法の力で、心臓を止めると、トルーサは、微笑みながら死んでいった。


「な、何だ。早くここを出ないと!・・・この女のペンダントが光っている!どこかに連絡したな。それに・・転移魔法反応を多数感じる!」


 ザザザザザザッ


 規則正しい足音が、教会の外から聞こえる。

 聖王国から、転移魔法で、教会の外に現われた聖女と聖騎士たちである。


 声がヒソヒソと聞こえてくる。


「3・2・1・・今!」


 ドカーン!


 明らかに中の人が死んでも構わない爆裂魔法で、扉が吹き飛ばし、中に人々が入ってくる。


 始めに入ってきたのは、聖騎士、盾を構えながら、メアリーを中心に、円陣を作る。


 その次に、聖女達が入って来た。


「聖女トルーサ殿・・・対象児童は?・・何と、もう亡くなられている。この少女が邪神である可能性大」


「聖女セイコ様、水晶探知魔道具に、感あり、邪神の魔素反応と一致しました。この少女を邪神「便所の桶にたかって汚物をそそる神」と断定します」


「そ、これが、邪神ね」


「な、何だ。人間ぶぜいが、聖魔法が通用しないのは、150年前に証明済みだ!」


 だが、ハピアの体は動かない。

 そして、気が付く。体から、黒いもやで出ている。


「な、何だよ。私の体は、邪神になってるじゃないか?私は幸福の女神だぞ!」


 不幸神になってしまった。実験をやり過ぎたか。だからか。聖なる者が怖い!

 聖魔法で消される!

 女神の言っていた『汝、人族に討伐できるようにしようぞ」』


 とは、私が、邪神にされることか?

 まさか。邪神は、女神、魔神よりも強いが、人族なら、討伐出来る。しかし、人は、神、魔神を討伐出来ない・・・

 危険を犯してまで、原初の女神は、我を邪神にしたのか?



「結界を張り終えました」

「人払い完了」


「「「さあ、セイコ様、心置きなくお願いします」」」


「ええ、人類史上、初の邪神殺しをするわ。しょぼい邪神ですけどね」


 セイコは、邪神の額に、手を当て


「これから、聖魔法の飽和攻撃をします。最期に、貴方の名前を言うことを許します「便所の桶にたかって、汚物をすする神」よ。前の名前を言いなさい?」


「ウガ、ウガ・・・」

 怖い。声が出ない。もしかして、あの公爵令嬢も、こんな気持ちだったのか?それでも王子を諫めていたのか?


「そ、『ウガウガ』神ね。邪神の自称として、公式記録に残して下さい」


「はい、畏まりました」


「そして、最期に、何か言うことはありますか?」


「ヒィ、※▲〇◆~」

「そ、『ヒィ、※▲〇◆~』ね。公式記録に、残して下さい」

「畏まりました」



 強い光が発生し、邪神は、存在を消滅させた。


 ・・バカな神、人間は確かに、神に劣るけど、してやられたら、改善をする能力がある。

 きっと、今、どこの国の宮廷に行っても、魅了対策魔道具で、すぐに正体がバレたでしょうけどもね。


「さあ、皆様、今日は、サウス王国魅了災害の日です。祈りましょう」


「「「はい、聖女様!」」」



 ・・・・現世利益神ハピア、秘伝では、この名前が本当の名だわ。

 人々の現世利益願望が生み出した神。


 それにしても、この話で、げに恐ろしきは、ボーア家のトルーサの末裔。


 現世利益神ハピアが、150年後、いつ、どこで、現われるかは、大賢者、参謀などの秀才、天才が、議論したが、誰も予想できなかった。

 しかし、トルーサ一族だけは、封印場所から最も近いルイーサ教会の孤児院に、今日、現われると、主張していた。

 そして、この日に、孤児院名簿が、魔法によって書き換えられ、関係者が、記録操作の魔法がかかっていることが、観測されたわ。

 どの子が潜り込んだかまでは分からなかったけど・・・・探し当てたのね。


 ・・・微笑みながら、亡くなられたのね。


 私は、転生聖女、セイコ・ヤマノシタ。この世界で生きていく今世の聖女。


「トルーサ様、お休み下さい」


 セイコは、トルーサに向かって、手を合わせた。



 女神教、公式記録、年代記によると、この日、ルイーサ教会に、「ウガウガ」と名乗る妖怪が現われ、

「ヒィ、※▲〇◆~」と言葉を残して、討伐されたと記録された。


 事後検証の結果

 端ながら、邪神と判定され、今世の聖女、セイコに、命を賭して、協力した聖女トルーサが名誉の殉職とされ、最高の聖女にのみ行われる女神葬が実施された。




 尚、現世利益神ハピアの名は、穢れ神として、書物に記されることはなく、存在そのものが無かったことにされた。

 法王、各国の王太子教育や、王妃教育で口伝とされる。



 トルーサの名を継承した聖女は、孤児を避難させた後、微笑みながら戦死したと伝えられ、聖女の見本と、永く語られた。


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婚約破棄をしたら、1日で滅びた国の話 山田 勝 @victory_yamada

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