第2話 真の聖女

☆☆☆サウス王国大本営


「・・・ご報告、軍使が、軍使が・・・」


「「「何、接触出来たか?」」」

「向こうの意図は?」


「いきなり、捕まり。拷問を受けました。耳に、鉛を流し込まれ、腕を斬られ、足の腱を斬られ・・・目を潰されています」


「「「非道な」」」


 ・・・何!私は、気が付いた。

 敵のメッセージに。


「ルイーサだ。やはり、この件は、ルイーサのボーア公爵家の仕業だ!ルイーサをここまで連れて来い」


「御意」


 ・・・何故、ルイーサかって、

 それは、使者にやられた拷問が、ルイーサに与えた罰と同じだからだ。


 ☆


 ルイーサが、しつこく、聖女様に、刺客を送り込んだ。

 捕らえた刺客をいくら拷問しても口を割らない。だから、分かる。

 ゴロツキではない。

 ルイーサのボーア公爵家の一族に連なる者に、違いない。


 だから、刺客を送るごとに、見せしめに、ルイーサの目を潰し、腕を斬り。足の腱を切り。左耳に鉛を流し込んだのだ。

 話を聞かない人を、話が、右耳から左耳に抜けると云う慣用句がある。

 話を頭の中から抜けないようにするためだ。


 そして、ルイーサを王城前広場に晒して、ボーア公爵の改心を待った。


 しかし、あろうことか。ボーア公爵は逆恨みをして、

 謀反を起こしやがった。


『殿下、ボーア公爵、300の騎士と一族郎党を連れて、王宮に向かっています。ルイーサ様の奪還と、聖女様の排除を要求しています』

『国境に配備している騎士団を呼び戻せ。挟み撃ちにしてくれるわ』


 激戦が続き。遂に、公爵軍は敗退した。一族郎党、子供も、使用人たちも殺した。使用人でも、公爵に感化されて、必死に抵抗した。

 私は、公爵を尋問した。

 単純に、何故、そこまで、聖女リリム様に害意を持っているか興味があったからだ。


『知れたこと。あの者は、聖女ではない。別のナニカだ。あの女に贅沢させるために、増税し、外国から高価な宝石やドレスを買い集め。民は辛苦にあえいでいる。大義のない増税は反対だ!しかも、娘に対するあの所業、許せるものではない!』


『世迷い言を、少し、増税をしただけだ。我国は聖女リリム様のおかげで、愛に満ちあふれている国になっているではないか?

 ルイーサは、

 聖女様に害意を持って近づかないように、足の腱を切り。

 聖女様に石を投げないように、腕を斬り。

 聖女様ににらみつけないように目を潰し。

 聖女様の教えを逃さないように、左耳に、鉛を流し込んだのだ」


『狂っている』


『もう、良い。今までの功績に免じて、最後は墓に入れてやろう』


『いらぬ。野原に晒せ!ワシは先に行く。お前らもすぐに、冥界に来るだろう。そしたら、ワシが先輩だ。貴様ら、王家は、ワシがこき使ってやる!』


『もう良い。殺せ!』


 公爵の死体は、公爵邸に投げ込み。今回、唯一、反乱に参加しなかった。6歳の末っ子の愛娘、ボーア家の妖精と名高い、トルーサと一緒に、燃やしてあげた。

 せめてもの供養だ。

 しかし、あの娘、涙1つ流さずに、こちらをジィと見ていた。

 今、思えば、気味の悪い子よ。

 やはり、ボーア一族は、魔族に連なっているのだな。


 ・・・


「殿下、連れて参りました」


「ルイーサよ。お前の企みを全て吐け!」

「殿下・・・あの者は、魔女です。お気づき下さい」

「ええい。同じ事しか言えないのか?右耳は、聞こえると分かっているぞ!」


「殿下、回復術士の話だと、衰弱が激しく、右耳も薄らと聞こえているぐらいだと言っていました。殿下の声と分かっている程度かと、回復術士に尋問が出来るくらい治療させますか?」


「ええ、もう、良い。ルイーサを城門に吊せ。いつでも殺せるように、弓兵を配置せよ」


「御意!」


 ・・・・


 また、凶報がもたらされた。今度は、怒りで震えが止まらない。


「殿下、四族連合軍が、凹型陣形を取り・・・その、民の虐殺をしています。畑に、魔導師が呪いをかけ。家畜を殺し・・・ウウウウ」


「「「か弱い民を」」」

「「「許せない!」」」


 しかし、時間は稼げた。南から、伯父上の援軍は間に合うであろう。兵力をかき集めて、王都に籠城する。

 破滅が2,3日から、一週間に延びた程度だが・・・

 何、こちらには、真の聖女リリム様がいらっしゃる。

 最終的に勝つのは、我等だが、厳しい戦いになるな。


「殿下!南から、騎兵が多数!鎧と旗から我が軍です!」


「「「オオオオオオオオオオオオオオ」」」


「ふう、一息つけるか・・・リリム様が降臨されるまでの時間は稼げたわ」



 ☆☆☆王都近郊


 避難民が、王都を目指していた。彼らは北から逃げて来た農民達である。

 領主が必死の抵抗をして、何とか逃がした者達だ。数千はいるだろう。


「父ちゃん!南から、騎兵が来るよ。お星様の旗!王国の兵だよ」

「やっと、安心出来る。真の聖女様の住まう都に、いけるぞ」

「おお~~い。敵は、北にいるぞ!先遣隊が迫ってきている!後ろの奴らを助けてくれよ」


 民は安堵するが・・・騎兵は、弓を放つ。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン


「ギャ、違うよ。敵じゃないよ」

「違う。味方じゃない。あれが敵軍だ!」


 ☆


「突撃せよ。あれは、民ではない。化け物だ!」

「「「オオオオオオオーーーー」」」


 夕暮れ時。やや、暗くなっている。彼ら、五族連合軍からは、民達は、まるで、暗闇で猫の目が光っているように、見えている。

 サウスの民の目は、六芒星がくっきり浮かび上がっており。

 煌々と光っていた。


「隊長!奴ら、目が、こちらから分かるぐらいに、六芒星が浮き出ています」

「骨と皮ばかりだ。税率9割って本当だったんだな」

「ああ、奴隷市場と娼館はサウス王国民であふれかえっている。ボーア公爵の言うことは本当であった」

「税を納めるために、娘や女房を売ってまでも、喜んで払っていやがるとは、狂っている」


「他人事では、ないぞ。我等も魔女の魅了にかかったら、その場でたたき切る!」


「隊長、王都より。サウス王国軍が出張ってきました」

「ヨシ、引け。我等は囮だ。決して、王都に入るなよ!我等は勇者様の囮だ!」

「「「了解!」」」



 ☆サウス王国大本営


「偽旗作戦だと!どこまで、卑怯な!100万の大軍がありながら・・・」

「北の侵攻は囮、南が本命か?」

「報告、大公殿下、討ち死に!イース海軍が海上封鎖、騎兵を上陸させています。奴ら、戦死者の鎧を剥ぎ取り。旗を奪い王都に向かっているとのことです」


「もう、遅いわ!・・すまない・・・危険を犯して、見て来てくれたのだな」

「いえ・・・とんでもございません」


 実は、南の侵攻も囮であった。

 王太子達は気が付かない。ここまで用意周到な作戦は、女神信仰圏が長年、魔王を倒すために編み出した戦術だ。

 大軍でけん制し、勇者パーティを魔王城に送り込む。


 サウス王国は、魔族との国境から離れているので戦争には参加していない。負担金を出すぐらいだった。当然、この戦術は思いつかない。


「避難民を見捨てるな。リリム様の信者だ!城の中の兵力は最小限でいいから、防壁に回せ!」

「御意!」


 そして、城内の兵力は、王太子率いる親衛隊100名程度になった。

 正に、狙い通りだ。


 しかし、王太子達は、勝利すると信じ切っている。


「殿下!陛下とリリム様が、起床されました。昨晩は徹夜で、愛の儀式をされていたそうです」


「ヨシ、リリム様が起床された。これで、勝ったも同然!リリム様にご報告する」



 ☆王城玉座


 玉座には、50代の女性が座っていた。宝石で、布地が見えないほどのドレス、全ての指には、大きな宝石が埋め込まれている指輪をつけている。

 宝石の中には、城一個の価値があるものもある。


 この悪趣味な装いだけで、小国サウスの財政を破綻させていた。


「リリム様、ご降臨!」

「「「ハハハ」」」


 ・・・うん。良い景色だね。私は女コジキだった。腹を空かせて、王門の前で倒れたら、皆は聖女と言いよる。

 見るだけで、人を操ることが出来る何か加護がついたのじゃろう。


 お父ちゃんは、経験が豊富でいいね。息子の方は勢いだけだね。これから、教えてやるか。

 ここにいる者は、全員試したね。しかし、良くこんなババを抱けるね。

 王太子が、私の夫になって、次の女王は私だっていいよるのだから、笑いが止まらないわね。


「リリム様・・・実は・・」

「大丈夫じゃ。私が出陣をするから、皆は安心するがいいぞ」

「有難うございます」


 ・・・ほう、世界中の王が来たのなら、私が見ればそれで解決だ。

 この世界の女王になれる。

 もっと、良いドレスと宝石と食べ物をもらえるかのう。


「リリム様、ご出陣!」


 その時、報告が来た。


「王城上空に、ドラゴンが現われました!」

「ドラゴン一族まで味方につけたのか・・極北から・・・サウスを攻めに来たのか・・」

「リリム様の魅力はドラゴンにも効くぞ!」


 ☆王城上空


 ドラゴンの背中には、黒目、黒髪の男女二人と、ドワーフ族の戦斧使いの男一人、エルフ族の女性魔導師が乗っていた。


 エルフの魔導師は、両手を広げて、詠唱をする【解除!】


「勇者殿たち、認識阻害魔法を解きましたわ。ドラゴン殿、飛び降りられる位置まで下げてくださいませ」

「おう、分かったぞ。耳長の二本足よ」


 黒目黒髪の男は相方にたずねる。

「ここが、山姥のお城か。お小夜。準備いいかい?」


 すると、答えるように、黒髪黒目の聖女は、手にした楽器、三味線を弾く。



 ペケン!テケテケテケテケ~

「ばっちりよ。平三さん。あたしね。城門に吊されたお姫様に、【完璧に治れ】ってかけたいの。早くやっつけよう」


「おう、【パーフェクトビア】じゃろ?」

「パーフェクトヒールよ。あたしね。ハイカラ言葉だと言霊のらないの」


 軽口をたたき合う二人に、ドワーフが、平三に刀を渡す。


「ヘイゾウさん。これを!」

「おう、父ちゃんありがとう。良く作れたね。日本刀、これじゃなきゃ」

「ワシは、26歳だよ!あんたよりも年下!」


 城の広場すれすれに、ドラゴンは羽ばたきながら、近づき。二人は見送られながら飛び降りた。


「ワシらでは、取り込まれる。魅了の効かないヘイゾウさん。オサヨさん。勇者と聖女だけが頼りだ!」

「勇者様方に森の精霊のご加護がありますように」

「二本足よ・・・次も運んでやるぞ」


「おっしゃ!龍神様、帰りも頼むぜ!」

「ハイカラ服だと、下スースーするね」


 すぐに、城兵に取り囲まれたが、二人は、名乗りを上げる。


「東京士族、長谷田平三!」

「平民、田中お小夜よ。日本橋で、三味線の手習いをしていたの」


 テケテケテケテケ~


「な、何だ。俺は・・何をしていたんだ・・・」

「ヒィ、俺、恋人を・・・売った。ウワ~~~~ン」


 音曲を聴いて、泣き出す者、呆然とする者が現われた。


 しかし、自ら、耳を潰し、斬りかかって来る者もいた。

「聖女様との絆を断つ妖女め。互いにレイピアで、耳を潰せ!」

「「「オオオオ」」」


「ありゃ、末期だね~。平三さん」

「任せろ!」


 平三は、甲冑兵をまるで、バターのように、切り刻んでいく。


 そして、切り刻んで行くうちに、玉座まで、たどりついた。

 王太子率いる精鋭部隊が残っていたが、聖女は手で制し、ゆっくりと、玉座から立ち上がった。


 二人は名乗りを上げる。


「東京士族、長谷田平三!」

「平民田中お小夜!」


「「山姥討伐に参った!」」


「フフフフフフ、人は何故、争うのですか?その腕は武器を持つためにあるのではありません。

 愛し合うためにあるのです。さあ。慈しみ合いましょう」


「・・・ゲッ気持ちわり~」


 次の瞬間、平三は、俊足で移動し、首を斬った。

 ポロンとリリムの首が床に落ち。コロコロと玉座から、下の間に転がった。

 王太子の前で、止まる。


 その時、国中で、


 ~~~~~~~~~~~~ピキン~~~~~~~~~~~~


 と音がした。


「ルイーサ、ルイーサよ・・・私は何と言うことをしてしまったのだ。ウグ、ウウウワ~~~ン」


 膝を地面につき。付き頭を垂れ、男泣きをした。


 その鳴声は、王城中に響く。


「勇者殿か・・・この命を持って、民の助命を頼む。民は私の命令を聞いただけだ。

 ルイーサの治療を頼む。殺す前に、私の耳と目を潰し、手と足を斬ってくれ。

 私は

 ルイーサを見る資格は無い。目を潰してくれ。

 ルイーサを抱きしめる資格はない。腕を斬ってくれ。

 ルイーサの声を聞く資格は無い。耳を潰してくれ。

 ルイーサの元に駆け寄る資格は無い。足を斬ってくれ」


 勇者は非情にも

「ルイーサ姫の命乞いは了承した。それ以外は抹殺の指令が出ている。

 それと、腕、足の切断、目、耳は無理だ。俺にそんな趣味はない」


「勇者殿、せめて、ルイーサの苦しみの・・・」


 パスンと王子の言葉中に、首を斬る。


 ペケペケペン♪


「あ~~切ないね」


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る