婚約破棄をしたら、1日で滅びた国の話
山田 勝
第1話 婚約破棄
中央国家群の戯曲に、婚約破棄ものが流行っているそうだ。
愚かな王子が、婚約者がイジメをしているとの讒言を鵜呑みにして、婚約者の不行跡を信じ、
側近達の諫言を無視し。イジメにめげずに前向きに頑張る純粋無垢なヒロインを側に置き。
婚約者を冷遇し、遂には、婚約破棄をする。
すると、婚約破棄をした直後に、ヒーローが現われ、婚約者の窮地を救い。実は、イジメはヒロインが王子を籠絡するための嘘であった。証言だけであったと看破する。
王子とヒロインを断罪する。
王子とヒロインは没落し、悪役令嬢は、ヒーローと幸せに暮らしましたとさ。
実は、本当のヒロインは、悪役令嬢だったと云う話だ。
全く、下らない。
婚約者の言うことを信じない男などいるものか?
今、私は、正に、その戯曲で云うところの婚約破棄をする場面にいる。
私はサウス王国の王太子だ。人口10万人の小国だが、農耕と牧畜が主体の穏やかな臣民たちと、風光明媚な国土に、南には良港を持っている。
大好きな祖国だ。
ここには、婚約者を救う他の王子も、大公殿下もいない。
私には、弟妹もいない。大公殿下は、南の要衝、港を警備されている。名君と評判だ。
本題に戻る。
私の婚約者は、醜い嫉妬に陥り。聖女リリム様を害そうとしたのだ。
公爵令嬢だったが、今は、平民のルイーサである。
あろうことか、ルイーサの父、ボーア公爵も、娘の讒言を信じて、聖女様を排除しようとした。
謀反を起こしたのだ。
もう、ボーア公爵家は、この世にない。
とは言え。子供の頃から交流のあった婚約者だ。一言だけ、ワビを言えば、内密に、寛大な処置をするつもりだ。
護衛をつけて、親戚のいる国外への追放だ。
「ルイーサよ。一言、わびてくれ、そうすれば、私は、寛大な処置をすると約束しようぞ」
「殿下・・・あの者は魔女です。信じて下さい」
・・・だめか。
そんなに、聖女リリム様が憎いのか。
もしや、魔族と通じている。
半年前に、突如、王門の前に、聖女様が現われたのだ。
衛兵は、すぐさま保護し、王へ報告、謁見と相成った。
愛のあふれる教えに、陛下や、我、廷臣達は涙を流して、この方を我国の聖女に推戴することに満場一致で決まった。
いや、婚約者の父君、公爵のみが、反対したのだ。
まあ、無理もない。娘が、聖女なのだからな。
既得権益を手放さないのは、分かる。
ルイーサは聖女の座を、リリム様に引き渡した。
そして、
私と、婚約者のルイーサが、聖女様のお世話係に任命された。
市井でご苦労されたから、貴族社会は不慣れだったからだ。
『ヘンドリック様、あの方は、本当に聖女様なのでしょうか?教えもありきたりです。道徳の焼き直しです。それに、何だか、あの方が怖いですわ。
一度、聖王国の司教様か聖女様に鑑定をして頂いた方がよろしいかと思います』
『ルイーサよ。聖女を輩出した名門のプライドは分かるが、少々、おごった物言いではないか?
リリム様は、市井で平民相手に布教をされたのだ。平易な物言いになろう』
「そんなこと・・・ございませんわ」
数週間後、信じられない報告が届いた。
「もう一度、言え」
「はい、ルイーサ様が、聖女様を聖なる泉に突き落とそうとしました」
私は、戯曲の馬鹿王子とは違う。
ルイーサに確認したさ。
『本当です。殿下、あの者は、聖女ではありません。魔女です!どうか、遠ざけて下さいまし』
『ええい。もう、いい。しばらくは、謹慎だ。お茶会も無しだ』
『殿下!』
そして、ルイーサの狂乱は留まることは知らず。
まるで、魔物にするがごとく、聖魔法を浴びせようとしたり。
果ては、刺客を使い殺害しようとした。
その度に、ルイーサと目撃者に確認をしたが、あろうことか。ルイーサは認めるではないか。
・・・・・
「ルイーサ、最後だ。一言、聖女様にワビを入れないか?そうすれば、寛大な処置を約束しようぞ。頼む・・・一言わびてくれ・・・」
「殿下・・・あの者は、魔女です。どうか、遠ざけて下さいませ・・・」
【ええい。もう良い。聖女様の寛大な処置が裏目に出たか!貴様の嫉妬のせいで、公爵家を滅ぼしたのだぞ!】
・・・もう、良い。婚約破棄だ。ここで、宣言をすれば、ルイーサとの関係は無くなる。
晴れて、聖女様に婚約を申し込もう。
彼女のことを忘れて、この国を愛のあふれる国にするのだ。
「ルイーサよ。数々の聖女様への殺人未遂により。婚約破棄を宣言する。貴様は羞恥刑とする。便所につるし、汚物を食べて、生きよ!連れて行け!」
「「「御意!」」」
・・・戯曲だと、ここでヒーローが現われるハズだが、現実は非情だ。ルイーサにとってだがな。
だが、ヒーローは現われなかったが、凶報がもたらされた。
遠くから、言い争いが聞こえて来る。
「馬をお降り下さい!ここは王宮でございます」
「急報だ!軍法に基づいている!陛下か、殿下はいずこに?」
ヒヒーーン、パカパカと馬のいななきと足音が、段々と、大きくなる。
「何事ぞ!」
使者は馬から下りずに叫んだ!
「魔王軍襲来!北方の国境!兵力10万以上!四本角の旗に、褐色の部族に、角の生えている部族・・間違いございません!」
「何!・・・ルイーサを便所に吊すのはやめだ。やはり、ルイーサめ。魔王軍と通じていたな」
・・・・
☆☆☆城、会議室
急遽、この国の騎士団長、参謀長、大臣を集めて、会議を行った。
おかしい。我国と、魔族領との間に、人族との大国三カ国が存在する。
「まさか。陥落したか甚大な被害が生じたか・・この場合でも、使者を送って、援軍の要請だ。断れるのが覚悟だ!」
「殿下、既に早馬で送っております!」
・・・そうか。優秀だ。助かる。
「冒険者ギルドに徴兵の要請は?」
「それが・・・冒険者ギルドは、半年前に撤退しました」
・・・そうだった。リリム様が降臨されたぐらいだったな。
理由は不明だが、後で調べるべきだ。
急報が来た。信じられない内容に耳を疑った。
「敵軍来襲!人族軍国境に多数確認出来ました。ザイツ帝国のワシの軍旗!国境の砦を、攻撃しています!」
「同じく、王冠の軍旗、デルタ王国!に、ノース王国の獅子の旗!」
「聖王国も確認出来ました・・・邪教討伐旗を掲げています!」
「鑑定士の報告だと、総兵力100万・・・以上!」
「な、何だと・・・我国を救援しにきたのではないのか?邪教討伐旗!意味不明だ」
「他に、中小王国の旗多数。ドワーフ族の操る攻城兵器に、エルフ射手!が前線に確認出来ました!」
・・・次々に来る報告から、信じられないことが、分かった。
「国境の騎士団、壊滅!10分ももちません。投石と弓で太陽が隠れたそうです」
まとめると、我国の北方の国境に、人族、魔族、ドワーフ、エルフの四族連合軍100万人が押し寄せている。
人口10万人の国に、100万だと、ここまで来ると
「やむを得ない、北方の諸侯には、無防備宣言を出すことを許す。徴兵は南を中心に、大公殿下にも来て頂こう」
「「「御意!」」」
・・・最悪の事態を考えなければならない。女神信仰圏全体が、邪教に支配され、魔族と手を組み。
真の聖女のいる我国を攻めて来た。
そのスパイは、ルイーサのボーア公爵家だ。
そう考えると合点が行く
時間は少し巻き戻る。
☆☆☆五族連合軍本営。
サウス王国は、人族、魔族、ドワーフ族、エルフ族の四族連合軍と判断したが、もう、1つの部族が、参加していた。
知性のあるドラゴン族である。しかし、まだ、彼らは戦場には姿を現していない。
「はあ、はあ、はあ、こちらは、軍使である。法王様にお取り次ぎを・・・」
「フォフォフォ、使者の姿は見ざる。話は聞かざる。我は言わざるだ。手はず通り、拷問官に引き渡せ」
「「「御意!」」」
「無法だーーーー」
本営の上座には、二人の男が座っている。痩せた白髭の老人と、二メートルは超す褐色の巨躯の男、頭には四本の角が生えている。魔王だ。
魔王は
「あ~あ、ひと思いに殺してやれよ」
と老人に話しかける。
「フォフォフォ、それじゃ、恐怖は伝わらない。戦うしか道が無いと分からせる。逃げられたら、時間がかかるじゃろ?メーセージでもある」
「この悪魔め」
「!法王様に・・・この・・四」
と魔王の言葉に、控えている女神信仰圏の国王、将軍達は殺気だつが、
魔王の蔑称、「四本角」を口ずさむ寸前で、法王は、大声で遮る。
通常、人族が魔王と言うことははばかれる。何故なら、王の称号は、人族、ドワーフ、エルフのみに許されていると、女神教会では認定されているのだ。
今回の遠征では、魔王の呼称に統一。蔑称は言わない軍令が、徹底された。
それほど、前代未聞の事態なのだ。
「やめんか!今は轡を並べる友軍じゃ。拷問が終わったら、使者は、サウス王国の、あちらで、隠蔽魔法で隠れてチラチラ見ている斥候の陣地に投げ込め」
「御意!」
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