第7話 そのころあの子は




 「へ〜!で、その美鈴ちゃんって子が好きなんだ。」


「ま、まぁそういうこと…だよ。」


「恋愛ねぇ、楽しそうで何よりだよ。で、進展具合はどーなの?」


「えっと…それは、」


一体なんでこんなことになってしまったのか。


思えば今日の朝にかなりでかい声で永見に聞いていったことが原因かもしれない。


僕にガンガン質問してくるのは荻野優佳おぎのゆうか。同じクラスの女子だ。


昼休みに人気のない屋上に呼び出され、何事かと危惧したが危機的状況である。


「それより、なんで屋上に呼び出したの?」


「え、そりゃあ恋愛の話なんて他の人にウワサ拡げられたらやばいじゃん。今は大SNS時代なのだよ少年。ウワサや悪口があぁっっと言う間に拡がるの!!」


「そういうもんなのか。」


「……うん。そうだよ。」


自分で言ったことにハッと何か思い出したような顔をして、荻野さんは少し寂しそうにうつむく。どうしたんだろう。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。で!進展具合は!?」


「インステのフォローが返ってきて…あ」


スマホに目をやり、たしかにフォローが返ってきていることを確認した瞬間。

DMの欄に通知のマークが一件付いている。


「荻野さん。これって…」


僕はDMの通知欄を荻野さんに見せる。


「これってって何よ。開いて内容見せてよ。」


「あっはい」


美鈴さんからのDMだ。しかも昨日。


「あれれれれこれって美鈴ちゃんが送ってきてるやつじゃん。」


「そう、みたい」


もしかしてだけどDMの返信返してないことが気に触ったのか…?


「女子ってDMの返信返ってこなかったらムカつく?」


「日比野くんよ、人それぞれだぞ。それは」


内容を開いて見る。


『フォローありがと!よろしくね〜(鈴の絵文字)』とのことだ。


なんて返そう。


『こちらこそありがとう!よろしく!』で良いかな。


荻野さんが僕のスマホを覗いて苦い顔をする。


「お前、それで返すの?えぇ…」


どうやら不正解の解答だったようだ。てかお前って呼ばれた?


「じゃあ他になんかあるのか?」


「もっとさ、あるじゃん。なんか、『よろしく!アイコン◯◯だけど△△好きなの?』とかさ。知らないけど。」


なるほど!荻野は天才だったのか!


僕はせっせとその通りに文字を入れる。


「バカなん?〇〇ってほんとに書くなよ。」


「スイマセン…」


なんだかどんどん荻野さんの口が悪くなってる気がする。


「えっと『よろしく!アイコン小鳥だけど鳥好きなの?』送信っと。良いよね?」


「良いんちゃう?」


これで美鈴さんの機嫌が戻れば良いな。僕の気のせいかもだけど。







 昼休み。まだ春だというのに教室はにぎやかである。


私は友人達といっしょに昼食をとっている。


「でさ〜かのん聞いてよ。元カレがさ復縁しようって言ってくんの。」


「え、それは良いことなんじゃないの?」


「全然全然。だってなんか飽きたし。」


この子は羽塚灯夏はづかとうか。ロシア人と日本人のハーフで金髪。だから中学のときからモテまくってて元彼がたくさんいるの。


「灯夏っていつもそうよね。飽きたがほとんど。ゲームか。」


「は、瑞月みずきお前、何でもゲームにすんなし。」


ゲームの子。この子は貝原瑞月かいはらみずき。暗めな感じなんだけどプロゲーマーを目指してて、ゲームのことになると発狂やブチギレたりもする。ちなみに瑞月も同じ中学校なの。


「まず彼氏がいたことが凄いんだからな〜」


ありゃ心の声がこぼれちゃった。すると灯夏が、


「逆になんでかのんは彼氏いたこと無いんだっけ?」


「へっ?」


「分かる、私もかのんは彼氏いたもんだと思ってた。むしろ現在進行系でいるとも思ってた。」


瑞月の追い打ち。だってさ、


「だって向こうが好きでも私が好きじゃないと…」


「かのんめっちゃ乙女じゃん。白馬の王子様待つ系のやつ、んなもんゲームだけだよ。」


「だからゲームにするなって!てかそんなゲーム無いだろ!」


「あるんだなコレが。」「まじか」


あはは、と2人の会話を見ているとスマホから通知音。


おや、こんな時間に誰だろ。



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