第3話 そんなことあっても良いんですか?



 「ふっっ…あぁぁ〜よく寝た!」


夢の世界から現世に戻ってきた永見はクソデカボイスで言う。


「流石にぐっすり眠りすぎだろ。ヨダレたれてんぞ。」


「ふーん。日比野も寝てたくせによく言うぜ。」


「あれは仕方ねえだろ。あの先生の囁きで寝ないわけがない。」


「ま、そうかもな〜」


ケタケタ笑いながら、永見はそう言った。


僕らは教室に戻る。


さっき、美鈴さんとすれ違ったところをまた見る。


また、こういうことがあったらいいな。


となりの永見に聞こえないほどちいさくつぶやく。








さて、今日も部活の時間だ。


えっと、何部に入ってるんだって?


僕は、中学の時からやってるサッカー部に入ってるよ。


こんなこと言うのも何だけど、実はサッカー部の場所から陸上部の美鈴さんが見えるんだ。


もちろん周りには言ってないが。


僕のポジションはフォワード。点を決めるっていう点では、最高の目立つポジションだ。


3年生の最後の見せ場となる地区大会も近づいてきたから、先生も気合が入っている。


昔からこの神原高校はサッカーが強く、全国出場も狙える。


だから、この学校にきたのだ。


せっかくだから今季、全国に出場して美鈴さんに僕のシュートを見てもらいたいな。


そのためにも練習は欠かせない。


「おい、日比野!早く外周行くぞ!」


そう叫ぶのは3年の先輩、郷間弘志先輩だ。


先輩は現部長であり、僕と同じくフォワードの先輩である。


何と言っても、今年こそ全国に出るために意気込んでいるのだ。


「今行きますよっと。」


僕は、学校用の靴から履き替え、先輩の元へ行く。


「さあ!今日は10周だ!」


「まじっすか。」


陸上部かよ。しかも長距離の。







 走り始めて、はや3周。


昔から、走り込みはずっとしてるのだが、ここ毎日は流石にしんどい。


「おいおい、ペースが落ちてるぜ。日比野気合い入れろ!」


「分かりましたー」


熱血すぎてうざいとこもあるがいい先輩なんだよなー。


他の先輩は、僕が一年でレギュラー入りしてるのが気に入らないらしい。


中学のときの栄光に縋って、推薦ではいったのにな。


それは、努力から来てるのに。


そんな考え事してたら、先輩はまた遠くに。







 7周目。あと3周、やっとだ。


先輩は、このあとの練習のことを考えてないのか、アホみたいな速さで10周終わらしている。


早く終わらせないとドヤされるなあ。


「へばってるの日比野くん?」


ふと、柔らかな声が聞こえる。


僕のとなりには、美鈴さんがいた。


「へ、へばって無いよ!」


声が上ずり、裏返ってしまった。


「ふふっ、強がりなんだね。」


くぅぅーーーー!可愛いッッ‼


「さっきさ、廊下を凄い走ってたから元気なんだと思ってたけど、やっぱり疲れてるんだね。」


「え、まっ、まあ多分?」


そんなに僕のペースは落ちているんだろうか。


「休むのも大事だよ?これ、長距離の選手からのアドバイスだからね!」


「あっありがとう!」


「ばいば〜い。」


そう言うと、美鈴さんはペースを上げて行ってしまった。


なんだろう今の幸せな時間。


今日は、良いことづくめだ。


こういう優しさが好きなんだよなぁ。


美鈴さんの行った後を追うようにペースが上がっていた。


自然と力が湧く。


ハハハッ!!こんなに走るのが楽しいのは始めてだ!





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