第3話

 眩しい。擦りながら目を開けると、カーテンのすき間から太陽の光が差し込んでいた。沸き上がるあくびをかみ殺しながら、俺は身体を起こす。

 どうやら俺は寝てしまったらしい。昨日の夜は大変なことをしでかしてしまったような気がする。だが、あれも夢に違いない。

 さて、渉はどこにいるんだろうか。辺りを見渡すと俺の後ろに転がっていた。全裸で、すやすやと寝息をたてている。

 酔っ払った勢いで服を脱いでしまったんだろうか。まったく、仕方ないな。服を着させるには起こさないといけないが、それは忍びない。毛布でもかけてやろう。

 ベッドを見るとタオルケットの上に脱ぎ捨てた服が散らばっている。その中に見慣れたものが混ざっていた。俺が昨日着ていたシャツに見える。そういえば、俺も全裸だ。渉につられて服を脱いでしまったんだろうか。

 俺は洋服を全て着て、タオルケットを渉にかけてやると部屋を見渡す。全身鏡に写った姿に違和感があった。

 首筋にアザのようなものができている。裸で寝たから、虫にでも刺されたのだろうか。

 床には空けたアルコールの缶や食べ物のゴミが散らばっていた。一応、泊めてもらったんだから、片付けておこう。

 空になったコンビニの袋にゴミを入れていると、フタが外れたチューブ容器が転がっていた。

 不用意に踏んで、中身が飛び出したら大惨事だ。手に取ってみると、透明なゼリー状のものがちょろっと出てきたくらいで、ほとんど空だった。

 ふぅ、良かった。にしても、こんなもの、何に使ったんだっけ。その時、渉が裸で俺の上に跨がっている姿が頭に過った。

 えっ、それは夢のハズだ。しかし、手元にあるのは使用済みの容器。どういうことだろう。混乱していると渉があくびをしながら、起き上がった。

「おはよう。今、何時?」

 俺はポケットに入れていたスマートフォンを取り出して確認する。

「朝の七時だけど」

「早っ。昨日は体力使ったんだから、まだ寝てりゃ良いのに」

 体力? 確かにキックボクシングのジムで練習をした。そういえば、いつもより身体の節々が痛む。飲み会の前にヴァンさんに追い込まれたのが効いているのかもしれない。

 渉は立ち上がって、そのままこっちに近付いてきた。朝から元気だ。体育会系の奴は隠さないんだろうか。それとも、人に見られても平気なくらい自信がある? 

 彼は俺の前に来ると首筋をそっと撫でた。眠っていた甘い刺激が目を覚まし、思わず声が漏れる。渉は鼻を鳴らす。

「何で服着ちゃったの? 朝、続きをしようって言ったのに。清吾、脱がされるのが好きなタイプ?」

 続き? 練習の話だろうか。けど、それだと話が噛み合わない。いや、確かにそんなことを言われた覚えがある。胸の鼓動が高鳴り、身体が熱を帯びていく。

 あれ、やっぱり夢じゃなかったんだろうか。だとしたら、俺は彼と――。混乱していると渉が肩を叩く。

「なんてね。昨日、あんなにがんばっちゃったから、今朝はもう無理でしょ。また、今度にしよ。オレ、寝るわ」

 彼は俺の首筋を唇で触れるとタオルケットを拾って、ベッドに潜り込んでしまった。すぐに寝息が聞こえる。

 一人置き去りにされた俺は立ち尽くすしかなかった。

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