第3話 登校

 優真と菜々子は一緒に登校する。菜々子の自宅から徒歩10分で到着する、最寄りの駅から電車に乗車する。


 優真達の通う、一宮高校は次の駅が最寄り駅である。


 電車に乗る際も、どこか菜々子はソワソワする。


 もしかしたら、電車に乗ることが初めてかもしれない。だから、戸惑っているのだろう。


 その挙動に、再び優真は違和感を覚える。やはり自身の良く知る幼馴染とは異なる。


 だが、客観的な根拠は存在しない。直感といった主観的根拠しか無い。


 だから、たまたまだと、強引に違和感を打ち消す。身体を動かさずに、打ち消せなかった。頭を左右に幾度か振って、抹消した。


 目的地の駅に到着すると、優真達は電車から降りる。同じように、多くの一宮高校の男女生徒達も下車する。


「ちょっと飲み物を買いたいから。コンビニ寄ってもいい? 」


 駅を抜け、近所の大手コンビニを指さす優真。


「コンビニ? …ああ…いいよ…」


 おそらくコンビニが分からなかったのだろう。その場凌ぎのため、菜々子は適当に返事をした形だ。その証拠に、逃げるように、菜々子は地面に目を逸らす。


 横断歩道を渡り、優真と菜々子はコンビニへ入店する。


 テレレレン。


 入店の歓迎を伝える、コンビニお馴染みの音が、優真の鼓膜を撫でる。人生で何度も耳にした音だ。


「すぐに飲み物取って会計してくるね」


 買い物を素早く済ませるため、優真は冷蔵庫エリアに向かう。


 冷蔵庫にはジュース、水、ビールなどが冷蔵される。


 多くの選択肢の中から、普段から購入するお茶を冷蔵庫から取り出す。冷たい冷気が優真の手全体に伝わる。冷蔵庫を閉じ、その冷気は彼方に消える。冷たさを感じない。


 一方、菜々子は店内に陳列するパンを眺めていた。総菜パンや菓子パンなど、多様な種類のパンが袋にパッケージ化される。


「美味しそう…」


 ぐうぅ~~。


 菜々子のお腹が控えめに鳴る。


 朝食を取っていないため、菜々子はお腹が空いたのだろう。物欲しそうな瞳で、焼きそばパンを見つめる。菜々子の目は焼きそばパンのみを捕まえる。


 自然と袋詰めされた商品の焼きそばパンに手が伸びる。焼きそばパンを右手で掴む。


「お待たせ! 会計済ませたから。学校に行かない? 」


 レジ袋を手にした、優真が姿を見せる。わざわざ菜々子を探し、パンのコーナーまで辿り着いた。


「うん? もしかして、その焼きそばパンが欲しいの? 朝ご飯食べてないもんね」


 菜々子が手にする焼きそばパンを見て、優真は察する。


 菜々子の好奇な目線が焼きそばパンに集中する。


 実に分かりやすい。


「うん…。だから食べる」


「は? 」


 淡白に答えると、いきなり菜々子は焼きそばパンの袋を開封した。


「ちょ!? 何してるの菜々子! 」


 突発的な菜々子の行動に、優真は動揺を隠せない。細い目は普段よりも大きく見開く。


 しかし、そんな優真などお構いなく、菜々子は袋から焼きそばパンを取り出す。完全に未購入の商品を鷲掴みする。


 そのまま焼きそばパンを口に運び、かぶり付いた。適量焼きそばパンをかじり、咀嚼を始める。


「うん。美味しい」


 平然と焼きそばパンの感想を口にした。


 驚愕の光景に直面し、優真は空いた口が塞がらなかった。

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