第2話 幼馴染

 森山優真もりやまゆうまは幼馴染の藤井菜々子の自宅に足を運ぶ。


 菜々子の自宅は黒の一軒家である。2階建てで、庭には長方形の緑の芝生がある。


 菜々子の自宅は優真の家の近所である。


 優真は奈々子と幼稚園からの付き合いだ。小中も同じが学校だった。そして、現在でも同じ高校に通う。


 今は2人とも高校2年生だ。1年生の頃から一緒に仲良く登校する。


 毎回、優真が自宅に迎えに来た頃には、学校の準備を完了している幼馴染。すぐに、自宅のドアから姿を現す。


 だが、本日に限っては違った。ドアフォンを押し、待機しても、中々出てこなかった。


「ごめんなさいね優真君。菜々子ったら、寝坊しちゃったみたいなのよ。だから、一旦自宅に上がってちょうだい」


「いや、いいですよ。外で待ちますよ」


 遠慮して、優真は菜々子の母親の提案を断った。


「いいのよ。遠慮しないで。それに優真君だから自宅に上げるのよ。優真君は私達にとって特別だから! だって菜々子の幼馴染だもの! 」


 器用にウィンクし、奈々子の母親は自宅に上がるように薦める。


「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」


 お礼を口にし、優真は奈々子の自宅にお邪魔する。靴を脱ぎ、玄関に足を踏み入れる。


 菜々子の母親によって、リビングに通される。


 リビングには、あふぁと大きなテレビが目立つ。テレビは50インチは優に超えているだろう。家族共有の専用パソコンもあった。


「優真君はソファに座って待っててね! 」


「はい」


 菜々子の母親に案内され、優真はソファに腰を下ろした。臀部の体重を柔らかいソファが受け止めてくれる。むにゅっと弾力のある感触も伝わる。もしかしたら、高級なソファなのかもしれない。


「珍しいですね。菜々子が寝坊するなんて」


「そうよね~。滅多に寝坊しないんだけど。今日に限っては寝過ごしたみたいね」


「5月だから疲れがでてるのかもしれませんよ。季節の変わり目で。5月病みたいな」


「そうなのかしらね。あの子が季節の変わり目で体調を崩した覚えはないけど…」


 リビングで、優真は奈々子の母親と会話を交わす。菜々子の母親とも幼稚園からの知り合いである。そのため、気軽に会話が弾む。緊張感を抱かずに、コミュニケーションが取れる。


「…お待たせ」


 優真が会話を交わす最中、2階から階段で折り、菜々子がリビングに姿を見せる。


「おぉ! 珍しいな。菜々子が寝坊するなんて! 」


 普段の調子で、フランクな口調で、優真を菜々子に言葉を掛けた。緊張など微塵も存在しない。わずかに笑顔が漏れるほどだ。


「…うん。ちょっとね。やらかしちゃった」


 ぎこちなく、菜々子は答えた。普段と異なり、優真と視線を合わせない。


 その対応に、優真は少なからず、違和感を覚える。


 普段の奈々子とは、どこか違う。髪、顔、仁美、はいつもと全く同じだ。変化なし。


 だが、発するオーラ? 雰囲気? どことなく別人だ。確証はない。ただ優真の直感が、敏感に反応する。


 菜々子は白のカッターシャツと真緑のスカートを着用する。


 偶然にも、部屋のハンガーに掛けてあった、制服を適当に着用した。


 ハンガーに私服が掛かっていれば、おそらく着用していただろう。容易にその光景は想像できる。


「それじゃあ。学校に向かうか」


 違和感は自身の勘違いと結論づけ、優真は学校に行くように促す。まるで、体内から直感を打ち消すに。


「…学校? …うん。分かった」


 乗り気では無い声で、菜々子は返事を行った。やはり、優真の馴染みある菜々子とは様子が異なる。


「奈々子~。朝ご飯いらないの? 」


 菜々子の母親が尋ねる。


「…今日はいい…」


ぎこちない笑顔で、菜々子は答えた。菜々子の目はぎこちなく笑っていた。微妙だが、僅かに眉も下がる。


 ソファから立ち上がった優真と共に、母親に見送られながら、菜々子は自宅を退出した。

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