ヒロインは俺の世界の人間ではない

白金豪

第1話 トリップ

 1人の女子がベッドの上で目を醒ます。


「どこ、ここ? 」


 彼女にとって知らない天井が視界に収まる。真っ白で汚れ1つ無い天井だった。


 女子は戸惑いながらも、ベッドから素早く起き上がる、部屋全体が視界に入る。目にしたことが無い内装だった。以前、女子が住んでいた自宅とは大きく異なる。知らない部屋だった。


 部屋全体はピンク色だった。女子らしい部屋だった。


「あれ? 頭はもう…痛くない」


 優しく頭に手を添える。頭に多大な痛みは存在しない。


 女子の記憶では、自身が多大なる痛みを覚えて、倒れたはずだった。確か、出稼ぎの仕事場で倒れたはずだ。


 風邪の頭痛とは大きく違い、脳に響く頭が割れそうな痛みだった。激しい痛みで倒れた時は、死を覚悟したほどだ。ものの数秒で、痛みが起因して、意識は失ったが。


 激しい痛みを頭に患うまで、女子は悲しくむごい人生を送っていた。


 まず学校ではいじめを受けていた。同性からのいじめをうけていた。暴力を奮われたり、私物を盗まれたり、悪口を言われたりしていた。散々だった。想起するだけで、女子の心の傷が開く。ずきずき胸の中央に痛みが発生する。


 しかし、女子には救いがあった。彼氏がいた。彼氏は優しく、いつでも味方だった。彼氏との時間が幸せな時間だった。彼氏さえいれば、何をされても、耐えることができた。


 だが、その幸せも幕を閉じた。


 いじめの首謀者が女子の彼氏をNTRした。偶然にも、彼氏といじめの首脳者が

身体を接触させ、興奮して、エロい声を漏らす姿を目にしてしまった。不運にも、彼氏を帰宅に誘おうとしたタイミングで、見てしまった。


 その当時、目から大量の涙を流しながら、女子は自宅に帰宅した。


 だが、帰宅しても、自宅で寝込むことも不可能だった。


 女子の自宅は貧乏であり、両親の収入が著しく低かった。そのため、生計を立てるために、遠い町に出稼ぎに出ていた。


 いじめの主謀者に彼氏をNTRされた当日も、出稼ぎの日だった。


 目を真っ赤に腫らしながら、女子は出稼ぎのために、遠い町に移動した。


 真っ赤に腫れた女子の目を視認しても、出稼ぎの仕事場の人間は心配すらしなかった。


 ひたすら、女子に力仕事を提供した。女子が体力的に不甲斐ないと、男性からの激しい罵倒があった。


 ストレス、絶望、疲れ、すべての要素が影響し、出稼ぎの仕事場で、女子は倒れた。そのまま、死亡したわけだ。


「とにかく、鏡だけはチャックしないと」


 ベッドから立ち上がり、部屋に設置された、立て掛け状の鏡の前に移動する。鏡は女子の身体全体を反映する。


「え!? 」


 鏡に映った自身を視界に収め、女子は悲鳴のような声を上げる。


 以前とは大きく異なる、女子の顔が鏡に映っていた。


 ロングの黒髪、茶色の瞳、乳白色の肌を所持した美少女の顔に変貌していた。女子の記憶する自身の顔とは全然違う。


 なぜなら、異世界では、赤紙でオレンジ色の瞳をしていた。いじめと出稼ぎのストレスから、肌も大きく荒れていた。しかし、現在の顔には、荒れるどころか、拭きで物1つすら見受けられなかった。


 さらに、貧弱だった胸も栄養が行き届き、発育の良い豊満な胸に進化していた。


「これが……私? 」


 現実を疑い、夢か確かめるように、女子は自身の頬に手を当てる。以前とは異なり、すべすべで、もちもち弾力もあった。


「菜々子~。優真君が迎えに来てくれたわよ~~」


 聞き覚えの無い女性の声が、女子の鼓膜を刺激する。スムーズに耳の中を通過する。


 そう、女子は、前の身体を失い、藤井菜々子の姿に変化していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る