黒白の魔神

 気づいた時、俺は元の姿に戻っていた。


 周囲を見渡せば、刃馬と飯島が警戒態勢のまま構えていて。魔神フェグニアは呆気にとられた様子で俺を見つめていて。

 そして――俺の目の前では、尻餅をついた詩織が泣きじゃくった表情で見上げてきていた。


「れ、怜君……?」

 その詩織が、しゃがれた声で俺に問いかける。

「怜君だよね……? 元に、戻ったんだよね……?」


「…………」

 若干の気まずさを抱きつつ、俺は後頭部をさすりながら答えた。

「そうだ。随分と迷惑かけたな」


「れ、怜君っ…………‼」


 詩織は咄嗟に駆け出すと、そのまま俺の胸に飛び込んできた。

 勢いあまって靴が片方置き去りになってしまったが、もはやそんなことを気にしている様子はない。


「よかった! よかった、よかった、よかったよぉ……! 怜君……!」


「すまないな。嫌な予感はしてたが、まさか俺の正体があんなだったとは……」


「いいの。そんなのは細かいことじゃない」

 詩織はそこで顔をあげると、涙をこらえた表情でにっこりと笑った。

「ありがとう。私の元に戻ってきてくれて」


「…………」


 最初は明らかに面倒くさい女で、かかわりを持ちたくもなくて。

 平凡な高校生活を優先するために、なるだけ彼女との接点を持たないようにしてきて。


 けれど、こればかりは感謝せねばならないだろう。

 チャンネル登録者一千万人超えだとか、そんなことは関係ない。


 俺は彼女と出会ったから、この危機を脱することができた。

 それはもう、疑いようのない事実なのだから。


「ああ……俺のほうこそありがとうな」


「うん、うんっ……!」


「――怜様。よくご無事で戻られましたな」

 ふいにそう声をかけてきたのは刃馬力也。

 飯島ともども、俺のもとへと歩み寄ってきた。

「……二人にも心配かけたな。もう大丈夫だ。またあんな姿に戻ることはないだろう」


「ふふ、それは何よりです。暴力団組長の息子ってだけでも珍しいのに、さらには前世が〝異世界の魔神〟ときましたか。設定てんこ盛りですな」


「なに言ってんだ、まったく……」


 なんだか日常が戻ってきたようにも感じるが、もちろん、これですべての事件が終わったわけではない。


 ダンジョン外においては、いまだに警察と暴力団が暴れているところ。

 そして俺たちの目前には――言うまでもなく、魔神フェグニアが立ちはだかっている。


「し、信じられない……。いったい何が起きたっていうんだよ。僕らが長年にわたって積み上げてきた怨念と執念が……」


 どうやら、俺が元に戻ったことがよほど信じられないらしいな。


 たしかに先ほどまで、俺は自分が自分でなくなったような感覚を覚えていた。

 仮に詩織たちの助けがなかったとしたら、俺はあのまま呑み込まれていたに違いあるまい。


「ありえない。ありえないありえないありえないありえない……! 人ごときが、僕らの力と想定を上回るなんて……!」


「魔神フェグニアさんよ。どうやらここが年貢の納め時らしいな」

 そんな魔神フェグニアに向けて、俺は厳しい視線を向ける。

「警察官や暴力団を乗っ取り、日本全土を危険に陥れようとしたおまえらの計画……。悪いが、ここで阻止させてもらうぜ」


「ふふ。はははは。はははははははははははははは!」

 俺の言葉を受けて、魔神フェグニアは狂気じみた笑い声をあげる。

「こりゃ困ったねえ。人間世界に馴染みすぎて、レンディアスはなんとも甘ったれた考えを持ってしまったようだ。――これは無理やりにでも《零の異界》に連れて帰って、元に戻してあげないとねぇ……♡」


「…………」


「観念するんだねレンディアス。どうやら君はレベルカンストの境地に至ってるようだけど、そもそも僕らはレベルの概念に縛られない存在。人の姿へと朽ちてしまった君には、絶対に僕には勝てない」


 ドドドドドドドドドドドドド……!

 突如、魔神フェグニアを起点として強烈な震動が発生した。


「くうっ……!」

「ぬぬ……!」


 ダンジョンそのものを揺るがすほどの地震に、詩織や飯島も片膝をついた。


 そして数秒経った頃には、魔神フェグニアは見るも巨大な化け物へと変貌を遂げる。見上げんばかりの巨体に、背中から伸びる漆黒の両翼、この世のすべてを凍てつかせるような冷たい目つき……。


 先ほど俺が変身したのと近しい姿へ進化を果たしたのだ。


「ちっ、またあの姿かよ……!」

 なんとか地震を耐え抜いた刃馬が、巨大化した魔神フェグニアを見て苦々しい表情を浮かべる。

「怜様、あれは冗談抜きでやばいです。全員で戦って、なんとか活路を見出しましょう……!」


「…………いや。その必要はない」


「へ……」


「たしかにレベルカンスト程度の実力ではあいつには勝てないが――俺も達したんだよ。一瞬だけ魔神化した影響でな」



――――


大桃 怜 17歳 レベル逅?r雜?カ


 物理攻撃力:逡ー逡後?邇

 物理防御力:逡ー逡後?邇

 魔法攻撃力:逡ー逡後?邇

 魔法防御力:逡ー逡後?邇

 俊敏性  :逡ー逡後?邇


――――


 俺は一瞬だけ自身のステータスをチラ見する。


 魔神フェグニアいわく、俺たちはステータスの縛りに囚われない存在。それゆえに文字化けが起こってしまっているのだと推察できた。

 


――――


数多の声援を受け、《世界終末の剣》は《世界創生の剣》へと変化を遂げました。

これにより、元より〝邨らч〟をもたらすことに特化したレンディアスの力に、〝蜑オ逕〟の異能が加わります。


――――


 そのステータスウィンドウが表示された瞬間、俺自身を相反する二つのオーラが包み込んだ。


 一色は闇色。物事に終焉をもたらす破壊の力。

 一色は白色。物事にはじまりをもたらす創生の力。

 本来なら混ざり合うことのない黒白のオーラが、俺を包み込んでいた。


「は……? レ、レンディアス、なんだよそれは!」


「さあ、第二の力を始めようぜ。創生と破壊をもたらす魔神の力でな……!」

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