積み重ねた縁
魔神レンディアス=ゾロアーガ。
元々は怜君というだけあって、彼は信じがたいほどの力を有していた。
私たちも三人がかりで挑んでいるはずなのに、まったく攻撃を打ち込む隙を見せてくれない。よほど敏感に気配を察知しているのか、こちらが攻撃を叩き込む寸前に、的確な行動を取ってくるのだ。
「ぬおおおおっ!」
現に今も、レンディアスに攻撃を浴びせるべく突進していた刃馬が、慌てて身を翻してしてきたところだ。
レンディアスの持つ《世界終末の剣》から、漆黒の雷が襲い掛かってきたのである。
「は……ははは……。さすがは怜様。手も足も出ませんや」
あの刃馬でさえ、額に汗を流して苦々しい表情を浮かべている。
それに加えて、あの《世界終末の剣》もかなり厄介だった。
風圧だけで地面を抉る威力も去ることながら、一振りで攻撃対象者へ雷が襲い掛かってくる追加効果付き。おどろおどろしい名前をしているだけあって、かなり強力な武器と言わざるをえなかった。
「おおおおおおおおっ!」
しかしこちら側にも有能な人材が集まっている。
レンディアスが攻撃した隙を縫って、飯島が魔導銃を発砲。
渾身の威力がこめられた魔力弾を、攻撃直後のレンディアスに向けて放ったが――。
「なに……?」
しかし飯島が懸命に放った銃弾は、レンディアスの肉体に虚しく弾かれていくだけだった。文字通り、かすり傷ひとつ負わせることなく終わったのである。
「ば、馬鹿な……。《裏アイテム》で威力をブーストしていたはずだが……」
「あッはッは、何を驚いてるのさ。当然の結果でしょ」
そう愉快そうに笑うのは、脇で戦いを眺めている魔神フェグニア。
この戦闘をまさか楽しんでいるのか、余裕そうに腕を組んで突っ立っていた。
「大桃怜は元々レベルカンストの領域に立っていたけれど、今のレンディアスはそれとは比較にならないほどの強さを持っている。……というか、そもそもステータスの概念に縛られない存在だからねぇ。君たちに勝てるわけ――」
「ガァァァァァアアアア!」
魔神フェグニアが言い終わらないうちに、レンディアスは周囲に雄叫びを轟かせた。
「うああああああっ!」
「ぬおおおおおっ!」
ただ音圧を喰らっただけなのに、私たちは勢いよく吹き飛ばされてしまった。
攻撃を喰らったわけじゃない。
なにか手痛い一撃をもらったわけでもない。
ただ咆哮を喰らっただけで、こんなにも強い衝撃を受けるなんて……。
ここまでくればもう、「強い」どころか、「絶対に勝てるわけがない」という気がしてくる。
「く…………」
それでも、私は諦めない。
諦めたくない。
あの優しかった怜君がこのまま魔神になっちゃうなんて――嫌だよ。
「やぁああああああああ!」
だから私は、無我夢中でレンディアスに突っ込んでいった。
勝算なんてない。作戦もない。
このまま考えなしに戦ったって、絶対に勝ち目がないのはわかっている。
それでも。
――いまのでわかったと思う。俺はおまえが思ってるような、立派な人間じゃねえんだ。今回は無事に切り抜けられたが、またいつ巻き込まれるかもわからねえ――
――だからおまえも、俺とは縁を切れ。俺なんかと一緒にいたって、いいことなんて一つもねえんだから――
「駄目だよ、怜君……。そんなふうに、自分だけでなんでも抱えこんじゃ……」
がしっと。
決死の突撃も虚しく、私はレンディアスの巨大な手に捕まれた。
「言ったじゃない。あんまり自分だけで抱え込まないでって。これからも――一緒にいさせてって」
「あッはッは、無駄だよ。無駄無駄」
しかしそんな私の呼びかけを、魔神フェグニアが愉快そうにあざ笑うかってくる。
「さっきも言ったでしょお? さっきの《世界終末の剣》は、僕らの怨念がトリガーとなって完成したもの。僕らは恨んでるんだよ。君ら人間をね」
「うあっ…………!」
そのままレンディアスに放り投げられ、私は壁面に思い切り激突した。
全身に強烈な痛みが走る。
身体じゅうが悲鳴をあげ、もう動けないと訴えてくる。
「詩織さん!」
「佐倉殿!」
刃馬や飯島も慌てたように立ち上がるが、しかし彼らも激戦で疲れ果てている身。
私を助け出すこともできず、口惜しそうにその場に留まっている。
「ガガガガ……コロス。ニンゲン、ミナ、コロス………………!」
そして。
地面に這いつくばっている私に、レンディアスがゆっくりと近寄ってきた。《世界終末の剣》を掲げ、その切っ先を私に向けてくる。
「れ、怜君……」
「ニンゲン。コロス。ニンゲン、コロス……」
今のレンディアスからは、もはや理性も知性も感じられない。
本当に魔神としての人格が戻ってしまっていることが、否が応にも感じられてしまうのだ。
あと数秒もすれば、私は彼に亡き者にされてしまうだろう。
それでも構わない。
たとえ私が死んだ後でも、彼の意識さえ取り戻すことができれば……。
「大丈夫……大丈夫よ、怜君」
そう言いながら、私はこっそりとスマホをポケットから取り出す。
うまくいくかはわからない。
けれど……!
「お願いみんな。私に力を貸して……!」
★ ★ ★
ルキナオ:1コメ
ですと:1コメ
エリアゼロ:護月院高校の動画から
ばぶる:学校での大桃君、すごかったなぁ
ルキナオ:ん? なんだこれは
ゆっきー:は⁉ なんだあの化け物⁉
ヴェット:おいおいおいおい
ばじゃじゃ:しかも変なダンジョンだ
ですと:てかこれ、かなりのピンチじゃね?
ヒュース:大桃君は? 大桃君はどこいったの⁉
ルキナオ:みんな待ちたまえ。ユリアちゃんが何かしゃべろうとしてる。
カーリア:えっ
マイク:は⁉
佐藤:変な力のせいで、大桃君があの化け物に……⁉
れーおん:どういうこと⁉ そんなわけないだろ⁉
ルキナオ:なるほど。《世界終末の剣》は生物の「思い」や「気持ち」がトリガーとなって完成したもの。そして大桃君は〝怨念〟に囚われて化け物となった。だからこそ……僕たちリスナーの感謝を届けてほしいっていうことか。
むらえん:なんだよそれ。意味わからんのだが
ヒュース:そんな漫画みたいな展開……
ルキナオ:何を言ってるんだ。あのユリアちゃんと大桃君が困っている。……ただそれだけで、彼らを助けるには充分すぎる展開じゃないのかね。その程度の気持ちがなくて、なぜ我らは二人を推していると言えるのだ‼
ばーです:とは言ってもね……
みかん:は⁉ 私たちの大桃君が困ってるんだよ⁉ 助けない理由ある⁉
エリアゼロ:そうだな。大桃君が護月院高校で戦ってる動画から見直してこい
ビストリア:たしかにね。あそこまで頑張っていた彼を、僕らはただずっと眺めているばかりだった。今度は僕らが……彼を助ける番じゃないかな
ルキナオ:その〝怨念〟とやらが、果たしてどれだけ強いのかはわからない。けれどここには、同接二十万もの視聴者がいる。ならば、その怨念をも超える大桃君への感謝を届けるくらい……きっと容易だろう。
ルキナオ:《50000円 チケット》 頑張れ大桃君! 僕は君のことを信じている。かつてデスデビルオーガの手に陥りかけたユリアちゃんを助け、そして今は、日本の危機のために立ち上がってくれている。そんな君のことを、僕らが応援しない道理はないだろう!
ビストリア:《50000円 チケット》 僕からも君への気持ちを送らせてもらうよ。今までユリアちゃんを守ってくれて、本当にありがとう
むらえん:《50000円 チケット》 仕方ねえ。よくわからんが、大桃氏を助けるためってことでいいんだな!
カーリア:《50000円 チケット》 頑張れ大桃君。俺たちはこんなことしかできないが、君の健闘を祈ってるよ
みかん:《50000円 チケット》 大桃君もどってもどってもどってもどって
ヒュース:《50000円 チケット》 仕方ない! なけなしの金だけど、今日くらいは大桃君に貢がせてもらうよ! 生きて帰ってくれ‼
ルキナオ:《50000円 チケット》 はは、なんだよ。むらえん氏もヒュース氏も、結局応援してるじゃないか
むらえん:《50000円 チケット》 いやいや、二回もスパチケしてるおまえに言われたくないね!
===============
《 ブラウザバックする前にご一読くださいm(__)m 》
私も働きながらなんとか時間を見つけて執筆していますので、
少しでも面白いと感じてくださったなら、ぜひページ下部の『☆で称える』の+ボタンを3回押して、評価を入れていただけると嬉しいです。
※あと【レビュー】や【フォロー】もめちゃめちゃ嬉しいです!!!!!
たった数秒で終わる操作ではありますが、
やはり☆やフォローがあるかないかだけで、作品の未来ががっつり左右されます!
たかがワンポチではありません!
何卒よろしくお願いします……!
また、すでに☆やフォロー、応援して下さっている方、本当にありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます