怠惰な陰キャ、真の力を解放する
戦闘を続けるにつれ、明らかになったことがある。
それは警察も暴力団も、俺を第一優先にして襲ってきているということだ。たとえば近くに生徒たちがいたとしても、俺を攻撃する絶好のチャンスを見つけたら、俺を優先して攻撃を仕掛けている。
これが薬物の効果なのかはわからない。
だがこれこそが、この状況を打開するチャンスに違いなかった。
敵陣営のなかで最も怖いのは、言うまでもなく拳銃。この銃弾さえうまく対処できれば、ひとまず最悪の事態だけは避けられるからな。
あとは暴力団連中のヘイトをうまく俺に向けられさえすれば、生徒たちともうまいこと連携を取れるはずだ。
「ガァァァァァァアアアア!」
「――うるせぇよ」
背後から襲いかかってくる暴力団に、俺は振り向きざまの裏拳で反撃をかます。
「かはっ……!」
一発。
たったそれだけで暴力団は仰向けに倒れ、身じろぎもしない。
「だぁぁぁああああ!」
「シネ! オオモモレン……!」
その後も断続的に攻撃をしかけてくる敵の攻撃をうまいこと躱し、それぞれ顎にクリーンヒットを見舞う。
「くおっ……!」
「バカナ……!」
掠れ声を発し、そのまま動かなくなる暴力団と警察官。
こうして考えなしに飛びかかってくるのを見ると、先日、傘下の暴力団どもが襲ってきた事件が思い起こされるな。
神須山の組長の息子へ、傘下の組員が喧嘩を仕掛ける……。
どう考えてもありえない出来事だったが、やはり薬物によって知能デバフをかけられていたか。
「つ、強い……」
「大桃さんだけたった一発で倒してるぞ……」
戦闘の合間でそう呟いている生徒たちに、俺は大声で発破をかけた。
「おらぁボサっとすんな! よそ見して勝てるほど弱い相手じゃねえだろ!」
「は、はいっ! 失礼しました……!」
びくっと背筋を伸ばし、そのまま戦いを続行する生徒たち。
本来なら勝てるはずもない相手だが、俺にだけヘイトを向けられる状況を利用することで、うまいこと戦えているな。
たとえ俺が囲まれたとしても、知能デバフかけられてる奴らなんぞ相手にならない。
さすがにここにいる全員と戦うのは厳しかったかもしれないが――それは生徒たちに感謝せねばならないところか。拳銃を持っている警察官もいたわけだしな。
おかげで敵のほとんどは殲滅することができた。
残りは三名ほどの暴力団……。
拳銃を所持している警察官は先に始末しておいたので、もはやこれ以上は恐れるに足らないだろう。
「ガァァァァァアア!」
なおも馬鹿の一つ覚えのように突進をかましてくる敵集団。
俺はサイドステップでその突撃を避けつつ、
「いまだいけ!」
と生徒たちに指示を出した。
生徒たちはそれに「はいっ!」と素直に返事をするや、数名がかりで暴力団に体当たりを敢行。体格的にはもちろん敵うはずもないので、全身全霊のタックルをかましている形だな。
その隙に、俺は残りの暴力団たちをアッパーで仕留める。
「ヌオ……‼」
暴力団どもは白目を剝き、どさりとこの場で倒れた。
「やっぱり強ぇ……」
「俺たちが体当たりでやっと倒してる連中を、たったパンチ一発で……」
「……ちっ」
またもヒソヒソと話している生徒たちに喝を入れたくなったが、もはやその必要もない。
周囲を確認してみれば、敵集団の全員が地面に突っ伏しているからな。
見ての通り――俺たちは勝ったのだ。
「おおおお……!」
「どうにかなったぞ……! 俺たちの勝利だ……!」
生徒たちも数秒遅れてこのことに気づいたのか、全員で歓喜の声をあげている。
暴力団と警察官に勝負を仕掛けるなんて、生きていてなかなか起こらないことだからな。勝利の喜びも
しかも怪我人はついぞ一人も現れなかった。文字通りの完全勝利といえよう。
俺もようやっと心を落ち着けられると思い、気を緩めかけた――その瞬間だった。
「ちっ……まだ来るか」
まだ生徒どもは気付いていないが、すぐ近くにまで第二陣が迫ってきているな。
しかも気配を探るに、今度は暴力団よりも警察のほうが多そうだ。
こんなところで拳銃の打ち合いなんかしたら、今度こそ死者が出てしまう。いったいどうしたものか……。
「どうしたんですか大桃さん、そんなに険しい顔をして」
「……おまえら、今度こそ校舎のなかに逃げろ。今度こそ守り切れるかわからねえぞ」
「え……」
「見ろ。あそこだ」
俺がくいっと顎で示した方向には、やはり生気のない表情を浮かべた警察官の集団。
全員が統率の取れた動きで走り寄ってきているのは、暴力団どもにはできない芸当といったところか。
その数、ざっと百人。
第一陣が三十名だったほどを鑑みても、次の戦いは本気で洒落にならない。
「う、嘘だろ……。なんで警察が、こんなことを……」
「わかっただろ。次の戦いはお遊びじゃねえ。おまえらは逃げろ」
「で……でも、大桃さんは戦うつもりなんですよね……? たった一人で」
「…………」
「だったら、俺たちにも戦わせてください。さっきも言ったように、俺たちはもう《傍観者》にはなりたくないんだ」
「おまえら……」
その気概は大いに買うが、しかし今回ばかりは相手が悪い。
大勢の生徒が命を奪われる未来しか見えないので、生徒のその提案を突っぱねようとしたが――。
「ん……?」
どこからともなく豪快なエンジン音が聞こえてきて、俺は思わず眉をひそめた。
このクッソ荒い運転。
疑いようもない、この闖入者は……!
果たして俺たちの傍に、黒塗りの高級車が停められた。運転席に座っていたのは、やはり刃馬力也。俺の素性がバレるのを避けるためか、お面をつけているのは最低限の配慮といったところか。
「刃馬……!」
よかった。
こいつが来てくれさえすれば、少しは戦闘が楽になる。
やはり生徒たちは避難させて、あとは刃馬と二人で戦うのが得策だろう。
そう判断し、俺が高級車に駆け寄っていった瞬間。
(怜様。この場で俺の素性がバレたらまずいです。代わりにこいつを使いますから、思う存分暴れちまってください)
車窓から顔を出した刃馬は小声でそう言いつつ、懐から見覚えのある宝石を取り出す。
「おい、それは……」
「ふふ。こいつさえあれば、警察が一万人いようと怜様なら余裕でしょう。馬鹿な警察官どもに、怜様の強さを見せつけてやってください」
忘れもしない。
それはダンジョン管理省だけが有する裏アイテムで、ダンジョン内でのステータスを現実に作用させる力があったはずだ。
たしかにそれさえあれば、警察官が何百万いようと、一斉に拳銃を撃たれようと、一切負ける気がしない。
「はっ……、やるじゃねえか刃馬。お望み通り、たっぷり暴れさせてもらうぞ」
「ええ、完膚なきまでにぶっ殺してやってください」
仮面の向こう側で、刃馬が暴力団特有の悪い笑みを浮かべている――ような気がした。
――――――――――
別作の話ですが、今週8月24日、下記作品のコミカライズが発売されます!
↓作品紹介ページ
https://www.gentosha-comics.net/book/b630655.html
↓カクヨム作品ページ(作品名違いますが合ってます)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894283316
こちらもなかなか面白い作品に仕上がってますので、ぜひチェックください!
よろしくお願い致します!
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