怠惰な陰キャの勇姿

 いまこの時ほど、ダンジョンでの戦闘経験に感謝したことはない。


 腐るほどモンスターと戦い続けたことによって得た、咄嗟の判断力。

 いついかなる時も適切な対応を取るための、鍛えぬいた動体視力。


 それらの経験を総動員して、俺は咄嗟のうちに銃弾の方向を計算し――その位置に向けて、バッグを掲げた。


 鬼塚の件があってから、念のため防弾仕様のバッグに変えていたのが生きたようだな。

 警官の放った銃弾は、ものの見事にバッグに吸い込まれていった。


「…………⁉」


 さすがに予想外だったか、警官が大きく目を丸くする。


 慌てたように二発目を打とうとしているようだが、もちろん、そんなことをさせるつもりは毛頭ない。


「くたばれ!」


 俺は全速力で駆け抜けて警官との距離を詰めると、敵の腹部に殴打を敢行。


 苦しそうにつんのめっている隙に、右手に握られていた拳銃を奪い取った。銃の所持はもちろん立派な犯罪だが、もはやそんなこと言っている場合ではないだろう。


「動くな。不穏な動きをした奴から殺す」


「…………」


「俺一人だからって勝てると思うなよ。てめぇら貧弱な警察官ごときが――俺に勝てると思うな」


「ぐぬ…………」


 俺の眼光に当てられ、警官が怯みだす。


 このどさくさに紛れて、さっきの女子高生は無事に逃げおおせたようだな。


 俺の背後で尻餅をつき、

「あ、ありがとう……大桃くん」

 と小さな声で呟いた。


「礼を言ってる暇があったらさっさと逃げろ。ここは俺がどうにかする」


「え……でも、相手は警察官だよ……?」


「関係ねえ。まとめてぶっ殺すだけだ」


 そう言い放つと、俺はまわりにいる生徒たち全体に向けて語り掛ける。


「おまえらもとっとと逃げろ。次は守れるかわからねえぞ」


「……お、大桃さん……」


「俺たちを、助けてくれるんですか……?」


 もちろん、俺にこんな奴らを守る道理は一つもないんだがな。


 鬼塚のように直接危害を与えたわけではないにしろ、俺へのいじめを見過ごしていた奴らだ。俺が犠牲になってまで戦う必要はどこにもない。


 だが――この戦闘自体は、俺が引き金となって引き起こされたもの。


 それで誰かが死ぬなんて胸糞悪いし、こいつらを殺したいとまでは思ってないからな。自分で招いたことは自分でケツを拭くだけのことだ。


 生徒たちもここは大人しく身を引くべきだと悟ったんだろう。俺の言葉にこくりと頷くと、校舎裏に向けて走り去っていった。校舎内に行かなかったのは、ここから遠く離れたほうが安全だと判断したんだろうな。


「ん……?」


 そして次の瞬間、俺は思わず眉をひそめた。


 目を凝らしてみると、今度は暴力団の連中がここに歩み寄ってきたからだ。神須山組のメンバーか、もしくはまったく別の組織の人間か……そこまではわからないが、明らかに堅気ではない雰囲気だ。


 合計で……だいたい三十人ほどか。


 俺が校門から脱出することのないよう、文字通り《人の壁》で厚くガードしている。


 そして当然というべきか――その全員が生気のない表情を浮かべていた。


「ふん、姑息な真似を」


 なんの理由があるのか知らないが、ダンジョン調査庁どもはそんなに俺を始末したいのか。


 そこまでしてくるからには、俺も容赦なく拳銃をぶっ放すまでだ。


 ――と。


「おおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」


 なんと敵集団の脇から、自転車に乗った生徒たちが勢いよく突っ込んでいくではないか。


 それも一人や二人ではない。

 さっき校舎裏に抜けていった生徒たちが、一斉に集団に突撃しているのだ。


「がぁぁぁあああああああああ!」


「ぬぉおおおおおおおお!」


 いくら素人の攻撃だとしても、これは溜まらなかったらしい。


 鈍い悲鳴をあげながら、敵の陣形が一瞬にして崩れていった。


「な、なんだと……⁉」


「俺たちも加勢します! みんなで大桃さんのサポートを!」


 そう発破をかけるや、警察官や暴力団相手に一斉攻撃をしかける生徒たち。敵連中もこれはさすがに予想外だったようで、大混乱の様相を呈している。


「馬鹿野郎! とっとと逃げろって言っただろ! おまえらが勝てる相手じゃねえ!」


「わかってます。でも俺たちは……もう《傍観者》にはなりたくない……‼」


 ぎこちない動作で暴力団を殴りながら、生徒の一人がそう声をあげた。


「戦わせてください大桃さん! 俺たちは大怪我したって構わない! 大桃さんがずっと苦しい思いをしているのを、俺たちはずっと見過ごしていたんだから……‼」


「お、おまえら……」


 驚いた。

 護月院高校での炎上事件が、まさか生徒たちをここまで成長させていたとは。


「……馬鹿野郎。大怪我なんかさせるかよ」


 俺はふっと笑みを浮かべると、敵連中に向けて全速力で疾駆した。


「俺が敵を倒しきる! おまえらは危ないと思ったらとっとと撤退しろ! 無茶だけはするな!」


「はい!」


 いつのまにか素直に返事するようになっていた生徒たちだった。


  ★


 一方その頃。

 護月院高校の三階から、戦闘の様子を動画配信している少女がいた。


 大桃によっていじめから解放された女子生徒である。


「大桃さん、あなたの勇姿は全国で流します……! 警察に通報しても意味ないんだから、せめてこれだけは……‼」


 チャンネル登録者は一万程度で、ユリアには遠く及ばない彼女のアカウント。


 しかし今は国民保護サイレンが鳴らされ、警察と暴力団が手を組んで学校を襲っているという異例の事態であり――。


 その動画の同時接続数は、一挙に10万にまで昇っていくのだった。

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