怠惰な陰キャ、めちゃくちゃ持て囃される

「事務次官……少しよろしいですか」


 話が本題に入りかけたところで、護衛の一人が飯島に声をかけた。


「もう間もなく次の予定が入っております。この会談・・も五分以内に切り上げていただけると」


「ふむ……もうそんな時間か」


 飯島は腕時計を見て顔をしかめると、先ほどよりも真剣味を増した表情で俺を見つめた。


「すまないね。本当はもっと君と話したいんだが、手短に伝えさせてもらうよ」


「……わかりました」


 俺としても、暴力団の一件のことは気にかかっていたところだ。


 いくら傘下の組員が引き起こした事件といっても、組長の息子に関する情報を何も知らないのは杜撰にも程がある。


 特に俺の苗字はなかなか珍しいので、それを聞いた瞬間にピンとくるはずなのに。


「……単刀直入に言って、あれは私にも予想外の事件だった。実はあれは、ダンジョン管理省のなかでも、《ダンジョン調査庁》が行っていたことでね」


「ダンジョン調査庁……」


 聞いたことがあるな。


 モンスターの情報をできるだけ取りまとめたり、日本各地のダンジョン構造をマッピングしたり……。

 文字通りダンジョン全般を調査する組織だったはずだ。


 あとはダンジョン内部に電波が通るようにしたのも、ダンジョン調査庁の働きかけだったと聞いている。


 当初はダンジョン内に電波は届かなかったようだが、凄腕の探索者とダンジョン調査庁とが結託をすることで、要所要所に中継点を設置し――今では六割ほどのダンジョンでインターネットが使えるようになっている。


 主に探索者の安全確保のためだったそうだが、結果的にそれはユリアのような配信者を生むことになり……。

 ダンジョン探索への敷居を、大きく引き下げることになっていった。


「つまりそのダンジョン調査庁が、飯島さんに黙って事件を起こしたと……?」


「そういうことだ。昨日の今日だから、まだ詳しいことは判明していないがね」


「なるほど……。わかりました」


 俺は頷きながらそう言うと、今度は刃馬を見つめて言った。


「刃馬。あのとき襲ってきた暴力団は傘下の組員らしいが……その組では、鬼塚の兄がトップに立っているのか?」


「いえ、あくまで下っ端だったはずです。だから俺も、なぜ国が鬼塚を庇うのか不思議でなりませんでしたが……。今の話を聞く限りだと、むしろダンジョン調査庁のほうから鬼塚兄に接触を図ったっていうことですか」


「ええ、その可能性が高いと見ています」


 飯島は眼鏡の中央部分を抑えると、よりいっそう厳しい眼光で言った。


「……実は先ほど、怜君が倒した暴力団の治療が終わったところでしてね。なんと、薬物反応が検出されたそうです」


「薬物……⁉」


 俺は思わず目を剥いた。


「いったいどういうことですか……⁉ 覚せい剤の類ですか?」


「まだわからない。まあ相手が相手だし、その可能性も高いと見ているが……その薬物の出所を調べた結果、くだんのダンジョン調査庁が浮かび上がったということさ」


 おいおいおいおい。

 さすがに予想外すぎる繋がりなんだが。


 つまり鬼塚兄は国を利用していたのではなく、逆に利用されていたってことか……?


 そんな俺の思考を読んだか、飯島はこくりと頷いた。


「きっと怜君の読み通りだよ。まだ詳しいことはわからないが、ダンジョン調査庁はなにかを目論んでいる。暴力団を実験体にしてまで……よからぬことを企んでいるんだ」


「…………」


「とはいえ、現段階ではあくまで疑惑に過ぎないよ。たとえダンジョン調査庁の仕業だとしても、尻尾を出すのがあまりに早すぎるからね」 


 飯島はそこまでを言い終えると、いくらか柔和な表情に戻って次の言葉を紡いだ。


「なんだか話が大きくなっているけど……怜君。私はね、きみこそが事件を解決する鍵になるんじゃないかと思ってるんだよ」


「…………」


 その言葉に、俺はまたしても背中がむず痒くなる。


 たしかにダンジョン内でのレベルは高いかもしれないが、俺はあくまで一般の高校生。

 あまりに買いかぶりすぎだ。


「飯島さん、俺は――」


「わかってるよ。さっきも言ったけど、高校生の君になにかを頼むつもりはない。ただ今回のことを気にかけてほしいと……それだけのことだ」


「……わかりました。またなにか起きたら、それだけは連絡させてもらいます」


「ふふ、ありがとう。それだけでも嬉しいよ」


 飯島はそう言って立ち上がると、最後に俺に手を差し伸べて言った。


「今回のことを抜きにしても、私は個人的に君のことが気になっている。……いつか互いの立場は抜きにして、一緒に食事にでも行こうじゃないか」


「ありがとうございます。でもやっぱり、買いかぶりすぎですよ」


 そう言って、俺もその手を取るのだった。



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