陰キャぼっち、国の要職に見初められる
「まずは教えてほしい。怜君。君はいったい――レベルがいくつあるんだい?」
「…………」
正直言って、レベルを答えること自体に抵抗はない。
俺のような陰キャぼっちなんて、今までレベルを聞かれる経験そのものがなかったからな。
一つ懸念点があるとすれば、本当のことを教えたことで、《平凡な日々》が遠ざかる可能性があることだが――。
「ああ、情報の漏洩なら心配ないよ」
俺の思考を先回りしたか、飯島が苦笑いしながら言った。
「暴対法は知っているだろう? 表向き、私は君たちに関わってはいけないはずなんだ。つまり情報の漏洩は、すなわち私の処分に繋がる」
「…………」
まあ、そうだよな。
飯島ならそのへんのトラブルもうまく立ち回りそうではあるが、そこまで手間をかけるほど、広める価値のある情報ではないだろう。
「……わかりました。口で言うよりステータスウィンドウを見せたほうが早いと思います。それでいいですか?」
「おお、助かるよ……!」
たしかまだ、この部屋はダンジョン内と同じ空間になっているはずだ。それを刃馬の首肯によって確認すると、俺はいつものようにステータスウィンドウを表示させる。
もちろん、ただ表示させるだけでは他人の目に映らない。
ここから《可視化モード》という項目を選択することによって、初めて他人にもステータスを共有できるようになる。陰キャぼっちの俺にとっては、そうそう使うことのない機能なんだけどな。
俺は改めてステータスウィンドウを可視化させると、それを飯島に見せながら言った。
「見てください。これが俺のステータスです」
「どれどれ……」
目を輝かせながらウィンドウを覗き込んだ飯島は、数秒後にはその表情を凍り付かせた。
「な……! こ、これは……!」
「…………?」
あまりに大きな反応だったからか、隣にいた刃馬が目を丸くする。
「怜様、俺もいいですか?」
「ああ。その代わり誰かに言ったら殺すからな」
「ええ、それはもちろんです。――失礼します」
刃馬も小さく頭を下げてから、俺の表示させているステータスウィンドウを覗き込む。
そして。
「なっ! ば、馬鹿な……!」
刃馬もやはり、驚きに目を見開いた。
その沈黙は一分間ほど続いた。
もちろんスキル名までは見せるメリットがないので、あくまでレベルと、各種ステータスの数値だけだけどな。
それこそ配信者でもなければ、人前に自身のステータスを見せることはあまりない。
前の鬼塚のように、ダンジョン内でトラブルが起こったら事だからな。みずからの安全を確保するという意味でも、自身のステータスを見せるのは信頼できる人のみというのが通例だ。
だからスキル名までは見せずとも……飯島は大いに満足してくれたようだった。
「はは……これは驚いた。デスデビルオーガも瞬殺されるわけだ」
ステータスを知ったことで、飯島の“俺を見る目”が変わった。
端的に言えば、付き合うメリットのある人間だと思われたんだろうな。
「そういえば最近、《真空のダンジョン》の最下層で大量のオリハルコンスライムが狩られていたのだとか。それも君かな?」
「さあ、どうでしょうね」
「ふふ……そうかそうか」
飯島は先ほどより数段目を輝かせると、今度は刃馬に目線を向けて言った。
「これはさすがに私も驚きましたよ。まさか、高校生にしてこれほどの大物がいようとは……」
「いえいえ、俺も驚きました。怜様は昔からただ者ではなかったですが、まさかこれほどとは……」
「組長の話によると、怜君は昔から戦闘能力が高く……歳を重ねてからはゲームに熱中したんでしたね。この二つがうまく噛み合ったわけですか」
「とんでもないですな。俺も今ではそれなりの地位に就いていますが……怜様と同じ歳の頃はここまでではなかった」
「…………はぁ」
なんだか二人して俺を持ち上げているようだが、背中がむず痒くて仕方ない。
そんなことよりも、今日もダンジョンにこもってモンスターを狩り続けていたほうが数倍楽しいだろう。
「それで、飯島さん」
俺はそう言って無理やり話題を切り替えると、とりあえず最低限伝えるべきことから口にした。
「盛り上がってるところ申し訳ないですが、俺はお国のために働くとか、そういうのは御免ですよ。面倒くさすぎて鳥肌が立ちそうです」
「おおっと……、そうだそうだ。二人して盛り上がってすまなかったね」
飯島はそう言って後頭部を数度叩くと、表情を切り替えて言った。
「もちろん、高校生の君になにかしてもらおうって気はさらさらないよ。……ただ一点、
「報告……ですか」
「ああ。少し前、君は傘下の暴力団員に襲われただろう? それについての続報だと思ってもらえればいい」
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