怠惰な陰キャ、とんでもない待遇を受ける
「な、なんだって……⁉」
ダンジョン管理省の事務次官。
それは刃馬の言う通り、省庁のなかでもトップクラスの肩書を持つ人物であるはずだ。
そんな大物が、直々に俺と会いたいだって……⁉
「ふ、ふざけんな。さすがにそれは面倒くさいってレベルじゃねえだろ」
「ええ、俺も怜様は嫌がるだろうとお伝えしたのですがね……」
頬を掻きながら、申し訳なさそうに呟く刃馬。
「しかし、デスデビルオーガを瞬殺した怜様の動画を見て、どうしてもお会いしたいと言って聞きませんで……。怜様にとっても有用な人脈になるでしょうから、ぜひここはお会いしていただけると……」
「ちっ……」
刃馬がここまで言うからには、きっと組にとっても大事な
神須山組はだいぶダンジョン管理省に良くしてもらっているようだし、その事務次官の頼み事となると断りにくかったんだろう。
「わかってるんだろうな刃馬。そこまでするからには……」
「あ、はい……! 事務次官は話のわかる人なんで、きっと怜様への見返りもかなり弾むかと……!」
「ふん」
俺は鼻を鳴らすと、右手をぶんぶんと振ってみせた。部屋に招いて良いという合図だ。
刃馬はこくりと頷くと、再び何者かに電話をかける。
「もうじき来られるそうです。フランクな会にしたいそうですから、固くならなくて大丈夫とのこと」
「……はいよ」
いったいどこの世界に、省庁のトップに“会いたい”と言われる高校生がいるんだか。
クッソ面倒くさいことには変わりないんだが、まあ相手は国のお偉いさんだ。刃馬の言う通り《使える人脈》になるかもわからないので、その意味では会っておいても良いだろう。
――果たして数分後。
部屋のドアがゆっくりと開けられ、三人の男が現れた。
といっても、うち二人は事務次官の護衛。真ん中に立っている老年の男性こそが、ニュース記事で何度か見てきた顔……
白髪まじりの頭髪に、隙を感じさせない鋭い眼光……。さすがは出世コースを歩んでいるだけあって、なかなかに切れ者であることが伝わってくる。
「なるほど……君が大桃怜くんか。高校生とは思えぬ、強い瞳をしているな」
そう言って差し出された右手を、俺はとりあえず受け止めた。
もちろんさすがに座ったままで迎えるのは失礼なので、事務次官が来る数秒前には立ち上がっている。
「……どうも、お会いできて光栄です」
「はは、そんなに形式ばらなくて結構だよ。私なんぞと会うのはさぞ億劫だろう。……ほら、例のものを」
飯島は護衛にそう命じると、護衛は一枚のカードを俺に差し出してきた。
これは……名刺だろうか。
飯島慎二の名前と、電話番号だけがここに記されているな。
「……すみません、これは? 申し訳ないですが、俺はお返しできるような名刺なんて……」
「ふふ、違う違う。これは警察の調査から逃れるための電話番号さ」
「は……⁉」
おいおい、さらっととんでもないこと言われたんだが。
「君は
「…………」
「おそらく君なら撃退できるだろうけど、ほら、日本はそういう事件に敏感だろう? 警察の余計な捜査が入らないように手配するから、警察がきたらその番号にかけてくれたまえ。……あ、でもさすがにすべてを完全に庇い切れるわけじゃないから、そこだけは把握しておいてほしい」
いやいや、さすがに冗談だろ。
出会ったばかりの高校生にこんなものを渡すとは、いったいどんな神経をしているんだ。
「……安心してください怜様。飯島殿は人を見る目に長けておりますゆえ、いわく一目見ればその人の人柄がわかるのだとか」
小声で刃馬がフォローしてきたものの、さすがにこれは常軌を逸してるだろ。
いくら人を見る目があるといっても、こんな好待遇を初対面の人間にできるはずがない。
「これほどの物をくれるとは……よっぽど大事なお話があるということですか」
「……ほう」
飯島の両目が鋭く光った。
「これは驚いた。君は洞察力も相当高いようだね。むしろ気を引き締めるべきは――私のほうかもしれないな」
飯島は数秒だけ柔和な笑みを浮かべると、一転して、真剣極まる表情で俺を見つめた。
「まずは教えてほしい。怜君。君はいったい――レベルがいくつあるんだい?」
―――――――――
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