怠惰な陰キャ、世界に出回っていないアイテムを授かる
現実世界でも、ダンジョン内でのステータスが反映される宝石……。
その時点でどう考えても常軌を逸しているんだが、まさかそんなもんを神須山組が受け取っていたとはな。
使う場所によってはとんでもない犯罪が起きる可能性もあるが……。
「ふふ、怜様が不可思議に思うのも無理はありません」
刃馬はその宝石をバッグにしまうと、極道さながらの悪い笑みを浮かべて言った。
「こんなものを公に広げてしまえば、ご懸念の通り、犯罪の温床になるでしょうからね。ですからこうして、《ダンジョン管理省》と《限られた者》にしか認知されていないわけです」
「へっ……」
その言葉に、俺は思わず苦笑する。
「犯罪の温床とか言う割には、暴力団に渡してちゃ世話ねえな。暴対法はどこいったんだよ」
「ふふ、そのへんはあえてノーコメントとさせていただきましょう」
そう言って再び笑い出す刃馬は、誰が見たって悪役の顔をしていた。
片目は眼帯で覆われているし、顔や腕の各所に切り傷が無数にあるからな。熊のような体格を誇っていることといい、一般人が見たら絶対にちびってしまう男だ。
「……では、さっそく本題といきましょうか」
刃馬はそう言うと、自身もステータスウィンドウを表示させる。
そのまま指先でいくつかの操作をしたあと、最後にちらりと俺を見て言った。
「このまま怜様のステータスウィンドウに情報だけ共有したいと思いますが、よろしいですか?」
「ああ、構わない」
「かしこまりました」
刃馬が頷いた後に表示されたアイテムは――《不死鳥の羽》といったもの。
「こ、これは……」
「ダンジョン内で死んだ場合、一度だけ体力満タンの状態で蘇生できるアイテムです。いかがでしょうか」
「マジかよ……」
こんなもんを隠し持ってるなんて、ダンジョン管理省の連中、思ったよりとんでもないな。
深く考えるまでもなく、ダンジョン内は現実世界よりも多くの危険を伴う。
刃馬が言うには、やはり多くの探索者に《不死鳥の羽》を配りたかったそうだが……。
よくあるRPGゲームのように、蘇生系アイテムは希少性が高いからな。
下手にこのアイテムの名を公表してはトラブルになる可能性が高いため、今ではダンジョン管理省と、ごく一部の探索者しか知らないらしい。
「……ったく」
そんな希少なアイテムを、裏社会で生きる刃馬が持っているなんてな。
もはや政府が信用できなくなるレベルだ。
「いかがでしょうか怜様。希少性という意味では、きっとご満足いただけると思うのですが」
「ふむ……」
たしかに物珍しさという点では優秀なんだが、他のRPGゲームをやる上でも、俺はあまり蘇生アイテムに心が惹かれない。
今までだって、自分なりに安全マージンを取ってダンジョン探索をしてきたからな。
いまさら《不死鳥の羽》をもらっても、ダンジョン探索の楽しみが薄れるというか……。
「ふむ……。わかりました」
俺の反応がいまいちだったからか、刃馬は再び自身のステータスウィンドウを操作し始めた。
「では、こちらはいかがでしょうか。《不死鳥の羽》よりは少し見劣りするかもしれませんが……」
続いて俺に転送されてきたのは、《テイムの書 レベル1》といったもの。
「なんだこれは……?」
「使用することで《新たなスキル》を獲得できるアイテムですな。そのアイテムの場合ですと、モンスターを使役できるようになるそうですね」
「なんだと……⁉」
ダンジョン探索において、スキルの有用性は非常に高い。
俺だってレベルカンストするまで全属性の魔法を扱うのがやっとだったし、エクストラスキルを使えるようになったのもつい最近だ。
だからこそレベルアップ時にスキルを獲得した者は、(スキルの強弱はさておいて)歓喜に震えるはずだが――。
このアイテムは、使用するだけでそのスキルを獲得できてしまうのか。
しかもその能力はテイム。
ゲームでは《あるある》な能力ではあるが、しかしダンジョン探索者でモンスターを使役できる者など聞いたことがない。
「……う~ん、しかし聞いたところによると、それはレベルアップに時間がかかるそうですね。最初は弱いモンスターしかテイムできませんし、オリハルコンスライムを倒してやっとレベルが上がるそうですから、有用性はちょっと……」
「いや。これでいい」
「な、なんと……⁉」
さすがに驚いたか、刃馬が大きく目を丸くする。
「よろしいのですか? ダンジョン管理省でもどこまで有用なスキルか把握できていませんから、骨折り損になる可能性も捨てきれませんよ?」
「ああ、構わない。こういう未知なスキルこそ、ゲーマーはロマンを覚えるんだ。覚えとけ」
「は、はぁ……」
刃馬にゲーマーの熱い思いを語っても通じるわけがなく、かなり不思議そうな表情を浮かべているな。
……まあ、それもそのはず。
俺のレベルがカンストしていることは、父や刃馬を含め、誰にも伝えていないからな。
経験値を効率よく稼げる狩場を沢山知っていることや、高経験値のモンスターをぶっ倒しまくれるレベルに達していること……。
そのことを刃馬は把握していないので、腑に落ちないのも道理と言える。
「わかりました。一応、他のアイテムもご覧になったほうが良いかと思いますが……いかがでしょうか」
「ああ、そうだな。念のため見せてくれ」
その後も表には出回っていないアイテムをいくつか確認したが、やはり一番惹かれるのは《テイムの書》だな。
ステータスが二倍になるアイテムとか、一つの属性魔法を極めるアイテムとか、たしかに強いっちゃ強いものが揃っていたんだが……。
レベルカンストの境地に立っている俺にとって、正直それらのアイテムは必要ない。
まだ動画投稿サイトでも掲示板でもまったく情報が広まっていない、テイムスキル。こっちのほうに惹かれてしまうのは、やはりゲーマーとしての性だろう。
「……わかりました。怜様がそうおっしゃるのであれば、その《テイムの書 レベル1》をお渡しすることとしましょう」
刃馬はそう言うなり、再びステータスウィンドウを操作し――。
次の瞬間には、《テイムの書 レベル1》がたしかに転送されてくるのだった。
「よし……これで一段落か」
俺は自身のステータスウィンドウを閉じつつ、改めて刃馬を見て言った。
「それで? 実はもう一つ用事があるんじゃねえのか、刃馬」
「ぬ……」
刃馬が大きく目を見開いた。
「はっはっは。さすがは怜様……。素晴らしい洞察力をお持ちで」
「世辞はいい。とっとと本題に入ってくれ」
「……かしこまりました」
刃馬はそう言って、自身のポケットからスマホを取り出す。そして誰かと短いやり取りを交わしたのち、通話を切り――俺を見て言った。
「驚かれると思いますから、先にお伝えしておきます。ダンジョン管理省のトップ――ダンジョン管理省の事務次官が、怜様に会いたいそうです」
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