怠惰な陰キャ、世に出回っていない裏アイテムを授かる

 数日前まで《陰キャぼっち》として馬鹿にされていた俺の学校生活は、もはや跡形もなく打ち消えていた。


「あ……大桃さん……」

「ごめんなさい……」


 俺の進む先で生徒たちがたむろしていたら、慌てたように道を開け。


「あ、大桃くん……!」

「今日こそ校長先生とお茶とか……し、しませんよね……?」

「しませんよそんなもん」


 教師陣もまた、俺に対して怯えるようになっている。


 どこかのネットニュースで読んだが、この炎上事件をきっかけに、離婚を切り出された教師もいるようだな。

 あれほどの暴行事件を見過ごしていたという点で、完全に見放されてしまったらしい。


 そしてそれだけでなく、他の生徒たちも人間関係が崩壊したりしているようだ。


 親に説教されるのはもちろん、友人とのやり取りがネットに拡散されていたりとかな。


 だからといって今さら媚を売られても――奴らに迎合するつもりは毛頭ない。

 不都合になった途端に手の平返しをする連中なんて、信頼できるわけがないからな。


 大勢の人から怯えられてるって、さながら極道のドンのようではあるが……。


 とにもかくにも、鬼塚がいなくなったことで、俺の学校生活はだいぶ平和になった。前のように理不尽な暴力を受けることもなく、平々凡々(?)に過ごせるようになったのである。





 そして放課後。


「お待ちしておりました。大桃怜様ですね」


「……は?」


 校門に着いた俺を、見知らぬ美女が出迎えてきた。


 長い金髪に抜群のスタイル、そして大きく開けた胸元……。さながらモデルのようであり、特に男子生徒の視線がちらほらとその美女に集まっているのだが――。


「お待ちしてた? なんのことです?」


「あら」


 美女はそこで俺に近づいてくると、周囲に聞こえない声で耳打ちしてきた。


「組長からですよ。まわりにいるしょうもない学生をぎゃふんと言わせるために、わざと見せつけたいとかなんとか……」


「はぁ……⁉」


 あのクソバカ、なんちゅーしょうもないことを。


 美女の後ろには、きっと超高価なのであろう高級車が停められている。これプラス美女がいて、俺はその美女に話しかけられていて――これじゃあ目立ってしまうことこの上ない。


「え……」

「あの女の人、まさか大桃さんの恋人……?」

「しかも高級車って……ほんとに私たちと住む世界違うじゃん……」


 現にもう、まわりの生徒たちがヒソヒソと話し始めてしまっている。


 たしかに刃馬本人が来てしまうと俺の出自がバレることになるため、多少マシな措置ではあるが――だからといってやりすぎだ。


「……用件は、刃馬からの贈り物か?」


「そうです。ぜひ乗ってください」


「はぁ……了解」


 刃馬がここまでするはずがないので、この女の言う通り、クソ親父の差し金だろうな。


 後でとっちめてやらないといけなさそうだ。


 ちなみに詩織に関しては、この場に来ないよう今朝のうちに言いつけている。有名配信者と暴力団のかかわりが広まったりしたら、それこそ大事だからな。


 盛大なため息をつき、俺は高級車に乗り込むのだった。



  ★




「……えと、やっぱ、怒ってますよね……?」


「あったりまえだろてめぇくぁwせdrftgyふじこlp!」


 美女によって送られた、とある建物の地下室にて。


 汗びっしょりで出迎えた刃馬の胸倉を、俺は自分でもわかるくらい鬼の形相で掴み上げていた。


「ふざけんなよマジで俺が平々凡々な生活を送りたいってのはわかってんだろ! 現時点でももう平凡が崩れつつあるってのに、この上こんなことが起きたら世界滅亡レベルのとんでもなくおっそろしいことが起こるぞ!!!!」


「す、すみませんすみません……! 俺もここまでしないほうがいいと思ったんですけど……」


 両手を前方に広げ、ひたすら平謝りしてくる刃馬。


「責任取れよ! マジで責任取れよ! 世界が崩壊してもおまえらがどうにかしろよ!」


「え、ええ……! この度は大変申し訳ございませんでした。今後はこのようなことをしないよう、組長にも言っておきますので……」


 その組長本人はここには来てないようだな。

 多忙な人間だから当たり前のことだし、俺もさっきまでは父に会いたいとは微塵も思っていなかったが……。


 やっぱりこれは、俺から一言いっておかなきゃ駄目そうだ。


「はぁ……はぁ……。もういい。おまえが悪くねぇのは理解してるつもりだ」


「い、いえいえ……。俺も止められたら良かったんですけどね」


 刃馬も苦笑を浮かべつつ、脇のテーブルにあったバッグを俺に差し出してきた。


「と、とりあえず、これがくだんの配信機材です。不足分があったら至急取り寄せますので、その際はご命令ください」


「おう……」


 そのバッグを受け取り、俺はふうとため息をついた。

 なんかもう、この数分でどっと疲れたな。


「それで、次は裏アイテムの話なんですが……」


「……やっぱりそれも持ってきたか。ダンジョン専用のアイテムだろ? ダンジョン行かないと使えないんじゃねえのか」


「いえ、その必要はありません」


「は……?」


 刃馬はそう言うと、もう一つのバッグから漆黒の宝石を取り出した。


 すると突然、その宝石が眩い輝きを放ち始め――。


 うまく言葉に言い表せないが、周囲の空間が大きく変わった・・・・・・・


 例えるならば、いきなりダンジョン最深部に転移したかのような――まわりの空気が一気に重くなったのだ。


 ……まさか。

 ある直感を覚えた俺は、いつもダンジョンでそうしているように、ステータスウィンドウを表示させる。


 ダンジョン内でのステータスやアイテムは外では反映されないので、普通なら、ステータスウィンドウも表示されないはずだが……。


――――


レベルが上がりました。


大桃 怜 17歳 レベル9999


 物理攻撃力:99999

 物理防御力:99999

 魔法攻撃力:99999

 魔法防御力:99999

 俊敏性  :99999


――――


「おいおい……」


 いま俺の視界には、見慣れていたステータスがばっちり映り込んでいたのだ。


「ダンジョン管理省からの裏アイテムです。周囲を《ダンジョン空間》とすることで、貴重なアイテムやスキルをダンジョン外でも使うことができる。……これがあれば裏アイテムもお試しできますので、さっそく始めていきましょうか」



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