尊敬されまくる陰キャと、鬼塚の末路

「んお……?」


 翌朝。

 起き抜けにスマホを眺めていた俺は、刃馬からレインメッセージが届いていることに気づいた。



 ――怜様 大変お待たせしました。鬼塚の件は至急手配しましたので、すぐに逮捕されることになろうかと思います。よろしければニュースをご覧になってください――



 ということだったので早速ネットニュースを検索してみると、たしかにガンガン報道されまくっていた。


 大勢の警察に身柄を拘束され、力なくうなだれている少年……。


 高校生ということでさすがに顔や名前は載っていないが、鬼塚あいつは俺にナイフを突きつけた挙句、ダンジョン内で爆殺を試みようとしたわけだからな。さらには刃馬の介入もあり、少年犯罪としては大きめに取り上げられたのだろう。


 まあ、仮に実名報道がされていないとしても、こいつはユリアによってあれほど炎上したのだ。


 この逮捕者が鬼塚であると特定したネット民も多く、さっそくSNSのトレンドには「鬼塚」「鬼塚ざまぁ」などが並んでいる始末。


 高校ではやたらとイキがっていた鬼塚だったが、その末路がこれだ。


 せっかく名門高校に進学できたというのに、良い大学に入学するどころか、犯罪者として警察に捕まっちまうわけだからな。


 しかもデジタルタトゥーは一生残り続けるだろうし、あいつはもう、すでに高校生にして人生詰んだも同然である。



 ――普通なら怜様にも警察が聞き取り調査をしてくるところですが、それは回避させています。ご安心ください――



「へっ……気が利くじゃねえか、刃馬」


 傘下の暴力団員だったとはいえ、俺を危険な目に遭わせてしまったわけだからな。刃馬が直接関与していないことであっても、なにもせずにはいられなかったのだろう。


 俺はスマホに文字を入力し、刃馬への返信文を作成する。



 ――ニュース確認した。ご苦労だったな――


 ――いえいえ、これくらいではむしろ足りないくらいです。ユリアさんの配信道具も用意済みですが、こちらはどう手配しましょうか? 怜様に直接お渡ししたほうが良いと思うのですが……――



「ふむ……」


 それはたしかにそうだな。

 二度手間にはなってしまうが、彼女はチャンネル登録者1000万人を超える有名配信者。


 暴力団と関わっていることが知れたらまずいし、おそらく彼女の〝追っかけ〟も大勢いるだろうしな。ここで余計なリスクを背負う必要はないだろう。



 ――そうだな。俺に送ってくれねえか――


 ――かしこまりました。ではユリアさんの配信道具と一緒に、昨日お話しした裏アイテムについても手配しようと思います。よろしくお願いします――


 ――は? 裏アイテムなんざいらねえって言っただろ――


 ――まあまあそうおっしゃらず。きっとお気に召していただけると思いますし、組長も「絶対に渡せぇえええええええ!」と泣き叫んでおりますし……――



「あ、あんのクソ親父……」


 あんなクソごつい見た目しておいて、本当に子離れできてないよな。

 俺がこうして一人暮らししているのだって、当初は猛烈に反対されたのを覚えている。


 

 ――ひとまず了解した。詳しい話は後でな――


 ――承知しました。……怜様、組長に鍛えてもらっている時点であなたは相当に強かったですが、ダンジョン探索を始めてからさらに別人のようになりましたね。冗談抜きで、世界中のどこにも、あなたに勝てる人はいないのではないでしょうか――


 ――余計な世辞はいい。善良な学生はこれから学校があんだよ――



 最後にその返信文だけ送信すると、俺はさっさと朝食を取り、学校へ向かうのだった。


   ★


 しかし学校に着いた途端、俺はいままで通りの学生生活がもう送れなくなっていることに気づいた。


 周囲から突き刺さる視線、視線、視線。


 先日の時点で同級生が頭を下げたりしにきていたが、いまはもう全校生徒が――いや、教員も含めた全員が、俺を恐れているような気がした。


 それだけじゃない。


「大桃さん!」


 教室へ繋がる廊下を歩いていると、ふいに背後からそう話しかけられた。


 まるで関わったことのない女生徒だ。いったい何の用だ……?


「大桃さんのおかげで、私もいじめから解放されたんです! それのお礼を言いたくて……」


「は? いじめ?」


 そこまで言われて、俺ははっと理由を思いつく。


 鬼塚の暴行事件を経て、いまは護月院高校そのものが炎上している状態だ。こんな雰囲気では、たしかに他のいじめっ子もやりたい放題しにくいかもしれないよな。


「気にするなよ。俺はなにもしてねえ」


「え、で、でも……!」


「人のこと考えてる暇あったら、これからは自分の好きなように生きろ。せっかくしょうもねえ連中から解放されたんだしな」


「は、はい……!」


 そう言って目をキラキラさせる女子生徒。


 い、いったいなんなんだ……?

 この様子だと、妙に尊敬されてるように感じられるんだが。他の生徒が過剰に俺を恐れていることといい、ますます訳がわからない。


「じゃあな。もうしょうもねえ連中に負けるなよ」


「は、はい……! ありがとうございます‼」


 立ち去る俺の背中に向けて、女生徒は長い間ずっと頭を下げ続けていた。


 なんだか頬を赤らめていた気がするが、その理由については考えないようにしておいた。


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