怠惰な陰キャ、裏社会にさえ激震を走らせる

 そう。


 俺の家は、昔から特殊だったらしい。

 幼い頃はそのへんの事情はよくわからなかったが、周囲の大人が言っている“極道”やら“ヤクザ”という言葉で、このことは薄々察していた。


 そして俺の父は……そのヤクザを束ねるドン。


 大勢の配下を従えているだけでなく、自身もべらぼうに強いと聞いている。百人のに囲まれたとしても、むしろその敵を素手で返り討ちにしたという逸話もあるほどだ。


 ……そして俺は、そんな父よりさらに強かった。



 ――はっはっは、筋があるじゃねえか怜。歳の差があるとはいえ、まさか中学生相手に負けるなんてよ――


 ――いいか怜。おまえが優しい男だってのはわかってる。けどよ、俺の息子として生まれちまった以上、平凡な日々を送るのは難しいんだ。すまねえな――


 ――ご、ごめん怜くん。ママから、怜くんとはあまり遊ばないでって言われて……――




 そうだ。

 俺は別に、誰かを支配下に置きたいとか、社会の裏側で生きていきたいとは思っていない。


 ただただみんなと一緒に、平和にのんびりと暮らしたかっただけ。あくまで普通の人間として、社会に溶け込みたかっただけ。


 ――――――なのに。


「怯むな! 相手はガキ一人だ!」


 俺を取り囲んだ暴力団どもが、一斉に俺に襲いかかってくる。


 学生と違って、それぞれの人員がきちんと散開されているな。やはり鬼塚やその取り巻きとは訳が違う。


 が。

 団員たちの拳が振り下ろされる前に、今度は俺から攻撃を開始する。


 一人は腹部に、一人は顔面に、そしてもう一人は首に。


「くはっ……」

「ば、馬鹿なっ……!」


 俺のスピードを追うことができなかったようで、団員たちはなすすべもなくその場に崩れ落ちる。そうしながら一人の団員が持っていたナイフを奪い取り、残りの団員と対峙する形で構えた。


 残りの敵は五人。

 それぞれ身体は鍛えてあるようだが、俺にナイフを持たせちまうとはな。


 俺の父が相手でも、たぶん十秒ともたないだろう。


「実戦経験がなってねえな。そんなんじゃ他の組に舐められねえか?」


「な、なんだって……⁉」

 団員の一人が悔しそうに俺を睨みつける。

「ガキの分際でなにが実戦経験だ! 学力だけのお坊ちゃんがよぉ‼」


「…………はぁ」


 俺はため息をつくと、一斉に駆け寄ってきた団員たちの攻撃を次々とかわしていく。


 残りの五人は全員バットやナイフを持っているが、はっきり言って恐れるに足らない。


 父に仕込まれた訓練というだけでなく、なによりダンジョンでレベルカンストさせている恩恵がでかすぎるな。


 ダンジョンには剣と盾を持った骸骨剣士や、予備動作なしで強烈な魔法を放ってくる魔導士もいる。


 はっきり言って、モンスターとこいつらとでは雲泥の差があるわけだ。


「女だ! まずは女を狙え!」


「…………はっ、どうせそう来ると思ったよ」


 俺はくるりと振り向くと、男たちの動向をつぶさに観察する。


 誰がどこからどんな攻撃をしてくるのか……。相手をよく見てから対応に出るということも、父やダンジョン探索で身に着けた戦闘方法だった。


「モンスターどもと比べれば、てめぇらは赤ん坊レベルだな」


「なんだと……⁉」


「だってそうだろうが。学力だけのお坊ちゃまに負けてるんだぜ? 赤ちゃん・・・・・


 そう言いながら、俺はそれぞれの団員に向けてナイフを振り払う。


 さすがに殺害すると後がややこしいことになるので、それぞれの足を容赦なく斬りつける。死にはせずとも、これでしばらくは動けないはずだ。


「か、かはっ……!」

「信じられねえ……! 俺たちが、なんでこんなガキに……」


 だがまあ、こんな憎まれ口を叩いてくるくらいには元気そうだな。

 ここは吐かせてみるか。


「おい」


 俺はリーダー格と思われる男まで歩み寄ると、そいつを見下ろしながら言った。


「鬼塚を隠蔽している件、どうせおまえらが動いてるんだろ? 政治家とでも癒着してんのか?」


「し、知らねえな……。おまえに教えることなんか、なにも――」


 ドン! と。

 リーダー格が言い終えないうちに、俺はそいつの頭を上から踏みつける。


「あ、ああああああああ……!」


「聞かれたことだけに答えろや。身体だけじゃなくて頭も赤ん坊なのか?」


「へ、へへへへへ……! そう煽れるのもいまのうちだ。もうじき刃馬じんばの兄貴がここにくる。そうなったらおまえも終いだ……!」


「刃馬……?」


 なんだ。

 どこかで聞いたことある気がするが……思い過ごしだろうか。


「へへへへ……! 刃馬の兄貴はクソ強ぇんだぜ? てめぇなんか、もう一貫の終わりだ」


 リーダー格がそう言い終えた瞬間、俺は新たな人の気配を感じた。


 ――合計で三人。そのうち一人は段違いの風格を放っているな。


 もしかすればこいつが、例の刃馬という奴だろうか。


 というかこの気配……思い過ごしでなければ、父の代わりに俺を育ててくれた男とそっくりだな。

 顔つきは怖いが人情に厚く、大勢の部下に慕われていると聞いている。


 そして数秒後……。

 この場に現れたのは、やはり幼少期に俺を育ててくれた刃馬本人だった。


「よぉ刃馬。相変わらず怖ぇ顔してんな、おまえ」


「は……?」


 左目に眼帯をつけ、そして右頬には十字傷。たしか年齢はもう五十代に差し掛かっているんだったか。


 刃馬は数秒間たっぷり周囲を見回すと、最後に俺を見つめて言った。


「なんで怜様・・がここに……? って、まさか⁉」


「そうだ。こいつらが俺に喧嘩吹っかけてきた。後処理頼んでいいか?」


「な、なななななななななな⁉」


 刃馬はこの世の終わりを迎えたかのような表情を浮かべると、急いでリーダー格の男のもとに駆けつけた。


 そしてその胸倉をつかみ上げると、焦りまくった表情で問い詰める。


「馬鹿野郎! てめぇら、いったい誰と喧嘩してやがる! 勝てるわけねえだろ! 殺されるぞ‼」


「えっ……? え?」



「なんでわかんねえんだよ! この方は神須山・・組長の息子――《血濡れの沈黙者》大桃怜様だぞ!」

――――――――――  

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