レベルカンストの陰キャ、新たな境地に達する

「えっ……⁉」


 ――数秒後。

 新能力瞬間移動を用いてダンジョン最下層に転移した俺たちは、情報通り、数えつくせないほどのオリハルコンスライムに遭遇した。


 もちろん……他の探索者たちは誰もいない。


 ここ《西桜ダンジョン》もそこそこ難易度の高い場所なので、踏破するには結構時間がかかるんだよな。入口にいた探索者たちも実力者が揃ってはいたものの、五十もの階層を降りてくるには時間がかかるだろう。


「よし……こんなもんだな」


 俺は詩織と繋いでいた手を離すと、両手の骨をポキポキ鳴らす。


 多くのオリハルコンスライムは、発覚時に高確率で逃げようとする。それでいて防御力もクソ高いため、戦う際には短期決戦が求められるわけだ。


「……おいどうした詩織、おまえは戦わないのか」


 隣で呆けているままの彼女に、俺は首を傾げつつ訊ねる。


「ううん。怜くんが当たり前のようにワープしたからびっくりしちゃって……」


「……そうか、おまえには言ってなかったな」


 俺はオリハルコンスライムたちに視線を戻すと、にやりと不敵な笑みを浮かべながら言った。


「つい最近、手に入れたんだよ。《瞬間移動》というスキルをな」


「え……?」


 詩織が目をぱちくりさせている、その間に。


 俺は再び《瞬間移動》を使用して、オリハルコンスライムたちの背後に一瞬で転移する。


 そして。


 ――火属性魔法発動 極上魔法 プロミネンスゾーン!――


 俺がそう唱えたのと同時、自身の周囲に大きな魔法陣が出現する。


 ドォォォォォォオオオオオオン‼ と。


 次の瞬間には、魔法陣の範囲内で大爆発が発生した。ダンジョンそのものをぶっ壊しかねない威力ではあるが――もちろん、モンスター以外に爆発の被害が及ぶことはない。


 そして数秒後には、範囲内にいたオリハルコンスライムはもう微動だにしなくなっていた。


「さて、と。こんなもんかね……」


 この近辺にいるオリハルコンスライムはこれでだいたい片づけた。


 リポップを待っててもしょうがないし、次は別フロアのオリハルコンスライムでも捜しにいくか。

 

 ステータス画面を開けば戦利品を確認することもできるが、他の探索者たちも降りてきている手前、時間が惜しい。


「なにしてるんだ詩織。さっさと行くぞ」


 俺がそう声をかけるも、しかし詩織は依然としてポカンとしているのみ。


「怜くん、すごすぎるよ……。オリハルコンスライムって、魔法は効かないんじゃなかったっけ……?」


「ああ、そうだな。基本的にはそれで間違っていない」


 オリハルコンスライムの魔法防御力は9万と高く設定されており、生半可な魔法では1ダメージも与えることができない。


 一方で物理防御力は少し控えめになっているため、剣やハンマーなどで叩きさえすれば、少しだけ勝率が上がるのだ。


 だが、これはあくまでネットに掲載されている一般常識の話。


 すべてのステータスをカンストさせた俺にとっては、魔法防御力の9万程度、たいした脅威にはなりえない。


 その旨を詩織に伝えると、

「す、すごい……! すごすぎるよ怜くん!」

 と言ってまたも飛びついてきた。


 しかもまた、躊躇なく胸を当ててきている。


「やっぱり怜くんは、私が今まで会ってきたどんな男よりも、かっこよくて強い。えへへ、もうそれは確信になっちゃったよ♡」


「世辞はいいから離せ。当たってるぞ」


「やーだ♡ だってどうせ、これから《瞬間移動》するんでしょ? どうせまた手繋がないといけないんだから、一緒じゃない?♡」


「いやいや、一緒ではないだろ……」


 ほんと、とんでもない女だよな。

 護月院高校のなかでも、こんなに大胆な女はいなかったぞ。


「いまは許してやるが、《瞬間移動》が終わったらすぐ離れろよ。このままじゃさすがにオリハルコンスライムが倒せねえ」


「は~い♡」


 詩織の元気な返事を確認すると、俺は再び《瞬間移動》スキルを発動し――オリハルコンスライムの気配に向けて転移するのだった。



  ★



 時間にして、五時間ほどだろうか。


 俺は詩織とともに、狩れるだけのオリハルコンスライムを狩り尽くした。


 基本的には俺の魔法でオリハルコンスライムを倒しつつ、しかしどうしても、何匹かは魔法を当て損なうことがある。


 そうなると、オリハルコンスライムの場合すぐに逃走を試みるため――。


 その場合には、詩織が逃走防止のために攻撃をしてくれるわけだ。数秒でも時間を稼いでくれさえすれば、あとは俺が攻撃すればいいからな。


 その意味では、俺と詩織は絶妙のコンビネーションを発揮できていた。


 戦闘力的には大きな差があるが、詩織が《俺のやってほしいこと》を的確に見抜いてくるというか……。


 前のウィッグの件といい、ヤンデレならではの観察眼の良さかもしれないな。


 そもそも、ぼっちで活動していた俺にはオリハルコンスライムの情報なんて滅多にまわってこない。こうしてがっつり経験値を稼げているのも、元を辿れば詩織のおかげということになるな。


 そのようにして、俺たちは遠慮なくオリハルコンスライムを狩り尽くし――。


「す、すごい! すごいよ怜くん! もうレベル150になった‼」


 ある程度片が付いたところで、詩織がそんなふうにはしゃいでくる一幕があった。


「Sランクの探索者でも、レベル120がいいところなのに……。もうこんなに強くなれるなんて、怜くんのおかげだよ!」


「そんなことはないさ。おまえがいなきゃ、こんなに多くのオリハルコンスライムを狩ることはできなかった」


「ううん、そんなことない! 全部! 全部、怜くんのおかげだよ! あなたに出会えてよかった~♡」


 そう言って無邪気に笑う詩織に、

「はは……大げさな奴だな」

 俺は久々に、心からの笑みを浮かべるのだった。



 そしてもちろん、強くなったのは詩織だけではない。



――――


獲得経験値が一定数に達し、新たなエクストラスキルを使えるようになりました。


今回あなたは


・魔法攻撃反射


 を取得しました。



――――

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