第4話 装備整備

「さて、食事が完了しましたので装備品を再点検します。あなたのも確認しますので全部出して下さい」


//SE あなたが装備品のリボルバーをメイドに渡す音


「……前から思っていた事を言わせて頂いても? ありがとうございます。何故六発しか撃てない骨董品並みに古い、このリボルバーにこだわるのですか? 弾の流通が少ない大口径弾丸、戦闘中におけるリロードタイム、どれも戦術的優位性が最低です」


//SE メイドがリボルバーのシリンダーを回転させる音


「カッコいいから? バカみたいじゃないですか……いいえ、バカです」


「それでいて十人以上を平気で真正面から相手にして生き残るなんて化け物です。ラッキーだった? 戦闘においては幸運も勝利条件にありますが……あまり運だけを信用していると死にます」


//SE メイドがあなたに銃を向けて、引き金を引く音


「ばーん、ふふっ。全く驚きませんね、一発だけ弾丸が入っていたので、こっそり抜きましたが気付いてましたか? ……弾が出たらアンラッキーだった? それだけですか」


//SE 急にメイドがベッドに座り、耳元でささやく音


「あなたが死んだら必ず私も後を追います。なので、もっと自分を大切にしてくれます? ……了承頂いたので安心ですね」


//SE メイドがベッドから立ち上がり、床に丁寧に装備を並べる音


「あなたのリボルバーから分解点検します。ふむふむ、バレル内にゴミが……なんです? 急にそわそわして。あなたの大事な銃を壊したりしませんよ」


//SE メイドがリボルバーを分解していく音


「あっ」


//SE 金属パーツが床に落ちる音


「失礼しました。パーツは拾いましたから泣きそうな顔しないでくださいよ、そんなに大事なら使わないで飾っておけば良いじゃないですか。……私がこんな古い銃に負けるなんて……いいえ、こちらの話です」


「ブラシでリボルバーのバレルを掃除します、耳元で聞きますか? そうですか、ゴミが落ちるから嫌ですか」


//SE 少し離れた位置で、メイドがリボルバーのバレルをブラシ掃除する音


「内部部品に汚れが蓄積しています。エアスプレーで埃やゴミを吹き飛ばしますね」


//SE エアスプレーで埃やゴミを吹き飛ばす音


「埃だけでなく、土もこびり付いています。洗面所のアメニティセットに歯ブラシがあったはず、取ってきます」


//SE メイドが立ち上がって、洗面所へ→ゴソゴソと鏡台の中を確認して戻ってくる音


「歯ブラシのスペアが無いので私の歯ブラシを使用します。……私のはもったいない? 色々な使用用途があるんですか? でしたら、あなたの歯ブラシを使用します」


//SE メイドが洗面台から歯ブラシを持ってくる音


「隙間の掃除、歯の清掃以外の用途となると……敵を傷付けずに身体を歯ブラシでくすぐって拷問するなどでしょうか? なるほど、勉強になります。あなたが元々居た組織は環境下における道具調達の発想の練度が素晴らしいですね……って馬鹿みたいに褒めると思いましたか? 最近、私の私物の位置が微妙に変化しているのは気付いています」


//SE メイドが耳元でささやく


「私の私物は全てあなたに買って頂いた物です。欲しい物があれば何でもおっしゃってください、衣類などは少ないので困りますが……装備の手入れに戻ります」


//SE メイドが、しばらく静かに部品を歯ブラシで擦る音


          ※


「汚れは一通り落ちました。防錆潤滑スプレーを塗布して汚れを浮きやすくします」


//SE 防錆潤滑スプレーをスプレーする音


「洗浄スプレーで油汚れを洗浄します」


//SE 洗浄スプレーをスプレーする音


「汚れを拭き取り、注油を行います」


//SE メイドが雑巾でリボルバーを拭く音→注油スプレーでリボルバーの可動部位に注油する音


「リボルバーの清掃は大型のライフルなどに比べれば清掃面積が少なく楽です。注油完了、組み立てに入ります。これは特技といえるか微妙ですが、一度分解した銃なら目隠しで組み立て出来ますよ」


//SE メイドが目隠しをする音


「あなたは組み立て時間の計測をお願いします。……よーい、スタート」


//SE メイドがリボルバーをとんでもない速度で組み上げていく音


「えっと、グリップは? ありました。グリップ外側の漢字の装飾は意味あるんですか? 難しい漢字ですね……お……に……ひ? 戦術的優位性に意味が無いので外しておきます」


「ふふっ、ひょっとして泣きそうな顔してます? ちゃんと組んで綺麗にしておきましたから。どうして男性は派手な外観にこだわる方が多いのでしょう、始末したターゲットの男性の大半がそうでした。金メッキの対物ライフル、宝石まみれのショットガン……なんだか笑っちゃいますよね」


「はい、組み立て完了です」


//SE メイドが目隠しを外す音


「時間はどうでしょう? うーん、かなり鈍っています。無駄な装飾付きの微妙に重いグリップさえ無ければ、あと二秒は縮まっていました」


「あっ、ご自分でもリボルバーを点検されます? はい、どうぞ」


//SE メイドが、あなたにリボルバーを渡す音


「自分の得物は自分で責任を持って管理せよ、どこの組織も同じです。『自分の得物の不具合を他人のせいにする輩は三流以下だ』ボスの言葉です」


「ボスの言葉が頭に残っているのが気分が悪いので、あなたの役に立つ言葉をください。……『自分だけのメイドを部屋に置いておけ、空気清浄機が要らなくなる』」


「無価値でカッコ悪い言葉でしたので、記憶から消去します」


「弾薬はまだ在庫がありますが、ナイフ類の手入れが必要です。……研ぎ石は使い切ったので代用として、アルミホイルを丸めてカットしていきます。……あなたは休んでいてください、それがあなたの最重要任務です。……ならば、俺に命令しろ? 仕方がないですね」


//SE メイドが耳元で優しくささやく


「命令、ベッドの上で休め」


//SE メイドがアルミホイルを取り出して、一つ一つ丸める音


「こちらのライフハックは、あなたがよくご覧になっている動画配信サイトで知りました。あー、なんか戦闘中に急にナイフを研ぎたいなぁって時に利用出来ます。アルミホイルならポケットに丸めて携帯できますし」


//SE メイドがナイフを一本一本手に持って、確認する音


「そういえば何故か、おすすめ動画に韓国のチアリーダーと野球の試合動画が沢山出てきましたが野球が好きなんですか? 野球は別に好きじゃないし、気のせいだ? おかしいですね……」


「勘違いかも知れませんし、動画の視聴履歴を二人で全て確認しましょう。 やめてくれ? 余計に気になりますね」


「こほん……でも、まあ……そういったコスチュームが、お好みでしたら買って頂ければ……いいえ、何でもありません」


//SE メイドがアルミホイルを切っていく音


「あなたと出会い、人を殺めなくなった事で悪者にも人生があり、大切な存在があるのだと実感しました。……先程の追っ手は全員、物理的に再起不能にしてゴミ箱に捨ててきましたのでご安心ください。今度、私に会ったら失禁する程度には痛めつけてきましたから」


「今回の失敗で理解して頂いたと思いますが、戦闘で人を殺めない事は自身の死亡リスクを跳ね上げる行為です。……この際なので言わせて頂きますが、自身を守る殺害すら出来ないならば、この仕事は廃業してください。あなたに全く向いていません」


//SE 突然、メイドがあなたの首にナイフを突きつけて寸止めする音


「百二十三回死亡。殺害痕跡を残して良ければ倍以上の殺害方法があります。……全部教えましょうか?」


//SE メイドがベッドに横たわり、あなたに抱きつく音→メイドの心音


「世界の人々は自身が狙われても、絶対に人殺しをしない優しいあなたのような人間ばかりではないのです。……どうして、ご理解頂けないのでしょう」


「……私が変われたように、どんな悪人にもチャンスを与えたい? 本当にどうしようもないバカなんですね……バカ」


//SE しばらくメイドの心音→不意にメイドが耳元でささやく


「そんなバカと一緒にいないと狂いそうなバカが目の前に……寝てしまいましたか……うん?」


//SE メイドがあなたの頭を撫でる音→耳元でささやく


「もしかして……寝たふりしてます? あなたの耳が段々と赤くなってきました」


//SE メイドが耳に息を長く吹きかける音


「私の気のせいですね。……眠っている間に溜まっている洗濯をしておきましょう」


//SE メイドが自分の荷物から洗濯物を出す音


「この下着は大分お気に入りでしたが、サイズがそろそろ合わなくなってきました。肌触りが良くて好きなデザインだったのですが……」


「あまり詳しくありませんが、下着を販売していた方がサイズが合わない下着は身体の発育を阻害すると、仰っていましたね」


//SE メイドの衣擦れ音


「やはり捨てましょう。こちらのはどうでしょう……と、その前に」


//SE メイドが急にあなたのベッドに飛び込む音


「まぶたの裏の眼球運動、喉の動き、呼吸の変化で起きているのは分かります。早く寝てください」


//SE メイドがあなたの額をデコピンする音

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る