第3話 料理
//SE 部屋の扉が開く音
「ふぅ、無事帰還しました。こっちは絶対に見ないでくださいね、都合良くメイド服が破損して下着が見えていたりはしませんから。単純に汚れていて、汗を少しかいてしまったのでシャワーを浴びてきます。……そのまま添い寝してくれって?……拒否します、汗臭い女とか思われたら嫌ですから」
//SE メイドが服を脱ぐ衣擦れの音
//SE メイドがシャワーを浴びる音→段々と小さくなり、あなたは眠ってしまう。
※
//SE ベッドが軋む音→メイドの吐息が顔に当たる。
「はあ……この状況はあなたが自分で作ったのですよ? 包帯を変えていたら急に抱きついてきてベッドに引きずり込んだんです。何ですか、その疑いの眼差しは? 本当ですってば。大体ですよ、ここが普通の病院だったらナースを襲ったと誤解されても仕方がない状況です。……何故、すぐに起こさなかったかですか?」
//SE 頭を撫でる音→額を軽くデコピンする音
「私に言わせないでください」
//SE メイドがベッドから身体を起こす音
「お腹空いてませんか? 何か作ってあげます。遠慮なくご注文ください、カップ麺でも、冷凍食品でも、レトルト食品でも。今、湯を沸かすだけ、レンジで加熱するだけだろ、など頭に浮かべましたね。……私が作った料理があなたの致命傷になり、最後の晩餐になっても構わないと? むしろ本望って……いいでしょう、お味噌汁を作ってあげます。いいえ、エアじゃない方です」
//SE 鍋に水を入れる→ガスコンロの点火音
「鰹出汁、湯量、味噌の割合をネットで検索……目分で良い? そんな適当で何故、あんなに見事な料理が出来るんですか。さては、手に計量用の入れ墨があるのでしょう」
//SE あなたの手をメイドが掴んで持ち上げる音
「おかしい、特に入れ墨が無いですね。何を視線を逸らして……あっ」
//SE メイドが慌てて手を離す音
「……鰹出汁を投下していた、お湯が沸きました。味噌を投下します、慎重に……慎重に……投下! あち!?」
//SE 鍋に味噌が飛び散る音
「ご心配なく。ちょっと火傷しただけです、あっ、ちょっ」
//SE あなたがメイドの手を掴み、水道で冷やす音
「普段からメイド服を着用しているのに料理が苦手って、滑稽ですよね。……違います、ありがちなドジっ子メイド設定ではありません。何を得意気な顔で言ってるんですか」
「いくら料理を努力しても、人を処理するように簡単には出来ません。仕事以外の事を覚えようとすると……何か……頭の中に霧が出ているような……聞こえるんです、ボスの声と顔だけが白い霧で覆われた知らない男の人……」
//SE あなたがメイドの手を握って、深呼吸するように促す音
「スゥー……ハー……スゥー……ハー……。すいません、取り乱しましたが大丈夫です」
「これは私達が道具や商品として、簡単に売り出せるように任務以外の情報を脳がブロックするように施されているのでしょう。だから、料理をいくら努力しても覚える事が出来ないのです」
//SE あなたが包丁を持って、メイドに握らせる音
「『出来ない事をやらないより、出来るように始めた事が大事』ですか……。陳腐な自己啓発本のセールス文句みたいな恥ずかしい台詞をよく真顔で言いますね」
//SE メイドが耳元でささやく
「私が失敗したら責任とってくださいね? ふふっ、料理の事ですよー、バカですね」
//SE まな板にネギをのせて切る音
「猫の手で……少しずつズラしながら……切りずらいですね。ああ、包丁をしばらく研いでないからです。研ぎ石は手持ちでありますが、食料の調理用包丁には使いたくないです」
//SE メイドが、ネギを切っていく音
「ジャパンのお蕎麦屋さんに行った時、あなたが無料のネギを大量に投下した事がありましたね。店員さんが慌ててテーブルのネギを取り上げて……どれだけネギ好きなんですか? ガッカリしたあなたを見て私の方が怒って店員さんを始末……いえ、ぽこぽこと軽く殴ってしまうところでした」
「こほん、七番のお客さんはネギ入れますか? ……はい、ネギマシマシチョモランマで了解しました」
//SE あなたがお玉を持ち、味噌をお玉で溶かすのをメイドに見せる音
「なるほど、お味噌はお玉の中で溶かすのですね。へぇ、ネギと一緒にすると早く溶かせるのですか? 勉強になります……と言ったところで忘れてしまうのですけど」
//SE 鍋を煮る音
「もし、私があなたのことも思い出せなくなってしまったら……殺してください。きっと身近にいるあなたを最初に始末する可能性が高いので」
//SE あなたがメイドの頭を撫でる音
「何ですか? 私は子供じゃありません……お返しにあなたを撫でてあげましょう」
//SE メイドがあなたの頭を撫でる音
「ベッドに座ってて下さいね。……不思議です、あなたとの思い出は消えずに残っているような……」
「確証はありませんが、洗脳が外れかかっているかも知れません。……味噌汁の香りをトリガーにしたプルースト効果の構築、深夜時間帯の脳の活性化低減を利用した『お味噌汁式超記憶蘇ってしまえ療法』ですか? 初めて聞く単語が適当にミックスされた、あなたのクソダサネーミングセンスに驚きました」
//SE 鍋の火を止める音
「調理完了、カップに注ぎます。味噌汁のお椀が無いので、マグカップなのは我慢してください」
//SE カップに味噌汁を注ぐ音→メイドがカップを持ってベッドに座るあなたの隣に座る音
「大変熱いですから、冷ましてあげます」
//SE メイドが、カップに息を吹きかける音
「はい、あーん。何ですか? こっちを向きなさい」
//SE メキメキとあなたの首の骨が鳴る音→メイドが耳元でささやく
「無駄な抵抗はダメですよ」
//SE メイドが、カップからスプーンで味噌汁をすくい、あなたに飲ませる音
「赤味噌を使用しているので、若干塩辛ですが……美味しいですか? よかったです。あなたを見ていたら私もお腹が空いてきました」
//SE メイドが鍋から味噌汁をすくい、ベッドの隣に座る音
「ベッドで食事をするのはお行儀が悪いのは理解しています。テーブルマナーは上流階級のターゲットに接近するのに必要な知識ですから。でも、プライベートの時ぐらいは、いいじゃないですか……」
//SE メイドが自分のカップに息を吹きかけてから味噌汁を飲む音
「ああ……五臓六腑に染み渡ります。おばあちゃんみたい? 聞き間違いでしょうか」
//SE メイドがナイフを取り出す音
「よかった。やはり、私の聞き間違いでしたか……」
//SE メイドが耳元でささやく
「悪口を言っていいのは、私だけですよ」
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