第12話 里帰り
眷属達は里の中で一人暮らしや夫婦、あるいは四、五人のグループで共同生活している者もいる。眷属は子供が生まれることが無く、自由に好きな者同士で屋敷と呼べる大きさの家に住む。
各自、メイドを一人雇って生活していける程度の給金が国から出るので、生活に困る事なくそれなりに裕福に生活している。
「魔王様、眷属の一人が果樹園を作りたいそうで、どんな果物がいいかと聞いてきていますよ」
「そうだな、この地域だとリンゴだろうな」
「大きな赤い実の果物ですわね。故郷の妖精族の国から苗を輸入いたしましょう」
「魔王様。近くの川までの道に魔獣が出るそうです。釣りに行くのに困っていると」
「道の柵を大きくしてみるか」
「町から冒険者を呼んだ方が早くないですか。冒険者用の宿泊施設もありますし」
「そうだな。町との行き来をもっと便利にする方が先か」
近くに半日馬車で走れば往復できる町があって、皆便利に利用している。俺達のお金が落ちる事もあって、その町も潤っているそうだ。
俺は里長としての仕事をしながら、ここでのんびりと暮らしている。
「ねえ、ねえ、魔王様。私、魔王様が生まれたと言う山に行ってみたいです」
そう言うリカールスにせがまれて、ピキュリアも連れて三人でマウネル山の洞窟へ行ったこともあったな。
「へぇ~、ここが魔王様誕生の地なんですね。でも相当古いですね、扉も壊れていますよ」
「ここを離れて百七十年程になるからな。まずは扉の修理をせんとな」
「洞窟の中は少し暗いですわね。ランプを点けますわね」
「すまんな。俺には見えているんだがな」
窓のある部屋は一つしかない。空き部屋も一つだけだ。
ここは涼しいから、夏の別荘代わりになるかと二人を連れて下見に来たのだが、色々と修繕せんとダメだな。
それでも景色もよく涼しくて気持ちいい場所だと言ってくれた。
その後職人を呼んで、扉の修理や洞窟内の部屋を大きくしたりと、三人が住めるように修繕をした。魔獣が近寄れないように岩の壁も周囲に築く。これなら二人を呼べるな。
「この部屋明るくなりましたね」
「窓を大きくして、ガラスを入れたからな」
「大きなベッドまで用意してくれたんですね」
「これなら三人、ゆったりと寝れるだろう」
「こっちの部屋はクローゼットと書庫ですか」
以前より本棚には古い本が並んでいたが、部屋を大きくして魔王城にあった本をこっちに移動させた。古今東西の本が取り揃えてある。
これだけ本があれば、一、二週間滞在しても暇を持て余すこともあるまい。
リカールスとピキュリアも服や靴、日用品を持ち込み生活できるようにしている。
しかし王城のパーティーで着るようなドレスまで持ち込まんでもいいだろうに。そう言うとピキュリアが反論する。ドレスは女の戦闘服、いつでも着れるようにしておくものだと言われてしまった。
ピキュリアもリカールスもダンスが得意だったな。この洞窟でも明かりを灯せばダンスできる広い空間があるし、俺もここで教えてもらおうか。たまには魔王城でダンスパーティーを開くのもいいかも知れんな。
「ここは素晴らしい所ですわね。別荘としては十分ですわ」
「魔王様。ありがとうございます。毎年ここに来ましょうね」
二人とも喜んでくれたみたいだな。俺も慣れ親しんだこの場所は気が休まる。
「そういや、メディカントは今どの辺りを旅してるんだ」
「この前、リザードマンの国の南方に広がる砂漠にいると手紙が届いてましたね」
「あれから三年、一度も帰って来ませんでしたわね。ほんと気ままな人ですわ」
冒険者仲間と楽しくやっているんだろうな。時々手紙が届くようだが、もし行方不明になっても探さないようにと言われている。どこで死ぬかもしれない旅だからと……。
自由に生きて、俺達には迷惑をかけたくないと言っていたな。
獣人の王に国を渡して七年目に、南にあったオオカミ族などの犬族が集まった自治区が独立したいと言ってきた。
「まあ、獣人の三分の一が住んでいる地域ですものね」
「別に独立しても、敵対するわけじゃないし大丈夫だと思いますけどね」
獣人の王と側近の四人、それに公爵の俺達三人が宮殿に集まって協議をする。
「で、その国は何という名になるんだ」
「はい、魔王様。ヘブンズ教国と名乗るそうです」
と、この国の王が答える。どうも宗教色の濃い国になるようだな。
アルメイヤ王国の獣人も信じている宗教で、過激な宗教ではない
「平等を謳う宗教で、前の皇国とは違いますので、眷属の方々に危害が及ぶことはありません」
まあ、危害が出るようなら俺が出向き潰すだけだがな。リカールスやピキュリアに聞いても悪い噂は聞かないと言う事だった。
「この国の負担が減る事でもあるし、独立を承認してもいいんじゃないか」
「今まで自治区として活動してますし、独立しても混乱する事もないでしょう」
「最初に友好条約を結ぶようにすれば、問題ないと思いますよ」
結局、全会一致で南部地方の独立を認める事となった。
やはり国を獣人に明け渡したことは正解だったようだな。こうやって決めてしまえば、後はこの国の官僚たちで事を運んでくれる。
「こんな事私がやっていたら、絶対倒れてましたよ」
「そうですわね。あの里での暮らしに馴染むと、どんなにお金を積まれてもやりたくない仕事ですわね」
「俺も、あの里の里長だけで十分だな」
俺は今でも魔王などと呼ばれているが、眷属が幸せなら国の運営は獣人が自由にしてくれていい。裏から支配している形だが、これも眷属のためだ。それ以外の事ではあまり口出ししないようにしている。
人間、自由にのんびりと過ごすのが一番いい。スローライフか……。このような生活が出来るのも、今まで皆で努力してきた賜物だ。この異世界で、愛する良き者と出会え安住の地が得られるとは、なんとも幸運な事だ。
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