第13話 王国内乱

 南部地方が独立して二十年余り、平和な時代が続き初代の王も位を息子に譲るそうだ。


「この眷属の里も人口が少なくなってきましたわね」

「子供が生まれないからな。仕方のない事だ」

「わたくしの研究が進まなくて、申し訳ありません」

「ピキュリアのせいではないさ。この世界の科学レベルでは難しい事なのだろう」


 眷属の寿命は六十歳程と前の世界に比べれば短い。獣人の寿命も同じようなものだが、魔素の影響か眷属は病気になりやすいようだ。

 メディカントは冒険の末、旅先で亡くなったと聞いている。残った眷属には健康でいてもらいたいのだがな。


「リカールスの病状はどうだ?」

「今のところ、小康状態です。一ヶ月ほど養生すれば元気になると思いますよ」


 長寿の元妖精族だったピキュリアは今でも元気なようだが、リカールスは病気がちになっている。ヴァンパイアの血を分け与えているが思わしくない。


「すみません、魔王様。また病気になってしまって……」

「気にする事はない。ゆっくり休めば治るとピキュリアも言っているしな」

「はい、ありがとうございます」


 リカールスの見舞いの後、王都にいる眷属から手紙が届いたとピキュリアに言われた。


「どうも東の地域がきな臭い動きをしているようですわ、その動きに鬼人族が絡んでいると」

「南の町の冒険者ギルドからも、そのような情報が入っていたな」

「はい、東から西へと非難している住民もいるそうですわ」


 王が代替わりしたこの時期に、鬼人族の国が何か仕掛けてくるかもしれんな。


「この里の防衛装備は充実していますが、眷属の数が少ないですから少し心配ですね」


 眷属と冒険者によってこの里は守られているが、国として大規模に攻められた場合、抗する事は難しい状態だ。そんな時はこのアルメイヤ王国の王国軍に守ってもらう事になるのだが……。

 王とも連絡を取り合っているが、最近は国内も少し乱れているようだな。親が優秀だからと言って子も優秀だとは限らないか。今の王は少し力量不足のようだ。


 ――その一ヶ月後。里に急報が舞い込んだ。


「魔王様! この東地方がノルキア帝国と名乗って独立を宣言しました!!」


 王家の争いに敗れた次男が、自分の勢力圏であるクマ族を中心とする王国の東側。その三分の一の領地を手中に収め独立させたようだな。

 確かに次男のほうが優れていたようには見えたが、浅はかな事をする。隣国の鬼人族が裏で糸を引いているのは明らかだ。

 簡単に口車に乗って、自らの国を危機に落とし入れてしまうとは馬鹿な王子だ。


 このまま内乱に突入すると、この里も危なくなってくる。


「ピキュリア、眷属を集めてくれ」


 集会場にみんなを集めて今後の事について相談をする。


「今この里は、独立を宣言したノルキア帝国に包囲された状態だ。ここで戦うか里を捨てて逃れるか皆で決めよう」


 ピキュリアがみんなの前で現状を説明する。


「ここは独立を宣言した支配地域とは言え、南隣の町もまだ独立国の手が及んでいません。すぐに敵が攻め込んで来ることはないでしょう」


 とは言え、戦闘になれば東の隣国である鬼人族が戦闘に加わってくるはずだ。この内乱を勝利させ、新しいノルキア帝国に影響を及ぼすのが鬼人族の狙いだからな。

 鬼人族からすれば、国境のすぐ隣にある軍事規模の大きなこの里が邪魔になるはずだ。


「ここに居れば戦闘は避けられないと思います。アルメイヤ王国に逃れたいという者はすぐにでも避難した方がいいでしょう」

「ワシはもう歳だ。死ぬならこの里で死にたい」

「ここに残れば、魔王様の邪魔になるだけだろう。みんなで避難した方がいいんじゃないか」

「いや、この里をみすみす渡すなど我慢ならん。わしはここで戦い抜くぞ」


 徹底して戦うと言う者もいる。ここは第二の故郷だからな。


「ピキュリアはどう思う」

「避難するのであれば、南の町の獣人達と一緒に行動すべきです。冒険者と共に西に避難する者達がいると思いますので。戦うのであっても、この地は守りに弱く他の場所で戦う事になるでしょう」


 国の大軍相手では、どのみちこの里は放棄するほかないようだな。

 それを聞き皆で話し合った結果、この里を放棄し避難する事になった。


「だが避難するまでここで、敵を抑えておく必要があるだろうな」

「確かに、敵は東から攻めてきますので、その防波堤は必要かもしれませんが、それを魔王様がすると……」


 王国へ逃れる街道は西への一本だけ。南と東から延びる街道を塞げば、安全に王国へと逃れる事ができる。


「皆が逃げるまで敵を押し留めるつもりだ」

「あなたは、そう言う方でしたわね。それではわたくしも残りますわ」

「魔王様。私も残らせてください」

「リカールス。お前は病気だ。皆と避難してくれ」

「もう、大丈夫です。私は最期まで魔王様と一緒ですから」


 確かに病状は安定して寝込むことはなくなっている。だが……と言ったが、リカールスは俺の傍に居ると言い張る。こいつも、こういうところは頑固だからな。

 結局俺達三人が残り、他の眷属は南の町の獣人達と一緒に、冒険者に守られながら王国に避難する事になった。


「ではピキュリアよ、できるだけ敵を引き付ける作戦を練ってくれるか」

「はい、お任せください」


 俺達は近くにある、かつての魔王城に兵器を移動させ戦力を集中する。


「ここから攻撃すれば、いやでも目立ちますからね」


 ピキュリアが予想した通り、南から帝国が、東から鬼人族が同時に攻め込んできた。多分、双方で密約でもしているのだろう。この二つの大軍をここで抑えねばならない。


「ワッハッハ! 貴様ら虫けらにこの城が落とせるのか。ここはかつて魔族が皇国軍を殲滅した土地だ。貴様らも同じ運命をたどれ」


 迫撃砲や俺の魔術で攻撃しつつ、南から迫る軍の上を飛び回り言い放つ。まあ、これは情報戦だ。だが効き目は大いにある。南から進軍してきた獣人達の動きが鈍くなっている。

 こちらはたったの三人だが、気取られないように長距離迫撃砲を撃ち続ける。里にいる少人数でも運用できるようにと迫撃砲は以前より改造されている。自動で装填から発射までできるようになっているから三人でも運用は可能だ。


「次は飛行艇を飛ばして、東の後方に固まっている部隊を狙いましょう」


 東から鬼人族の部隊が押し寄せている。そこに爆薬を乗せた飛行艇を俺が操縦し、敵のいるど真ん中で自動操船に切り替えて墜落させる。飛行艇を浮かせている水素も一緒に巨大な爆弾として使う事になる。


 鬼人族も飛行艇の存在は知っているだろうが、それが空から落ちて来て爆発するとは思っていないのだろう。空に向かい魔法攻撃する地上部隊を巻き込んで巨大な火柱が上がる。これで鬼人族側も進軍が止まったようだな。



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【あとがき】

お読みいただき、ありがとうございます。


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